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第141話「南瓜とサンホロ-8」

「これでよし……っと」

 賢鳥との戦いから一夜明けた翌日。

 俺はサンホロが有った場所で【天地に根差す霊王】の力を確かめる目的も兼ねて幾つかの作業をする事にしていた。


「うん。地面の操作も空気の操作もまずまずだな」

 と言うわけでまずは地面の操作練習として岩と土を組み合わせて墓碑のような物を作り上げる。

 言うまでも無く墓碑に刻まれているのはかつてここにサンホロという都市が有ったと言う事実に、名前を聞くことが出来た人たちの名前である。

 で、それを作り上げる過程で安定した足場を長時間空中に作り出せるかの実験をして成功していたりもする。

 いやー、今までの飛行魔法でも別段問題は無いのだが、空中に足場を作れるようになれば今までは出来なかった空中での急停止や鋭角での方向転換が可能になるからな。そうなれば戦術の幅は当然ながら拡大することとなる。

 うん。色々と美味しいな。


「他には何が出来るかねぇ……」

 さて、そうやって墓碑のような物も作り上げた所で俺は(燃えた方)の俺の身体を調べて何とかまだ使えそうな触媒やブラックミスティウム等の貴重品、それから……既に魔力を失っている針のような物体と僅かに魔力らしきものを残した宝玉を回収する。

 ただまあ、今後の事を考えるとこの触媒たちの中でも植物系の触媒は持ち帰るよりもだ。


「よっと」

 俺は植物系の触媒を墓碑周囲の地面に蒔くと【天地に根差す霊王】を発動し、各種生育条件を適宜調節しつつ何年分か急速成長させていく。

 これでまあ、とりあえずの基礎は出来たな。賢鳥が倒れた関係なのかこの辺りの魔力濃度も倒れる前よりは改善されているし、後は自然に任せていればその内何とかなるだろ。

 虫とかが居ない問題点については……まあ、リーン様お願いしますだな。どうせ今も見ているだろうし。


「それにしても【天地に根差す霊王】は反則的な応用範囲だな……」

 俺は出立の準備を整えながらも自分の能力に対する感想を呟く。

 実際、魔力の根と葉が届く範囲でかつ俺の知識と実力が十分なら大抵の物を実体、非実体を問わずに操れるようだからこの世界の魔法使いたちから見れば反則極まりない。それこそ格下相手なら能力の射程圏内に入った瞬間に対象を消し炭に変えることができるだろう。

 逆に言えば格上相手にはいろいろと便利な事を出来る能力でしか無いわけだが。

 まあ、とりあえずどういう能力か分かったところで出立の準備も終わったので飛び立とうとするが……。


「あら、人が居るだなんて珍しい」

「ん?」

 その前に遠くから声を掛けられたので俺はそちらの方を向く。

 そこには鎧のような物を着込んだ半透明の女性が立っていた。

 身体が黄色の魔力で構成されている事や、何となくだがミズキに近い気配を放っている事を考えれば風の精霊と見て良いだろう。


「アンタは?」

「ここの王様との古い知り合い。肝心な時に限ってこの場に居なかったけどね。貴方はパンプキン君でいいのよね」

「ああ。アンタは風の精霊だよな」

「ええ、今は風の精霊王をやっているわ」

 風の精霊王は墓碑の近くに着地すると、右手で墓碑に触り、何かを懐かしむような目を見せる。

 先程からの言動を見る限りでは彼女は賢鳥の知り合いだったと言う事なのだろう。


「彼はやっと解放されたのね……」

「ああ。今を生きる者の為にアレを倒すように頼まれた」

 そして恐らくだが、賢鳥の言う今を生きる者たちには彼女も入っているのだろう。

 そう感じさせるだけのものを俺は彼女から感じ取っていた。


「そう……彼は最後まで彼だったわけね」

「……」

 風の精霊王はどこか哀愁漂う顔で墓碑の方を眺めつづける。

 ただまあ、風の精霊王には悪いが一応聞いておいた方がいいか。


「一応聞くが、アンタは何でここに?」

「あの人に聞いたのよ。魔王の噂を広げて犠牲者が出ないようにしていたのにサンホロに向かった子が居る……ってね。それでやって来たの」

 風の精霊王はそう言うとその場でぐるぐると指を回す。

 あの人……って言うのはリーン様だろうな。大地の精霊王とも契約していたようだし間違いないだろう。


「ところで、この辺りの植物だけど貴方が植えたの?」

「ああそうだが……何か拙かったか?」

「いえ、何時かはこの辺りもあの頃の様にまた緑溢れる土地になればいいなと思っただけの事よ。じゃあね」

 そうして風の精霊王は去って行った。

 その表情は最後までどこか物悲し気であった。

 賢鳥の繰り返しが終わった以上は出来得る事なら彼女にも良い事が有ればいいと思うが……そこは俺がどうこう出来る範囲じゃないか。


「と、俺もそろそろ行かないとな」

 風の精霊王が去ってからしばらく経った後に俺もサンホロを後にする事とし、それからまた日数をかけて荒野と山とリーンの森を越えてサンサーラエッグ村に帰って来た。


「帰って来たぞー」

「お帰りなさい。パンプキ……ン?」

「ブン?(あれ?)」

「ゾクチョー?」

「なんか違ウ?」

「偽物?」

「…………」

 そして長時間の飛行を頑張って帰って来た俺を待ち構えていたのはミズキたちから向けられる疑惑の目だった……。


 ……。


 どうしてこうなった!?

ボソッ(風の精霊王は未亡人属性

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