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第153話「『陰落ち』-1」

 イズミが例の兵器の居る場所について調べ上げた日からおよそ三年。

 その時がついにやって来た。

 俺はアベノ先生の結界によって外部から隔絶されているこの場に集まっている面々の顔を改めて見る。


「そうそうたる面々ね」

「相手が相手だから」

「しょうがないの」

「であるな」

「確かにな」

「えーと、どうして私がここに?」

「ムー?」

 此処……大地の精霊王の居城である樹の根元に現在居るのは水の精霊王であるミズキに風の精霊王、大地の精霊王、炎の精霊王、そのパートナーである竜のアンマ、俺の妹であるウリコ、そのパートナーであるムツメクチタケモドキのムーちゃん、そして俺こと『天地に根差す南瓜の霊王』の魂を継ぎし魔法使いパンプキン。

 ちなみにイズミは月に行く方法の最終調整中で、調整が終わり次第此方にくる予定である。


「とりあえず、ロウィッチが残してくれた仕掛けについて説明しておくぞ」

「まあ、私たちに対して特に関わりが有るのはそっちだものね」

 俺はこの場に居る面々に対してロウィッチが居なくなる前に仕掛けてくれた上空での戦いの余波が地上にまで及ばないようにするための仕掛けについて説明する。

 ロウィッチ曰くこれで破壊神の腕との戦いの時に俺が使った【共鳴魔法・滅天】も数発なら確実に防げるらしい。


「ただ、起動には大量の魔力が必要になるらしいからな。そこはミズキたちに頑張ってもらうしかない」

「心配しなくても四属性の精霊王が揃っていて魔力が足りなくなるってのは有り得ないわよ」

「まあ、操れないのは光と闇ぐらいだな」

「その光と闇もお主と知り合いでないからこの場に居ないだけだしの」

「まあ、事が始まれば確実に協力はしてくれるであるな」

「すまん。助かる」

 俺の言葉に対してミズキたちは全員どうってことは無いと言った顔で返事をしてくれる。

 いずれにしてもこれで地上の心配はしなくても問題ないだろう。ミズキたちの護衛としてはアンマが動いてくれるらしいし。

 で、仕掛けについて話したところでミズキ以外の三人の精霊王が今までに見てきた例の兵器について一応聞いておく。

 今もそれらの兵器が搭載されているとも限らないし、兵器の性能がグレードアップされている可能性もあるが、それでも聞いておいて損は無い。心構えがあるだけでもいざって言う時の反応スピードに差が出るからな。

 そしてその辺りの話について一通り話し終わったところで、この後に備えて一息吐きたい所ではあるのだが……


「じゃあ、後はイズミって子を待つだけ?」

「いや、その前に幾つか聞いておかないといけない事がある。この先聞ける機会が有るかは怪しいしな」

 その前に俺には聞かなければいけない事がある。

 戦いに備えて迷いは可能な限り消しておくべきだからな。


「ん?どうしたの?お兄ちゃん」

「ムー?」

 俺は立ち上がるとウリコの方を向く。

 さて、本音を言えばこんな事は頼みたくないんだけどな。だが、俺から呼びかける手段がこれしかないのだからしょうがない。


「ウリコ。リーン様を呼んでくれ。多分すぐ近くに来ているはずだから」

「……。分かった。ムーちゃん、場の整備よろしく」

「ムー!」

 俺の頼みを聞いたウリコは目を瞑ると瞑想状態に入り、ムーちゃんは【トランサー】の能力を使ってウリコの周囲にある魔力の濃度を調整してリーン様に繋げやすくする。

 これは正しくウリコを巫女とした一つの儀式であり、荘厳な空気が周囲に漂い始めている。

 そしてしばらく時間が経った後にウリコが目を開くが、その瞳に宿る光は明らかにウリコのものでは無かった。


「お久しぶりです。リーン様」

「『久しぶりですね。パンプキン。何か聞きたい事が有ったようですが?』」

 ウリコの口を借りる形でリーン様が言葉を紡ぎ始める。

 本人ではなくウリコの体を借りて出てくる辺り、こちらの考えを読まれているのかもしれないな。

 だが、それを気にしていては話が進まない。


「ええ、リーン様。貴方には問わないといけない事が有ります。そして返答次第ではあの月よりも先に貴方を討たざるを得ないかもしれません」

「「「!?」」」

 だから俺は黒貫丸の刃先をウリコの……否、その先に居るリーン様の首筋に突きつける。

 そんな俺の行動にミズキたちが一瞬驚き、その直後には俺を止めようとして動こうとするがその前に俺の【天地に根差す霊王】とリーン様の手によって制止させられる。


「リーン様。正直にお答えください。貴方が何故自身の手であの月を落とさないのか。何故、俺やウリコ、賢鳥のような存在に力を与えて戦わせようとするのか。何故貴方があの月に狙われるのか。そして貴方が目指すものが何なのかを」

「……」

 俺はリーン様をまっすぐに睨み付けながら問いを投げかける。

 思えば前々からずっと疑問だったのだ。

 リーン様から受け賜った杖には莫大な量の力が秘められていた。ならばその力をあの月に向ければ、リーン様単独でもあの月を落とすことが出来たのではないかと。

 勿論、相性や得手不得手の話もあるだろうし、理由は分からないが狙われている人間が表に出るわけにはいかないと言うのも有るかもしれない。

 だが、これまでの付き合いで何となくだがそれは違う事が分かっている。

 そしてもっと分からないものと言えばリーン様自身の目的だ。

 何故リーン様は様々な世界から魂を集めて運命を克服させようとするのか。

 無償の奉仕だと思えればそれでも良かったのだが、そこにも何か裏があるような気がしてしょうがないのだ。

 だから俺はそんな自身の疑念を晴らすために問いかけたのだ。


「お答えください。リーン様」

「『私は……』」

 そしてリーン様は言葉を語り始めた。

ラストが近づいてまいりました

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