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第148話「サンタック島-5」

『とりあえず、小娘の枝に設置した状態にしたであるから、これを冷やす事によって最終調整をするである』

『頑張れ。その時が来たならば微力ながら手伝うとしよう』

 そう言われて未だに手で持てない様な熱を放っている金属と、アンマの鱗を数枚土産に貰った俺はサンタック島から海を越えてリーンの森に戻って来ていた。

 とりあえず鱗に関しては一、二枚はサク皇太子殿下とかに渡しておくか。共鳴魔法の触媒にしようと思ってもまず間違いなく炎属性だから相性悪いだろうし。


「と言うか、この先一番の問題はどうミズキに協力を仰ぐかだよなぁ……」

 で、目下の難題はこの金属の最終調整をするにあたってはミズキの協力が必須なのだが、協力してもらうとなれば契約についても伝えなければならず、その件についてどう説明すればいいかが本気で分からない事である。

 と言うか結婚……結婚って……他に何か穏便な表現は無かったのか!?


「ああ、着いたか」

 と、何時の間にやらサンサーラエッグ村に着いたので俺は集会所の前に着地し、そんな俺の姿を見かけたからなのかゴーリキィが村の中央通りの方から走ってくる。


「ゴーリキィか。どうした?」

「ミズキ様から連絡。湖の方に来てくださいだそうでス」

「湖……アキューム湖か?」

「いエ、スパルプ湖の方でス」

「ん。分かった。直ぐに向かう。ああ、そうだ。これ土産だから俺の家にまで運んでおいてくれ」

「分かりましタ」

 俺はゴーリキィにアンマの鱗が入った袋を渡すと宙に浮き、スパルプ湖……かつて俺とミズキがエントドラゴンと戦い、俺の【共鳴魔法・核南瓜】によって出来上がっていつの間にか名前がついた湖へと向かう。

 ゴーリキィの伝言のタイミングが良すぎることを考えるとリーン様からミズキへと何か連絡が有ったのかもな……。

 まあ、行ってみれば分かる事か。

 そして、森の上をしばらくの間飛んだ俺の視界に普段よりも遥かに濃い魔力が集まっているスパルプ湖と俺に背を向けて湖の中心に立つミズキが入り、俺は静かに波紋一つ立てず水面に立つ。


「来たのね。パンプキン」

「ああ、ゴーリキィから此処でミズキが待っているって聞いてな」

 ミズキが振り返る。


「リーン様から言われたわ。いつの間にか私とパンプキンの間に契約が成立してたんだって」

「俺も炎の精霊王から同じことを言われた。で、コイツの最終調整は『お主が契約している精霊』……つまりはミズキと一緒にやれだってさ」

 俺はミズキに向かって水平に大地の精霊王の枝とその先に付いた金属を構えて見せる。


「ふうん。パンプキンの要望に合わせる形で冷やせばいいのかしらね?まあ、歴史に残りそうな物の最終調整に関わるなんて水の精霊王としての初仕事としては相応しいかもね」

 ミズキは俺の持っているそれを前にして何処か不安げな、けれどそれを覆い隠すように自信に溢れた笑みを俺に向ける。

 てかあれ?今ミズキが聞き捨てならない事を言った気がするんだが……始める前にちょっと聞いておくか。


「水の精霊王って誰が?」

「私が」

「ミズキが」

「そう」

「……」

 俺の確認に対してミズキは自身の顔を指さし、俺はその事実を認識するために沈黙。


「えっ!?何時の話だよそれ!?」

 そして現状を認識した所で俺は思わず驚きながらミズキを問いただす。


「失礼ねぇ……ついさっきリーン様から契約について教えられた時に一緒に言われたのよ。何でもパンプキンと契約した影響で今居る水精霊の中で一番力が強いのが私らしいのよ。だから今後は私が水の精霊王らしいわ」

「はぁー……」

 何と言うか……納得はするが情報量が多すぎて頭がパンクしそうである。


「と言うか私の水の精霊王就任よりも、今大事なのはそっちの最終調整でしょうが」

「ああうん。悪い。ちょっと待ってくれ。頭の中身を切り替える」

 ただまあ、ミズキの言うとおり今重要なのは俺が手に持っているこれの最終調整だ。話したい事が有るなら、また別のタイミングで話せばいい。

 と言うわけで俺は宣言通りに頭の中を切り替えて集中する。


「さてと、そっちの準備も整ったみたいだから作業手順を説明するわよ」

「おう」

「まずは金属が付いている方を下に向けて持ってくれる?」

「分かった」

 俺はミズキの指示通りに金属の方を下に……湖面に向けて持つ。


「これから私がこのスパルプ湖の水を使ってその金属を冷やすと同時に、パンプキンの思念を読み取ってそれを反映させるわ」

「つまり俺の考え方で形や性能が変わるって事か?」

「そう考えてもらって構わないわね。ただ、その金属にしろ、大地の精霊王様の枝にしろ莫大な量の力を秘めている事は確かよ。だから冷却の際には恐らくだけどそれらの力が幾らか暴走する事になる。そして私にそれを抑える力は無い」

「となればそれを抑えるのも俺の役目か。まあ、読み取りの方が自動なら俺はそっちに集中できるな」

「ええ、読み取りについては私がやるから心配しなくてもいいわ。けど注意してね。どれだけの暴走が来るのかは私にも読めないから」

「分かった。なら全力でやらせてもらうとしよう」

 俺は普段抑えている魔力と【天地に根差す霊王】を全力で展開した状態で構え、ミズキが両手を前に出すと同時にスパルプ湖の水が渦を巻き始める。


「さあて、鬼が出るか蛇が出るか……」

「いずれにしても一発勝負……」

「さあ行こうか!」

「ええ!」

 そしてミズキの操るスパルプ湖の水が金属に触れた瞬間、辺り一面が濃厚な霧に包まれると同時に何時か聞いた覚えがある雄叫びが俺の居る場を空間ごと揺らしたのを俺は感じた。

ミズキが水の精霊王に就任しました。


06/20誤字訂正

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