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第143話「変わった南瓜-2」

 梅雨の頃。

 クヌキハッピィとリーンの森で修行していた俺はクヌキ伯爵に呼び出されてクヌキハッピィの領主館にやって来ていた。

 そして領主館の指定された部屋に入った俺の前には……


「久しぶりだな『竜殺しの魔法使い』パンプキン」

「……」

 サク皇太子殿下が居た。

 フットワークが軽いな!おいっ!それでいいのか皇太子!!立場上他にも色々と仕事とかあるんじゃないのか!?


「……。それで用件は?」

 俺は多少乱暴に椅子を引いて腰かけると、皇太子殿下を真正面に見据える。

 『竜殺しの魔法使い』として呼ばれた事を考えればこういう態度でいいだろう。


「いやなに。私の方でサンタック島への伝手が得られないか色々としてみたからな。その結果を報告をしに来たんだが……」

 そこで皇太子殿下の顔に陰りが見える。

 あー、その話題でこう言う表情をするってことはそう言う事か。

 まあ、期待はしないでおこう。


「すまん。全部断られた」

 で、予想通りの答えである。


「まあ、『竜殺しの魔法使い』を竜たちの本拠地に連れて行ってくれなんて言う頼みを聞く竜は居ないよな」

「それだけだったら良かったんだが……」

「?」

「パンプキン。君は竜たちの間では完全に化け物扱いされている」

「ハァ!?どういう事だよ!?」

 俺は皇太子殿下の言葉に思わず身を乗り出し、俺の動きに護衛の騎士たちが反応して皇太子殿下に手で制止される。

 そして俺は皇太子殿下に竜たちに対して俺の名前を出したらどうなるのかについて教えてもらった。


ケース1:センコノト北東の山村に住む地竜の場合

「頼み事?飯をくれればそれ相応の働きはしてやるが……あー、『竜殺しの魔法使い』を……悪い。さっきの話は無しだ。いや、俺は別に『竜殺しの魔法使い』が悪い奴じゃないってことは知ってる。だが悪ぃ、無理なものは無理なんだ。俺レベルの竜がそんな真似をしたら上の竜たちから何を言われるか分かったものじゃない。なっ、分かるだろ?頼むから理解をしておいてくれ」


ケース2:タイリュウ山と言う山に住む老火竜の場合

「あー?パンプキン?南瓜は煮つけにすると美味いんじゃが……違う?そうかそうか、その者をサンタック島にか……うーむ。無理じゃな。済まんが儂がどうこう出来る次元ではないの。アンマちゃんに直接入島出来るかどうかを聞いた方が早いんじゃないかの?ん?アンマちゃんが何処に居るかじゃと?そりゃあサンタック島じゃよ。あっ、こりゃあ失敬。入島したいと伝える相手が島の奥に居たら伝えることもまず無理じゃったな。フェッフェッフェッ」


ケース3:センコ国の西にあるロン・グサキ国に住む影竜の場合

「アアイエエ!?カボチャ!?カボチャナンデ!? 影竜何もしてないよ!?アッ、ドーモ、親衛隊=サン、影竜です。お引き取り下さいませ。影竜何も聞いてない。何も知らないよ。お願いだからプリーズバック!」


「……」

 教えてもらったのだが……おい、ケース3が色んな意味で酷いぞ。と言うかケース3の影竜、コイツ絶対に転生者だろ。何と言うか色々とおかしいからな。

 まあ、とりあえずサンタック島には直接乗り込んだ方が早いって言うのは分かったけどな。


「あー、それからもう一つ」

「まだ有るのか……」

 俺は多少うんざりしながら皇太子殿下の顔を改めて見る。

 その顔が浮かべるのは……苦笑?


「その、いつの間にかお隣であるロン・グサキ国や、その先に有る国々で君の事が広まっていたんだが……」

「?」

「どう尾鰭がついたのかは分からないが、こんな噂になっていた」

 皇太子殿下曰く、(あくまでも)一部地域ではこんな噂がまことしやかに語られているらしい。

 その噂曰く……

 東の最果てには南瓜の化け物が居るらしい。

 化け物は砦ほどの大きさが有る顔に、天を衝くような巨体と岩よりも堅い身体を備えているらしい。

 その化け物が一度手を握って開けば泉が出来上がり、その池に動物の生き血を貯めて夜な夜な啜り味わうらしい。

 特に悪党の血を好むらしく、「ヒュロロロォォ」と言う怪音と共に、夜に人々の住処の上に現れ、現れた翌朝には全身の血を吸われて干乾びた死体が幾つも転がっているらしい。

 竜を含めたあらゆる動物が獲物であり、首根っこを掴まえると頭から丸かじりにするらしい。

 植物の魔獣を操って人を襲わせることができるらしい。

 仮面を被った正体不明の魔女を妻とし、人の頭ほども有る巨大な蜂をペットとして飼っているらしい。

 その眼光に射竦められた者は周囲を巻き込みながら砕け散るらしい。

 この化け物は振れば雲まで届く剣、どんな傷をも癒す壺、この世の全てが書かれた書物、如何なる攻撃も防ぐ盾、嗅いだ者全てを眠らせる霧、神をも刺し殺す黒き槍、纏った者は空を自由自在に飛べるマント、示しただけで人々がひれ伏す紋章、人に根を張る吸血植物など貴重で他にはない道具を無限の容量を持つ袋に入れていくつも懐に納めているらしい。

 50人を越える息子と娘が居り、彼らもまた強力な戦士であるらしい。

 一説には創造神と破壊神が共同で作り上げた存在であるらしい。

 ……とのことだ。


「ヒュロロロォォ……」

「!?」

 何だろうなこの感じ。本人が聞いていないからと言って好き勝手に言いやがって……覚悟は出来ているんだろうなぁ?ああん!?


「落ち着けパンプキン!噂とはこういうものなのだ!だから落ち着け!」

「ええ、ええ、落ち着いてますとも……落ち着いていますとも……ヒュロロロォォ……」

「なんか変な魔力が出ているぞ!?それに火花に風!?」

「そうかそうかーヒュロロロォォ……」

 どうやら【天地に根差す霊王】の制御が緩んで勝手に周囲と反応をし始めているらしい。

 流石にこれは拙いな。

 と言うわけでこの辺りで落ち着いておく。


「はぁ……まあ、そう言うわけだからサンタック島に行くのは諦めてくれ」

「へいへいっと」

 そして皇太子殿下は護衛の騎士たちと一緒に部屋の外に出ていき、その後に部屋を出た俺はクヌキ伯爵に挨拶をしてからクヌキハッピィへと戻って行った。

 ただまあ、俺の状況は止めろと言われて止められるような状況ではないんだけどな。

 と言うわけで皇太子殿下には悪いがこの時点で方針は確定した。

 ま、後で詫びの品を送るからそれで許してくれ。サンホロ土産は結局何も送れなかったしな。

困ったことに噂の大半は事実と言ってもいい気がする。

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