第161話「『管理者』-3」
『墜落まで……ガガッ……残り……ザッ……一分です……ジじょ……』
「ヒュッ!」
「……!?」
ルナシェイドの艦内アナウンスが聞こえた瞬間、俺と『管理者』は同時に飛び出してそれぞれの得物を相手に向かって振るっていた。
無数の剣戟を躱す中で察するが、先程と同じくやはり総合的な実力は拮抗している。
だから俺は今までに積んだ経験を生かして『管理者』の剣を五本の黒貫丸で払い、『管理者』が牽制として打ち出した弾丸は【ガストブローG】で相殺し、出来上がった隙に対して縮めていた蔓の一本を勢いよく伸ばしながら、先端に仕込んでいた灰硬樹製の短剣に魔力を流し込んで強化し、『管理者』の顔を覆うガスマスクを切りつける。
「ちっ……浅いか」
「やってくれたな……」
だが、仕留める気で放った俺の一撃は当たる直前に『管理者』が首を動かした事によって避けられる。
そして反撃として『管理者』が無数に出していた剣の一本によって伸びきっていた蔓が切られ、続けて無数の銃口がマントの中から俺に向かってその姿を覗かせる。
「穿……ぐっ!?」
「【オーバーバースト】【共鳴魔法・結界桜】【ガストブローG】!」
銃口から弾丸が放たれる直前、俺は【天地に根差す霊王】の力で切られた蔓と短剣に魔力を注ぎ込んで【オーバーバースト】を発動して爆発させ、その爆風によって『管理者』にダメージを与えつつ後ろに向かって加速を始める。
だが、爆風によって地面に向かって動き始めていた『管理者』はマントの中から脚のような物を出すとそれを支えとして銃口の向きを維持し、その直後に引鉄を引いた結果として銃口から光が漏れはじめる。
俺は即座に回避しきれないと判断して【共鳴魔法・結界桜】による防御を行うと同時に【ガストブローG】による迎撃と【天地に根差す霊王】による気流操作で銃弾の軌道を逸らす事を試み、これらの防御手段と反撃によって銃弾は俺の身体を逸れていき、『管理者』と俺の距離は大きく離される。
「危ねえなぁ……」
「アレを防ぎきるか……」
『残り……30……』
先程の攻防によって大量の煙が巻き起こり、お互いの光を利用した視覚は封じ込められる。
尤も俺には魔力視認能力と【天地に根差す霊王】の支配能力が有るからこの程度の煙は問題ないし、『管理者』もその手の能力を持ち合わせていてもおかしくは無いだろう。
現に『管理者』が居ると思しき方向では俺の【天地に根差す霊王】に対して何かしらの干渉が行われている感じもするしな。
「……」
「……」
俺は黒貫丸モドキと四本の腕を引っ込めると本物の黒貫丸を二本の腕で構え、脚のようにした蔓を床に降ろすと何時でも飛び出せるように準備を整える。
しっかりと姿を捉える事は出来ないが、恐らくは『管理者』も同じような事をしているだろう。
『25……』
「能力が近いなら考えることも近いか……」
見た目的には何も起きていないように見える。
けれど実際にはまるでお互いの領地を食い合う様に俺も『管理者』も自身の能力を使って自分にとって都合のいいように周囲の場を調整をしつつ、逆に相手の場を乱すようにしていた。
具体的に言えば俺は【レゾナンス】と【天地に根差す霊王】によって俺の能力が及ぶ場所と及ばない場所の境界面にある魔力を高速振動させて触れた物を破壊、もしくはダメージを与えており、逆に『管理者』の方は自分の領域にある物をまるで氷漬けにしたかのように自分の領域にある物の動きを止め、その上で己にとって都合のいいように操作している感じがした。
その力は正しく『管理者』の名に相応しいと言えるだろう。
『2……ジジッ……』
「なら、これが最後だな」
俺は一度目を瞑ると意識を一点へと集中させていく。
狙うはただ一点。
刹那の瞬間。
だから今は待つ。
ただその時が来るのを待ち、その時に合わせて力を高めていく。
『1……0……』
そして地面に衝突するのが近いためなのかルナシェイドが大きく揺れた瞬間。
俺は前に向かって飛びだし、『管理者』も動き出したのかお互いの力が触れあっている場所が大きく揺れる。
『9……』
煙の中から『管理者』があの特別な剣を振りかぶった状態で現れる。
『8……』
「死ねっ!」
『管理者』が剣を横に振る。
『7……』
「【共鳴魔法・黒貫の鉈】」
対して俺は黒貫丸に水属性の魔力を流し込んで強化した状態で黒貫丸を振り下ろす。
『6……』
金属音が響き、お互いの武器の動きが止まる。
『5……』
そしてお互いに相手の得物を弾く。
『4……』
「【封印剣・スィーレル】」
「【共鳴魔法・黒貫の槍】」
『管理者』の剣から光が漏れ始めると同時に、黒貫丸に火属性の魔力が装填される。
『3……』
「ふん!」
振りの長さと身体的なスペックの差から『管理者』の剣が先に俺の頭に向かって突き出される。
『2……』
「ぐっ……」
「くっ……」
だがその刃が俺の頭に到達する直前に俺は身体の構造を崩す事によって頭の位置を床面に近づけると同時にその勢いを穂先に伝える。
『1……』
「がっ……」
「いっ……」
黒貫丸の穂先が『管理者』のガスマスクに突き刺さる。
『0……』
「けえええぇぇ!」
「あああぁぁぁ!?」
ルナシェイドのカウントが0になって俺たちが居る空間が圧潰し始めた瞬間、『管理者』の頭部を黒貫丸の穂先が貫いた。
そして轟音が鳴り響き、全てが潰れていく中で『管理者』の赤と青の眼光が煌めく顔が一瞬だけ見え、その次の瞬間には全身が消し炭の様に真っ黒に染まってから消滅していくのを視界に捉えた光景を最後に俺の意識は途絶えた。
後はエピローグです
07/03誤字訂正