第162話「エピローグ-1」
「ここは……」
俺の視界に心なしか小さくなった満月と星々が煌めく夜空が見えてくる。
「起きた?」
「ミズキ……か?」
俺は身体を起こそうとするが、魔力不足なのか何なのかはよく分からないが上手く起き上がれず、それなりの時間をかけて体を起こす。
「ゲホッ……ここは?」
「リーンの森の中にある海岸よ」
そうやって体を起こすと、いつもの仮面にフードではなく、精霊本来の姿をしたミズキが立っており、目の前にある海の真ん中にはルナシェイドの残骸と思しき物体が鎮座していた。
「一応の手当てはしたけど、流石にあれだけの量の海水を飲んだらキツいわよね」
「海水……ああなるほど」
ミズキの言葉に俺は理解する。
恐らくだが『管理者』との決着がついた時……つまりはルナシェイドが落ちた時に海水がルナシェイドの中に流れ込み、意識を失っていた俺はそれに呑まれて危うく溺れ死にかけた所をミズキに助けられたのだろう。
で、この身体のだるさに関しては普通の植物を基本とした身体の癖に海水を吸い込んだせいだろうな。ある程度はミズキがその能力で塩抜きをしてくれたようだが。
普通の人間でも海水をそのまま飲むのは自殺行為と言う話はこの際置いておく。
「で、身体は大丈夫?」
「あ、ああ……だいぶ楽になってきた」
俺は少しの間身体の状態を整えることに専念し、その間にこれからの事やミズキに聞かなければならない事を考える。
「あー、ミズキ?」
「心配しなくても下に被害は殆ど出てないわ」
「殆ど?」
「流石にパンプキンの身代わりが爆発した時の爆風は防ぎ切れなくて、こっちにも凄い突風と揺れが起きたのよ。ま、あの爆発が無ければ倒せなかっただろうからしょうがないし、私が把握している限りでは動物への被害はゼロだけどね」
そう言ってミズキが指さす方向にはついさっき出来ましたと言わんばかりの瓦礫群が有った。
此処からは見えないだろうが、恐らくは押し倒された木々も森の中には散らばっているのかもしれない。
こりゃあ、後で色々と始末を付けに行かないといけないかもなぁ……。
「それでそっちは?全部終わったって事でいいのよね?」
「ああ、多分それでいいと思う。いくつかリーン様に確認しないといけない事も有るけどな」
俺とミズキの前で海と森、それにルナシェイドの残骸から大量の魔力と光が漏れ出ると空に向かってゆっくりと立ち昇っていく。
それはまるでルナシェイドに関わった結果としてこの世に留まり続けていた様々な物が、決着がついたことによって解放されていくような感じだった。
「なら、村に行きましょう。リーン様もそこに居るはずだし、私もパンプキンも居ないせいで慌てているであろう村の皆も落ち着かせないといけないし」
「そう……だな。それで出来れば宴会にでも持ち込みたいところだな」
「飲み食いできないのに?」
「今回は流石に疲れたから、村の皆が騒いでいるのを見て癒されたいんだよ……ん?」
俺とミズキはその光景をしっかりと脳裏に焼き付けると立ち上がり、村の方へと体を向け、向けた所で木の影から見知った顔が出てきたために歩を進めるのを止める。
「パンプキン。ご苦労様」
「イズミか。悪いな。多分だけどお前の依頼主を殺した」
「別にいい。アレを使おうとしたのはイズミの依頼主の方」
木の影から出てきた少女……イズミは隣でいつもの狼を歩かせつつ、ゆっくりと俺の方に近づいてくる。
「で、どうしてここに?」
「流石に動力炉と……出来ればイズミの依頼主の遺体ぐらいは回収しておきたいから」
「そうか。その後は?」
「お世話になっている人が居るから、その人の所に帰るつもり」
「分かった。なら、その内また来るといい。マジクもウリコも俺も寿命が尽きる以外で死ぬ気はないしな」
「言われなくてもそうするつもり」
そしてイズミが俺の隣にまで来たところで二、三言葉を交わすと、イズミはルナシェイドの残骸に向かって駆け出していく。
一応、別れと言う事にはなるが、何となくだが別れの挨拶を言う気にはなれなかった。
また会える気が多いにしていたからかもしれないが。
「じゃあ、行きましょうか」
「ああそうだな」
俺とミズキはやがてゆっくりと村の方に向かって歩き始め、俺の調子がだいぶ良くなったところからは森の上を飛んでいく事とした。
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サンサーラエッグ村では村のシンボルでもあった卵形の岩が綺麗に割れていて空洞の中身が外気に晒されていた。
が、それ以外では目立った被害は無く、俺とミズキが呼びかけるとすぐに人は集まった。
「……と言うわけだ」
それから俺とミズキは何が有ったのかをその場に居た人間に話せる部分だけを掻い摘んでだが話した。
俺とミズキの話を聞いたサンサーラエッグ村の住人達と騒ぎを聞きつけてやって来ていたクヌキ伯爵の手の者及びセンコ国の諜報員は最初凄まじく驚いていた。
けれど、既に全ての事が終わっていた為にそれ以上の騒ぎにはならず、幾らかの時間が経ったところで次第に騒ぎは収まっていく。
そして俺とミズキの提案で宴が華々しく、先程とは違う意味で騒々しく始まり、その内大地の精霊王までもが何故か混ざってどうして宴をやっていたかの理由がどうでも良くなるような勢いで盛り上がっていく。
「…………」
「外に出てきたんですか」
そんな中で俺は宴の場からこっそり抜け出すと集会所の扉を開け、その中で一人佇んでいたドレス姿の女性に声をかける。
「ええ、もう隠れている必要も無くなりましたから」
「さて、改めて聞きたい事がございます。よろしいですか?リーン様」
「そうですね。今の貴方になら話せることは多いでしょう。それでは話し始めるとしましょうか」
そして俺とリーン様の話が始まった。
次話でラストです