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第159話「『管理者』-1」

「鬱陶しい!」

 散発的に放たれるルナシェイドの内部防衛機構による攻撃を黒貫丸で切り払いつつ、俺はルナシェイドのものでは無い魔力を目指して一直線に体内を突き進む。

 幸いな事にルナシェイド体内の壁は、様々な機構を仕込んでいる関係で外壁に比べれば格段に破壊しやすく、ルナシェイドの機能を落としつつ難なく目的地直前にまで到達することが出来た。


「さて、この先だな」

 俺は目の前の薄い内壁に黒貫丸の矛先を軽く当てる。


「吹っ飛べ、【共鳴(レゾナンス)魔法(スペル)・黒貫の杖】!」

 そして黒貫丸に白い光属性の魔力を注ぎ込んで魔法を発動。

 ルナシェイドの主砲の様に魔力のビームを放って壁を破壊すると同時にその先に居るはずの操縦者にも一撃を加える。

 次の瞬間、着弾点の周囲に爆音と爆風が広がり、直接ビームが当たらなくても爆風によってルナシェイドの内部機構に相当のダメージが与えられる。


「随分な挨拶だな……」

「まあ、この程度でどうこう出来る相手なわけがないか」

 が、爆風の中から声が聞こえ、俺がその先の空間に侵入した所で突如として爆風が綺麗さっぱりに消え失せる。


「お前が操縦者だな。確か『管理者』アバドモルだったか」

「そう言う貴様はさっきまで外に居た雑草か……貴様が自爆したのにコイツの体内で何かが暴れまわっていた報告が来ていたから生きているとは思っていたがな」

 そこには複数の座席が用意されており、操縦席と言うよりは管制室と言った方が正しい場所であり、殆ど壊れかけではあるが室内にあるモニターにはほぼ全身が真っ赤に染まっているルナシェイドと思しき物体のシルエットと無数の星が輝いている夜空が見えている。

 そして俺の前に立つのは、外で何故か聞こえてきた女性の声の主であると同時にイズミにルナシェイドを探すように依頼した存在……『管理者』アバドモル。

 その外見はガスマスクのような奇妙なマスクを身に付け、ボロ布のようなフード付きのマントを身に付けており、マントにはお札のような物が何枚も貼り付けられており、マントの隙間からは金属特有の光沢を放つ何かが見えている。


「さて、不意打ち気味に攻撃しておいて言うのもなんだが、これから先ずっとリーン様とこの世界に害を及ぼさないんだって言うなら見逃してやってもいいが?」

「見逃してやるだと?ハハハハハ……」

 俺は黒貫丸を肩に掛けながら『管理者』に言葉を掛ける。

 勿論警戒を緩めたりはしないが。


「これは面白い事を言うな。確かにコイツはもう駄目なようだが別に私が負けたわけでは無い……ぞ!」

「ま、そうだよな。結構面倒な力も持っているようだし」

 『管理者』から何かが高速で放たれ、【天地に根差す霊王】による重力と風の迎撃によってその何かを弾き飛ばす。

 そしてその何か……札が巻き付けられた針のような物体が俺の浮いている場所の隣にある壁に突き刺さり、針が突き刺さった壁は突き刺さった場所から色が白に変化していく。

 どうやら何かしらの魔法を付与しているらしいな。

 こりゃあ、当たったらタダでは済みそうにないな。

 ちなみに重力操作についてはルナシェイドと戦っている内にいつの間にかできる様になっていた。まあ、あれだけ重力が捻じ曲がる攻撃と、その結果として起きた現象を見ればこれぐらいは自分の身を守るためにも嫌でもできるようになる。


「ちっ、流石にこの程度の攻撃は喰らわんか」

「当たり前だ」

 自身の攻撃を防がれた『管理者』が舌打ちをしつつマントの中から金属製の剣とそれを握った腕を何本も取り出して構える。

 そしてよくよく見れば『管理者』には特別地面に着くための足が無いようで、俺と同じように宙に浮いている事も分かった。

 なんか腕を増やせたり、宙に浮いていたりと色々と被っている気がするな……。


「で、実際にどうする?ルナシェイドが壊れた今、こっちとしては退いてくれればそれで十分なんだが?」

「ふざけるな!私は『塔』の主たるお母様の娘なのだぞ!お母様の敵を討ち滅ぼすために在る私が!あの女の旗下に居る貴様に何かを乞われてそれを受け入れるだと!?そんな事が有り得るか!?有り得んわ!!貴様の望みを受け入れるくらいなら貴様を殺してあの女を独力で討つに決まっている!!」

「そうかい……交渉決裂だな」

 俺は溜息を吐きながらお母様とやらを狂信的にまで信奉している様子の『管理者』を内心で呆れながら眺める。

 何と言うか被っているとは思っていたが、流石に此処まで俺は狂信的じゃない。

 此処まで来ると色々と危ういものを感じなくもない。


「これだけ材料が有ればいけるか【天地に根差す霊王】」

 俺は周囲の魔力を吸収して自身の魔力に変換し、更に自身の魔力を元に蔓の量を増やして腕の数を多くする。

 それと同時に黒貫丸モドキの数も増やして巨大化した時のように六本の腕で五本の武器を持つ。


「くくくくく……さあ、やり合おうか……まずは貴様……次はあの女だ……」

「その前にお前は此処で終わりだよ」

 俺も、戦闘態勢に入った為なのか急にダウナーな感じになった『管理者』もお互いの武器を相手に向ける。


『勧告!勧告!損傷甚大!機体制御及び飛行不可能!修復不可能!よって間もなく当機は墜落いたします!搭乗員は急いで脱出してください!』

 そしてアラームの音と光が鳴り響き、脱出を勧める音声が聞こえる中で戦いが始まった。

ラストバトルでございます

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