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第150話「幻想憎悪-2」

「っつ!?」

『『『ーーーーー!』』』

 俺が咄嗟に上に飛んで回避すると共に、シルエットの集合体の口が噛み合わされて歯に巻き込まれたシルエットたちが黒い血を流す。

 と同時に集合体を構成するシルエットの無数の口が俺に向かって侮蔑の言葉と思しきものを思い思いに叫び上げる。

 【天地に根差す霊王】で遮断する対象を色々と切り替える事で無理やり排除しているが、こりゃあ長引かせると流石に精神へ異常を来しかねないな。


「やるか……」

『『『ーーーーー!』』』

 俺は天地の間に走るものであると同時に、五行の木気に属するために俺と相性が良い力……雷を両腕の間に発生させる。


「落ちろ!」

『『『ーーーーー!?』』』

 そして俺の下でこちらを窺っていた集合体に向けて自然界の雷よりも更に出力が上がっているそれを落とす。

 すると、集合体はシルエットの一体一体が雷によって痙攣を起こし、別々に動くためにその形を大きく崩す。


「うげっ……」

『『『ーーーーー!!』』』

 が、完全に崩れ切る前に電撃を集合体の一部に集め、そこに居た人間の男性型シルエットの肉体が粉々に弾け飛んで焼け焦げる事によって被害を最小限に抑えると同時に全体が死滅することを防ぐ。

 にしても【天地に根差す霊王】で防御しているから俺は良いが、解除したら肉の焼けた匂いも含めて相当酷そうだ。どうにも弾け飛び方を調節してわざとグロく弾け飛んだようだし。

 こりゃあ、兵器が設定したと言うよりは兵器の製作者が仕込んだ罠の可能性の方が高くなった気がするな。これは人間的な思考を持っていないと積もうとは思えない仕掛けだ。


『『『ーーーーー!』』』

「空中戦……いや、そもそも空も地もお互いに気にするような存在じゃないか」

『『『ーーーーー!?』』』

 集合体がその姿を鳥の様に組み替えて飛び上がってくるが、俺は虚空から石柱を呼び出して撃墜し、追撃として石柱の進行方向に地面を作って潰す。

 これで直接潰された部分についてはもう用を為せないだろう。


「お次は……と」

『『『ーーーーー!』』』

 石柱に潰されなかったシルエットたちが四方八方に散らばって逃げていく。

 その際に何かを叫んでいるのは分かったが、どうせ俺の命をもって贖えとかそう言う言葉なので無視する。

 だって動物たちの叫びはこの罠を仕組んだ者が設定したものだろうし、人間型の奴らは実際に居た連中の考えを元にして作られている可能性はあるが、俺が把握している限りでは俺が殺した人間はどいつもこいつも何かしらの形で他者を害そうとしていた者たちだった。

 故にシルエットたちの怨みは正当な怨みではあるが、受け入れてやる気はない。

 と言うわけで俺は虚空から大量の水を呼び出して大量の電気を流しつつシルエットたちに向けて投下、まとめて感電させていく。


『『『ーーーーー!!』』』

「知るかボケ」

 俺の眼下ではシルエットたちが悲痛な叫び声とともに何かを喚き散らしている。

 だが、そんなものを聞く気はないし、手加減してやる気も無い。


 俺は聖人ではないし、ましてや全ての命を救い上げたいと言うような考えは持っていない。

 俺は俺が助けたいと思ったものを助け、願いを叶え、救済するだけだ。

 故に十の悪党を殺して一の善人が救われるなら十の悪党を殺すが、千の善人を殺して一の助けたいものを助けられるなら俺は千の善人を殺す。

 これが自分勝手で傲慢な考えである事は否定しない。事実だからだ。


「だが、それの何が悪い……」

 俺は頭上に光を集めて目が潰れそうな程に眩い光球を作り上げる。


「救える者は救おう。だがな、救いを与えたくない者にまで救いを与えてやるほど俺は甘い考え方はしていない」

『『『ーーーーー!!』』』

 散らばっていたシルエットたちは再び一か所に集まって今度は半骸骨半人間のような集合体を形成する。

 その姿は己が犯した罪を顧みず、末後に至るまで生に執着しようとする人の怨みを形にしたようなおぞましい姿だった。

 集合体が俺を握りつぶそうと手を伸ばし、俺の近くにまで来たところで手を形成するシルエットたちが俺に向かって何かを叫びながらそれぞれに手を伸ばしてくる。


「燃え尽きろ」

『『『ーーーーー!?』』』

 だが、その手が俺に触れて俺を引き摺り込もうとする前に光球から熱線が放たれて集合体の腕を焼き払い、その炎から逃れようとするためなのか集合体は腕を切り離すと、残った部分を端から崩しつつ大きな口を開けて俺に向かってくる。


「往生際が悪い!」

『『『ーーーーー!!?』』』

 だが、その口が俺に到達する前に【天地に根差す霊王】で魔力を巨大な手の形にし、集合体の頭を鷲掴みにする。


「お前ら全員死んだことを理解しているんだろうが!死んだ事を理解しているのなら……」

『ガッ!?』

 それでもなお、形を崩しながらも俺に到達しようとするシルエットたちに対して俺は魔力の手を細かく分けて、逃げ出そうとしていた者も含めて全てのシルエットの頭を鷲掴みにしてやる。


「とっとと生まれ変わって、もう少しマトモに生きろや!【オーバーバースト】!!」

『『『!?』』』

 そして俺は鷲掴みにした部分からシルエットたちにありったけの魔力を普段よりも鋭い感じで流し込み、俺に近い者から順々に【オーバーバースト】によって消し飛ばしていく。

 俺が言ったことについては……ここが精神世界で、彼らが現実の存在でない事は分かってはいるが、それでも思わずそう言いたくなったので言っただけの事である。

 で、ここまで言ったのならその先も言っておくべきだろう。


「次の人生で縁が有れば助けてやるよ。じゃあな」

 やがて辺りの空間が再び歪みだし、それに合わせる形で俺の意識も少しずつ埋没していった。

 てか、これで良かったんだよ……な?

南瓜には効いていませんが、普通の人間が嵌れば本来は即時発狂ものの罠なのですよ……


06/22誤字訂正

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