前へ次へ
146/163

第146話「サンタック島-3」

 俺はブラックミスティウム、宝玉付きの針、大地の精霊王の枝を見せながら『陰落ち』とそれを起こしている兵器について分かっている事、そしておおよそ二年半後には俺がその兵器と戦って破壊しようとしている事を二人に話すと共に、その兵器と戦う上で少しでも戦力を増しておきたいが為に今見せている三つの素材とサンタック島で採れる金属を組み合わせて杖を作りたいと言う事を話す。

 ついでにこうして話している間に分かったが、どうやらアンマもガントも『陰落ち』自体については俺よりも遥かに長く生きているので知っているようだが、その正体が何者かによって造られた兵器と言うのは知らなかったようだ。

 まあ、それについてはイズミ(もしかしたらリーン様もだが)ぐらいしか知らなかったであろうからしょうがないと言えばしょうがないな。


「ふぅ……とまあ、こんなわけだ」

 そして、一通り喋ったところで俺は結界を解除して一息つく。

 俺の話を聞いた二人は渋い表情をしている。が、何を考えているかまでは流石に読み取れない。


「事情は分かった。それなら力を求めるのも理解できる」

「ただ、もう二つほど聞かせてほしい話が有るである」

「何だ?」

 二人は幾度かお互いに目配せをした後にこちらを真剣な眼差しで見つめてくる。


「パンプキン。君には守るべき者が居るか?」

「パンプキン。お主は事を成し遂げた後に得た力をどうするつもりであるか?」

「…………」

 二人の言葉に俺は一時の間静かに黙考する。

 そしてこの世界に生まれてから今に至るまでにあったことを頭の中で振り返っていく。

 そうすれば心の中で自然と答えが湧き上がってくるのが分かっていた為に。

 やがて俺は口を開く。


「守りたい相手なら数え切れないほど居る。そいつらを守りたいと思ったからこそ俺は今ここに居るわけだからな。ただ力に関しては……すまないが何とも言えないな。アレが兵器である以上は造り出した者が居る事になる。その誰かの行動次第では力を捨てるわけにはいかなくなる。それでも力を得た者の責任として後始末はしっかりとつける」

「「……」」

 俺の答えを二人は静かに聞き納める。

 そして再びの目配せ。

 何と言うか、よくもまあ視線だけでそこまでの意思疎通が出来るものだよなぁ……呆れを通り越して感心する。


「アンマ……吾輩は……」

「皆まで語らなくてもいい。私も同じ気持ちだ」

「分かったである」

 と、二人の結論が出たらしく、ガントが立ち上がる。


「その金属と宝玉を持って付いてくるである」

 そしてガントはそれだけ言うとアンマの陰に隠れて見えていなかった洞窟の更に奥の方へと続く道に消えていく。

 俺がどうしたものかと思ってアンマの方に顔を向けると、俺の意図を察したのかアンマが口を開く。


「多少昔話になるけどね。かつての私たちもアンタと同じようにその兵器と戦ったのさ」

「!?」

 アンマのその言葉に俺は驚きを露わにする。

 いや、だがしかし今もアレが有ると言うと事は……。


「結果は惨敗。生き残ったのは私とガントを含めてほんの僅かだった。当時の奴は今と比べれば遥かに弱かったはずなのにね。それから私たちは奴から逃げ隠れる様にこの島に住むようになった。我が祖もそんな私たちの行動に対して何も言わなかった。優しすぎる方だったから傷ついた私たちの姿に耐えられなかったんだろうね」

 アンマは大昔に起きたそれを懐かしむようにどこか遠くを見つめながら語る。

 それにしても……アンマの言う我が祖ってのはリーン様の事か?リーン様って普通に人型だった気がするんだが……まあ、今は気にしないでおいた方がいいか。


「今の竜たちは私たちが何故生み出されたかも知らない。けれど、私とガントはその何故を知っているからこそ、その夢を……いや、悲願をいつか誰かに叶えて欲しいと思っていたのさ。何百年、何千年とね」

「……」

「そして今、誰かさんを私たちの後を継ぐに相応しいと認めただけの話だ。そら、早い所行ってやりな」

「あ、ああ……」

 そこまで言ったところでアンマはただ首を動かして俺を洞窟の奥へと向かう様に指示を出すだけになった。

 どうやら質問に答える気などは無いらしく、後はもう行くしかないらしい。

 そして俺はガントが消えた道に向かって移動を始めた。



--------------



「すげぇ……」

 道をしばらく進んだ先に広がったその光景に思わず俺はそう言ってしまう。


「遅かったであるな。ここが吾輩の炉である」

 その光景の中心で胸の前に腕を組んで浮いていたガントが胸を張りながら自信を持ってそう言う。

 だが、そんな態度を取りたくなる気も分かる。

 ここはまさに炉だ。それも炎の精霊王が管理しているのだから世界最高レベルの炉と言ってもいい。

 けれど、余人では立ち入る事すらできないだろう。

 何故ならここは膨大とも言える大地の力を直に余すことなく利用することが出来る炉……そう、火山の火口なのだから。


「さあ、お主が持ってきた二つの素材を吾輩に渡すである。さすれば完成の一歩手前までは吾輩が仕上げてやるである!」

「あ、ああ……」

 そして俺がガントにブラックミスティウムと宝玉付きの針を渡したところでそれは始まった。

火山の火口が炉と言う豪華な仕様でございます。


06/18誤字訂正

前へ次へ目次