第145話「サンタック島-2」
翌朝、俺は昨日会った黄色い竜に先導される形でサンタック島に入った。
島の中に入るとそこら中から硫黄の匂いがし、俺の姿を一目見たいと思ったであろう竜たちが時折だが岩陰から顔を出してこちらの様子を窺ってくる。
中には血気はやって俺に向かって攻撃を仕掛けてくる竜もいるが……まあ、【天地に根差す霊王】で防いだ後にカウンターで【共鳴魔法・ネムリ草】を使えばお終いでございます。
前は【共鳴魔法・ネムリ草】で竜を眠らせるとか絶対に無理だったんだけどな。やっぱり【天地に根差す霊王】による底上げは強力だわ。
「着いたぞ」
「どうもー」
と、しばらく飛んでいる間に目的地に着いたようなので俺は適当な地面に着地する。
「この洞窟の中に入ればいいのか?」
「ああそうだ。それと案内はここまでだ。この先は貴様一人で行け。では私は失礼するぞ……全く何故アンマ様もだがガント様も南瓜如きと……」
「あいよー」
俺を案内してきた黄色い竜はそう言うと何かを愚痴りながら翼を動かして何処かに飛んでいく。
どうやら、当人の言葉通りここからは一人で進めと言う話らしい。
ただ洞窟の中からは……強烈な硫黄臭に熱気、加えて大量の魔力も漂ってきている。
中がどうなっているかは割と考えるまでもない気がするなぁ……まあ、行くしかないから素直に行くんだが。
そして俺はゆっくりと洞窟の中に入って行った。
------------
「へぇ……こりゃあ凄い」
暗い洞窟の中をしばらくの間歩き続けていると、やがて洞窟の先の方が赤く輝き始める。
そして、その赤い光の源が視界に入ったところで思わず俺は驚きの感情を口にする。
「来たか」
「そのようであるな」
そこは壁の全てが黒い岩に覆われており、床には所々であるがマグマが流れていて、その熱と光によって洞窟の中が明るく照らし出されていた。
だがそれ以上に驚くべきはその空間の奥に鎮座する二人……いや、その性質からすれば一匹と一柱と称した方が正しいのかもしれないが。
「さて、まずは自己紹介であるな。吾輩はガント。炎の精霊王である」
自己紹介をしながら眩いばかりの光を発する赤い魔力で全身が構成された男性がお辞儀をする。
何となくだが職人気質な感じがする。
「私の名はアンマ。此処、サンタック島の竜を統べる者だ」
続けて、全身が黒い鱗によく似た別の物に覆われた竜が俺の方を優しげに見つめながら口を開く。
鱗の隙間から紅い光が時折漏れることを考えると闇属性と言うよりは火属性……それもマグマを司るような竜っぽいな。
「ご丁寧にどうも。魔法使いパンプキンだ」
で、相手が名乗った以上はこちらも名乗るべきだと判断して俺も出来る限り丁寧に自己紹介と礼をする。
「【天地に根差す南瓜の霊王】殿では無くてか?」
「!?」
アンマと名乗った竜の言葉に俺は驚きとともに警戒心を顕わにする。
何故ならそちらの二つ名を知っている存在は非常に限られるからであり、サンサーラエッグ村の外でその名を知っている可能性がある存在となれば片手で数えられる程しか居ないはずである。
「そう警戒をする必要はないである。吾輩もアンマも正面どころか不意討ってもお主には勝てないであるからな」
「ああ、私はただ単に我が祖から話を聞いただけに過ぎない。だから余計な警戒は解いてもらえると助かる」
「我が祖……?まあいい、害意が無いならそれで問題はない」
俺は二人の言葉に多少の疑問を抱きつつも必要最低限の警戒を残して気を緩める。
床にはマグマが流れているが、今の俺なら一定レベル以上の熱は弾くようにすることは何の問題もなく出来るからマグマの上にも躊躇いなく座る。
「用件はコイルーキから聞いている。鉱石と炉だったな」
「ああ。話が伝わっているなら話が早くて助か……」
「聞いているのはそこまでである。どんな鉱石を求めているのか、何故炉を求めているのか、それに吾輩の炉で作ったそれをどうするのかと言う肝心の話は何一つ伺っていないである。故に返答次第では吾輩たちの存在意義にかけてお主を排除するである」
「……」
ガントの言葉に俺は思わず黙る。
二人の目には今までのような優しげな光ではなく、何か重大な事を見極めようとしている光と決死の覚悟を決めて戦いに挑もうとしている者特有の光が宿っている。
ああなるほど。確かに二人は不意討っても俺には勝てないと言った。
だがしかし、この島には恐らくだが彼らと同等か僅かに及ばない程度の実力者が何人も居るのだろう。
もしも彼らが一斉に襲い来れば……流石の俺でもどうなるかの判断はつかないな。
それにこの二人を倒してしまえば俺の求める物は決して手に入らない。そう言った意味でも敵対は出来ない。
だが、俺も退くわけにはいかないし、彼らの協力を得るためにも虚偽の言葉は吐けない。
「分かった。その辺りの事情はしっかり話そう。誰かに聞かれる訳にはいかないから結界は張らせてもらうがな」
「いいだろう」
「分かったである」
だから包み隠さず話すためにも俺はアベノ先生の力を借りる。
これで例え例の兵器であっても今の俺たちを覗き見ることは出来ないだろう。
てかさ、【天地に根差す霊王】を思い出した俺でも悔しい事に、未だこれ以上の結界は独力で張れないんだよなぁ……何者だよアベノ先生。何処でも誰でも使えるのにこの結界のレベルは有り得ないだろ。絶対に並の神様として扱って良いレベルを越えてるだろ。
まあ、それはともかくとしてだ。
「さてと、それじゃあまずはこれを見てくれ」
結界を張り終ったところで俺は二人に話し始めた。
竜は決して弱くないのですよ
06/17誤字訂正