第158話「『陰落ち』-6」
「違う!違う!ちがああぁぁう!」
俺はルナシェイドの攻撃を捌きつつ兵器群を破壊していく。
そして魔力視認能力でルナシェイドの身体の内を巡っている赤黒い魔力の出所を確認しようとするが……これだけの巨体を維持するためなのか複数の小核とでも言うべきものが存在しているようで、どうにも分かりづらい。
それでも妙に装甲が堅くて厚い部分が胸の辺りに有ったので、恐らくはその辺りに核が有るのだろうが。
『GURUAAAAA!!』
「おっと、んなもん当たるか!」
急な動きで俺から少し離れたルナシェイドが腕を振り下ろしてくる。
が、俺はそれを難なく避けると反撃として逆に浅く切りつけてやる。
どうにもこのルナシェイドの腕を使った攻撃は直線的で回避も反撃もし易い。
だが考えてみればルナシェイドは今まで空高く飛んでおり、こうして接近戦に持ち込まれた事が殆ど無かったのだろう。それ故に接近戦系の経験は薄いのかもしれない。
おまけに今の搭乗者の戦闘能力はそれほど高くないようだし、手動で動かしてもあまり変わりないのだろう。
「【共鳴魔法・黒貫の槍】……ぐっ!?無理か!」
ルナシェイドの胸元に接近した俺は強化した黒貫丸をルナシェイドの胸に突き刺そうとする……が、先端が僅かに刺さったところで穂先は止まってしまう。
これだけ堅いとどうやら外側から破壊するのは【共鳴魔法・核南瓜】でも厳しそうである。
『GURUGIGYAAAAAAA!!』
「っと、先に機動力を削ぐか……」
再びルナシェイドが翼を動かして急制動を行い、俺を引き離すと腕を真っ直ぐに突き出してくる。
俺は身を捩ってそれを回避するとルナシェイドの翼の根元に向かって飛ぶ。
こう何度も引き離されていると戦いづらくてしょうがないからな。翼が機動性に関わっているかは分からないが、落とせばそれだけ修復も攻撃も遅れるだろう。
と言うわけでだ。
「【共鳴魔法・黒貫の鉈】」
ルナシェイドの翼の根元に到達した俺は黒貫丸を四本のモドキも一緒に天高く掲げると青い水属性の魔力を注ぎ込んで強化する。
「ぶった切れなぁ!!」
『GIGYAAAAAA!?』
そして連打。
大量の金属音を周囲に響かせながら行われる五本の黒貫丸による連打によってルナシェイドの表面から黒い金属片や乳白色の金属片、それからよく分からないパーツ群が周囲に散らばる。
その中でルナシェイドの攻撃が時折俺の身体に突き刺さるが、実を言えば巨大化したと言っても本来はパワードスーツに近く、体内に隠れている本体のサイズは変わらないので効果は薄い。
「落ちろ!落ちろ!!落ちろぉ!!」
『GURUGAAAA!!』
やがて大量の魔力と重力場の異常、そして轟音を周囲にもたらしながらルナシェイドの翼の一つが落ち始める。
「っつ!?」
だがしかし、それと同時にルナシェイドの尾が鋭利な剣のような形に変化して俺に向かってくるのを感じ取る。
尾のスピードはかなり速い。この巨体では逃げる暇は無いだろう。
となればだ。折角大量の魔力が周囲にあるのだ。それならば……
『GAAAAA!』
ルナシェイドの尾が巨大化した俺の身体に突き刺さる。
と同時に本物の黒貫丸を手に持った俺は、残った大量の蔓に周囲に存在する魔力を片っ端から注ぎ込みつつ脱出し、ルナシェイドの傷口を抉って体内に突入する。
「急げ!」
俺は妙なパイプだの、ケーブルだのを黒貫丸で切り裂きながらルナシェイドの中を進んでいく。
どうしてこんなに急いでいるのか、言うまでもない。
「来たか!」
ルナシェイドの外壁を挟んでも分かるほどの魔力がそこには集まっていた。
そことはつまりルナシェイドの尾が突き刺さった俺の抜け殻であり、そこには大量の魔力が現在存在している。
大量の魔力を吸った俺の抜け殻はやがてその身に蓄えられる以上の魔力を吸収するだろう。
そして限界以上の魔力を吸えば当然のように……。
『GIGAAAAAA!?』
【オーバーバースト】が発生することとなる。
「ぐうっ……こりゃあ予想外だな……」
俺の抜け殻の【オーバーバースト】による爆発は、ルナシェイドの中すら大きく揺らし、歪み切ってはいたが通路のような場所に出た俺の耳には大量のアラーム音が届き、俺の目には赤いランプのような物が瞬いているのが見えた。
どうやら俺の抜け殻の【オーバーバースト】は、その質量と魔力貯蔵能力、そして黒貫丸のブーストによって【共鳴魔法・核南瓜】以上の爆発を引き起こしたらしい。
流石は俺の身体と言ったところか……とりあえず地上に対して何か問題が起きていないと良いなぁ……ルナシェイドの変な魔力を使ったから重力場の乱れとか起きてそうで怖い。
「まあいい、動力炉と操縦席は……」
俺はルナシェイド内部の通路で周囲を見渡し、ルナシェイドの魔力が大量に集まっている場所とルナシェイド以外の魔力が存在している場所を探す。
そして見つけた所で一考。
うん。動力炉を壊すのはヤバい気がする。ルナシェイドの製作者がブラックミスティウムの欠片に仕込んでいた罠を考えると、迂闊に動力炉を壊したらその瞬間に世界がぶっ壊れる規模で爆発したりしそうだ。
「よし、操縦席に急ぐか」
そう判断した俺は、法則の差なのか妙に体に纏わりつく空気と魔力を感じつつ操縦席に向かって移動を始めた。
南瓜の分身のサイズと魔力許容量的に爆発なんてレベルでは済まない現象が起きている気もします。
ロウィッチの交渉のおかげで結界の強度が上がっているので地上への影響はだいぶ薄れていますが