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第157話「『陰落ち』-5」

「だらっしゃあぁ!【共鳴(レゾナンス)魔法(スペル)・黒貫の鎌】」

 俺はルナシェイドから放たれる攻撃を無視して接近すると、巨大化した上に黄色い風属性の魔力を通して強化した黒貫丸を振ってルナシェイドの表面上にある兵装の射出口を幾つか同時に切り裂いて破壊する。

 流石にさっきまでの人間とノミのようなサイズ差から、巨大化して人間とネズミぐらいのサイズ差になれば多少は攻撃が通るらしい。

 巨大化してもこれだけのサイズ差がある辺りに色々と突っ込みたい気もするが。


「ついでに吸収……ぐっ……」

 そして俺はルナシェイドの傷口から漏れ出た魔力を【天地に根差す霊王】で吸い取ろうとするが、どうも普段より吸い取りづらく、吸い取っても俺自身の魔力に変換しづらい。それどころか微妙に胸焼けみたいな感じもする。

 ただ考えてみればルナシェイドはこの世界の外で造られた兵器なのだから、ロウィッチが扱っていた商品の様にこの世界では成立しないはずの法則で動いていてもおかしくはなく、その法則差が原因で吸収しづらいのだろう。

 それでも戦力差を少しでも埋めるためには吸収するしかないが。


『GURUOOOOON!』

「ちっ……!?」

 ルナシェイドの腕が迫ってきたために俺はルナシェイドの身体から飛び退き、続けて明らかに先程までの使っていた槍などよりも威力が上であろう円筒形の物体……と言うかミサイルが幾つもルナシェイドの身体から発射されて俺に向かって飛んでくる。

 数は……数えるだけ無駄だな。少なくともこの巨体と黒貫丸一本でどうにかできる量じゃない。


「何でも有りだな!こっちもだけどよ!!」

 ただ今の俺には先ほどルナシェイドから奪った大量の魔力がある。

 なのでその魔力を使って身体の一部を急速成長、腕を六本にまで増やすと同時に黒貫丸モドキの武器を四本生み出してそれぞれの腕に持たせる。


「行くぜオラァ!」

 そして俺に向かってくるミサイルを切り払い、後方で爆発するのを感じながら再びルナシェイドに接近して五本の黒貫丸で手が届く範囲にある兵器の射出口を切り刻みつつ翼の一本に向かって高速で移動する。

 やがて俺は六つある翼の付け根の一つに到達するが、その瞬間に悪寒を感じたので悪寒の出所を見ながら急速上昇する。


「来るか!?」

 悪寒の出元はルナシェイドの頭部、そこには赤黒い魔力が小刻みに振動しつつ魔力可視化能力が無くてもはっきりと見えるほど集まっており、その矛先はしっかりと俺に向けられていた。


『チャージ完了……グラビトンカノン発射』

「っつ!?拙い!!?」

 そしてルナシェイドからの音声が聞こえた瞬間に俺は夜空を横断するような形で今出せる最高のスピードで移動を始め、その次の瞬間には俺が居た場所を巻き込むように膨大な量の赤黒い光が放たれる。


「ぬおおおおおっ!」

 だが、ルナシェイドの攻撃はそれで終わらない。

 あろうことか光線を放ったまま俺を追いかける様に首を動かしてきたのである。

 しかも、光線が一度通過した場所では妙な魔力が残留していてその先の空間が歪んで見えている。誰がどう見ても何かの仕掛けが施されているのは確かだった。

 同時にこんなふざけた代物を何度も撃たれたり、地上に向かって撃たれては堪らないと考えて俺はルナシェイドの頭部に向かっての突撃を始める。


「間に合え!【共鳴(レゾナンス)魔法(スペル)・黒貫の槍】!」

『GA!?GUGYAGAAAAAAAA!!?』

 迎撃として放たれたミサイル群を切り払いつつ俺はルナシェイドの頭部に肉薄し、光線が俺に到達する一瞬前に赤い火属性の魔力を通されることによって貫通力を増した黒貫丸をルナシェイドの頭に突き刺す。

 ついでにおまけと言わんばかりに四本の黒貫丸モドキでルナシェイドの首をズタズタに切り裂きながら胸元に向かって俺は移動するが、胸元に到達すると同時に上から空間を歪ませつつ大量の魔力が混じった爆風が襲い掛かってきたために俺は再びルナシェイドの身体から離れて距離を取り、その状態を観察する。


『損傷……HAI……把握……GEI……迎撃をしつつ、JI……自己修復を開始します』

「まだ普通に動くのかよ……」

 俺はルナシェイドの全身から散発的に飛んでくる攻撃を弾きながら思わず呻く。

 ルナシェイドは竜を模した頭部を失っていた。

 だが、破壊した表皮の兵器群を含めて傷口の部分が奇妙に蠢いており、今聞こえてきたアナウンスも考えれば壊れた部分を修復しようとしているのは確かだろう。

 進化する兵器とは聞いていたが、どうやら核に当たる部分を破壊しない限りは倒した事にはなら無さそうである。

 おまけに先程の主砲の影響はまだ残っているようで、一部の空間は未だにその先の景色が歪んでいた。

 うーん……出発前にロウィッチが重力操作能力とか言っていた事や、その空間に入り込んだルナシェイドの攻撃(オートよりはマニュアル臭のする攻撃ばかりだが)が妙な方向に逸れ易い事を考えるとあの空間は重力がおかしくなっているのかもしれない。


『HAHA……発射』

「やばっ!」

 と、ここでルナシェイドから放たれるミサイルの毛色が変わる。

 具体的には単純に爆発する形から少し離れた場所で小爆発を起こした後に細かい爆弾をバラ撒くタイプ……所謂クラスター爆弾に近い形式に。


「ああくそ!戦闘中にも相手に合わせて普通に進化すんのかよ!」

 恐らくはこちらに対して確実に手傷を負わせるためであろう変化に俺は愚痴りながらも観察を止めて再びルナシェイドに接近を始める。

 てか、戦闘中にも進化するとなればゆっくりとやり合ってる暇は無いな。急がないとこっちの手札を全部晒す事になり、それらへの対策を練られて手詰まりになる。

 そして俺は少しでも相手の修復を遅らせると共に、核となっている場所を探し当てるための攻撃を始めた。

そりゃあもちろん戦闘中にも進化いたします


07/08誤字訂正

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