第160話「『管理者』-2」
「おらぁ!」
「くくっ……」
俺が五本の黒貫丸を突き出すと同時に『管理者』も手に持っている剣を突き出し、お互いの獲物が激しく火花と金属音を散らしながらぶつかり合って止まる。
「ちっ」
「……」
どうやら俺と『管理者』の単純な筋力についてはほぼ同等らしい。
そう判断するとお互い同時に後ろへと飛んで距離を取る。
「【共鳴魔法・豆散弾】!」
「穿て……」
距離を取ったところで俺は【共鳴魔法・豆散弾】を放つが、俺の攻撃と同時に『管理者』がマントの中から大量の銃を取り出して放ってきたためにお互い物陰に隠れて攻撃を防ぐ。
「やっぱり普通の銃弾じゃないか」
着弾音が俺の耳に届く。
と、同時に俺が隠れるのに使ったコンソール様な物体が真っ白になっていく。
どういう効果が有るのかは分からないが、どういう効果にしても俺に有利な展開にはならないだろう。
「死ぬがいい……」
「うおっ!」
ここで魔力を隠した『管理者』が剣を俺に向けつつ振ってきたために俺は床を転がって回避し、反撃として黒貫丸を突き出すが『管理者』はこれを難なく回避する。
うーん。反応スピードも中々だな。
「喰らえ!」
「くくくっ……」
俺は『管理者』に接近して黒貫丸による攻撃を片っ端から仕掛けていく。
が、『管理者』も同じように接近して俺に攻撃を仕掛けてくる。
俺が黒貫丸を突き出せば『管理者』は剣でそれを防ぎ、『管理者』が剣を振ろうとすれば俺は黒貫丸で振り始めの時点で止める。
そしてそれからも剣戟が続き、剣戟の音が一切の間隙なく室内に響き始め、俺と『管理者』の放つ攻撃の余波によって周囲の構造物が次々に破壊されていき、辺り一帯に様々な破片が散らばっていく。
しかし、お互いに有効な攻撃は未だに一撃たりとも入っていない。
「面倒だな」
「面倒……」
こりゃあ、マトモにやってたら何時まで経っても終わらないな。
戦闘の経験値では俺が勝っているようだが、基礎的なスペックでは微妙に『管理者』の方が上らしい、そのせいで結果として総合的な実力は拮抗してしまっている。
となればここは小細工ととっておきを活躍させる場面か。
「穿て、穿て!穿て!!」
「おっと、【共鳴魔法・黒貫の剣・黒貫の鍬・黒貫の鎌・黒貫の鉈・黒貫の槍】」
『管理者』から大量の銃弾が放たれ、室内で白くなっていなかった場所は次々に白くなり、白くなっていた場所は次の銃弾が当たったところで砕け散っていく。
単純に考えれば一撃目で強度を下げ、二度目で破壊するのを目的とした攻撃か。
実際にはそんな単純な攻撃ではないだろうが。
そして俺は『管理者』の攻撃を回避しながら五本の黒貫丸にそれぞれ別の属性の魔力を通して黒貫丸を強化しつつ『管理者』の隙を窺う。
「おらぁ!」
「ぐう……さっきより重い!?」
やがて現れた隙を突いて俺は『管理者』に切りかかり、強化された黒貫丸の力に依って無理矢理『管理者』の剣を払い除け、更に隙を広げる。
「ぶっ飛べ」
「くっ……」
だが、ここで何か嫌な予感がしたために、俺は黒い闇属性の魔力を通して強化した黒貫丸を剣の様に扱って『管理者』を吹き飛ばすに留め、追撃を控える様にしておく。
そして吹っ飛んだ『管理者』のマントの中から数枚の札が飛んで来たのを見て、俺は勘が当たっていたのを確認すると同時に、【天地に根差す霊王】で撃ち落とすのを試みつつ急いで横に飛んで回避する。
「おいおい」
「ちっ……早々上手くはいかないか」
やがて俺は軌道が殆ど逸れなかった札が壁に当たり、当たった壁が札に吸い込まれていくのを見る。
そして周囲の壁を吸いきった札はその場で燃え尽きて消滅していく。
仮にさっきの場面で突っ込んでいたらどうなっていたのか……うん。考えるまでもないな。
「今度はこっちの番だ!【共鳴魔法・大根大剣】!」
俺は懐から大根を取り出すと黒貫丸で切りつつ共鳴魔法を発動し、強化した【共鳴魔法・大根大剣】でルナシェイドの内壁ごと切り潰すつもりで『管理者』に切りかかる。
「ふん……」
「へぇ……」
が、『管理者』が他の剣を引っ込めてから出した今までとは違う剣を振ると魔力で構成された部分が消し飛んで【共鳴魔法・大根大剣】が強制解除される。
どうやらあの剣はさっきの札に近い性質を持っているらしい。
と言うか恐らくだが『管理者』の能力は色々と封じ込める能力っぽいな。さっきの剣と言い、札と言い、効果の割に事前準備が少なすぎる気がするしな。
「ならこれはどうだ!」
「!?」
俺は五本の黒貫丸に魔力を込めつつそれぞれ別の方向に振る。
するとそれらの魔力は球体を為して飛んでいき、回避しようとして動き始めた『管理者』の直前で爆発して風と重力子、ついでに塵を巻き込んだ爆風が『管理者』に襲い掛かり、『管理者』が吹き飛ばされる。
「今のは……」
「【ガストブローG】と言ったところだな。詳しい原理を教えてやる気は無いが」
吹き飛ばされた『管理者』は何ともないと言った様子で立ち上がる。
うん。流石に有効打にはならないな。牽制としては十分だが。
「……」
俺は微かに残っているモニターの方を見る。
ルナシェイドが落ち切るまでの残り時間は……それほどないか。
「さて、時間も無いし急ぐとするか」
「コイツが落ちた所でどうこうなる私ではないがな……」
さて、お互いの手札はある程度見えたし此処からが勝負だな。
まだ続きます
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