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第140話「南瓜とサンホロ-7」

「フンッ!」

『ハッ!』

 俺も賢鳥も魔力による自己強化を施すと、俺は風魔法のブーストを掛けた上で空中を思いっきり蹴って賢鳥に接近し、賢鳥は身体に生えている赤い羽までも炎に変換して突撃を仕掛けてくる。

 俺はその炎を先程の火球の様に空気を操る事で消そうとしたが……


「コイツは……消せないか!?」

『フハハハハ!どうやら貴様の力も完璧ではないらしいなぁ!』

 魔力を常時直接注ぎ込むことによって燃え盛っているためなのか賢鳥の纏う炎は消えずに燃え続けており、俺は身体に火が燃え移らないように身体強化の度合いを上げて攻撃を防ぐ。

 なるほどな。確かに俺の能力も賢鳥が言うように完璧ではないらしい。

 そして、何度か攻撃を打ち合ったところで俺も賢鳥も見計らったかのように距離を取り合う。


「ま、元々俺は自分の能力が完璧だとは思っていないがな」

『クカカカカ、強がりを』

 俺の言葉を虚勢と感じたのか賢鳥は笑い声を上げる。

 今の俺にとって能力と言えるのは二つ。

 一つはリーン様から授かった【レゾナンス】。

 もう一つは名を奪われた時に得て、この身体になった時に使い方を思い出した【天地に根差す霊王】。

 【レゾナンス】については今までも使ってきたから特に問題ない。

 問題は【天地に根差す霊王】だ。俺が把握している限りだとこいつは魔力の根と葉を周囲に広げてその範囲内にあるもの……地面、空気、霊魂、魔力その他諸々である……を支配して様々な事を行う事が出来る能力であるが、何処まで操れるのか、【レゾナンス】と組み合わせればどうなるのかと言う事がどうにも探り切れていない。

 今の攻防ではその辺りを突かれた感じだな。

 尤も、賢鳥の炎も打撃も今の身体強化のレベルなら問題は無いが。


「いいからとっとと黒い羽になりやがれ、今の攻撃が効いてないのは理解してんだろ?」

『クカカカカ……まあ、そうではあるな』

 賢鳥の羽が赤から黒へと変わり、それに合わせて筋肉も膨れ上がる。

 そして、先程よりも若干スピードを落とした状態で爪を振り上げつつ俺に向かってくる。

 賢鳥のその様子を見て俺は賢鳥の能力を確信する。

 『円環を廻す三色の賢鳥』の能力は大きく分けて三つ。赤の羽は炎と速力の強化。白い羽はダメージの反転と癒しの炎。黒い羽は騎士の召喚と筋力の増強。

 それ以外にもサンホロを巻き戻しているように見せている能力も有るだろうが、これは今は使えないようだし気にしなくていいだろう。

 で、黒い羽でスピードが落ちるのは筋肉が膨れ上がり過ぎるためだろうな。

 それを差し置いても今の俺の防御を貫くために賢鳥は黒い羽の形態を取らざるを得ないのだが。


『切り裂いてくれるわ!』

「試してみるか……」

『何っ!?』

 賢鳥の羽が迫りくる中で俺は【天地に根差す霊王】と【レゾナンス】を同時に発動。

 支配している領域内に在る空気に命令を下す事で今の俺に出来る限界レベルの共鳴魔法を発動。最初に賢鳥に触れる部分の空気を鉄板の様に硬化すると共に、その下の空気をクッションの様に変化させて賢鳥の攻撃を防ぐ。


「さあ……今度はこっちの番だ!」

『くっ!』

 俺は続けて二つの能力を今度は俺の拳とその周囲の空気に対して発動。

 何故か電撃のようなものを纏った拳で賢鳥に殴り掛かり、賢鳥はその攻撃を爪で防ごうとするが電撃によって徐々に傷を負っていく。


『おのれ!おのれぇ!我は王なのだぞ!我は負けぬ!負けられぬ!我が負けては下々の者どもへの申し訳が立たぬわ!!我はあの黒い月を地に落とすまで諦めるわけにはいかないのだ!その為なら何度でも同じ時を繰り返してくれようぞ!!』

「…………」

 賢鳥はそれでも諦めの様子を見せず、防がれるのが分かっていても攻撃の手を緩めることは無い。

 賢鳥も俺と方向性は違えど王なのだろう……いや、長い永い時の中で無限に行われた繰り返しによって狂ってしまった事を考えれば王であったと言うべきか。

 何故なら、そうやって攻防を繰り広げている中で俺の耳元に囁く声が複数。


『もう眠らせてやってくれ』

『もういいのです……』

『これ以上貴方様が苦しむ必要はないのです!』

 片や賢鳥にもう諦めて、休んで欲しいと願い乞う声。


『私たちをいつまで苦しめるつもりか!』

『貴様はもう王ではない!』

『いい加減に開放してくれ!』

 片や賢鳥に対して恨みつらみを叫ぶ怨嗟の声。


「いずれにしても望みは終わりか」

 どちらも結末は同じではあるが、これだけの年月が過ぎてなお慕う者が居て、繰り返しが始まる前の事で非難する声が無い事を考えれば、賢鳥は元々良い王であったのだろう。


『何を言って……ぐっ!?』

「ならばこそ、その願いはいち早く叶えるとしよう」

 俺は殴りあいの中で賢鳥の首元を掴み上げ、俺の魔力と賢鳥の魔力を共振させる。

 そして見せつけ、聞かせてやる。彼らの声を、姿を、望みを。


『これは……幻覚か……?ふざけるな……我が民はリーン様の為に……』

 俺の見せつける光景に賢鳥の目に多少の怒りが混じった今までとは違う光が宿り始める。

 それにしてもやはりと言うべきか賢鳥にもリーン様との関わり合いがあったらしい。

 ならばこう言おう。そして真実を告げよう。


「それはこっちの台詞だ!」

『!?』

「よく見て見ろ!何度繰り返したってあの時とはもう時代が違うんだよ!幻想の中で奴を倒したって現実の奴は倒れない!それにお前もリーン様に仕えていた身なら今のお前たちをリーン様がどう思うかを考えてみやがれ!!」

 俺は限界まで【天地に根差す霊王】の範囲を広げるとサンホロを覆っていた魔力の結界を破壊し、賢鳥に本来のサンホロ……全てが更地と化したその光景を見せる。


『これは……ああそうか……そうだったのか……』

 賢鳥の全身から力が抜けて行き、身体の端の方から砂へと変わっていく。


『もう、何もかもが終わっていたのか……魔法使いよ……民たちの様に私からも一つ頼んでいいか』

「何だ」

 賢鳥は理性に満ちた目で涙を流しながらこちらを見つめる。


『我が思いを継いで……いや、継がなくても構わぬ。だが、今を生きる者たちの為にあの月を落としてくれ』

「言われるまでもねえよ。それに思いならもう継いでいるさ」

『すまん……な……』

 そして賢鳥はその全身を砂に変えて消え去って行き、賢鳥の頭部が有った場所から一本の針が現れると末尾に付けられた宝石共々粉々に砕け散りながら地面に落ちて行った。

 その光景は砕け散った針の破片と砂に夕日の光が反射することによって何処か幻想的でも有った。

 だが、忘れてはならない。彼らは確かに此処に居た。

 そして、今俺の背後には彼らに地獄を強いたものが居る事を。

シリアス南瓜

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