第139話「南瓜とサンホロ-6」
『ククッ……クカカカカ……』
「何を笑っている?」
『なるほど……我と同じ世界の出自であったか……ならば手加減は無用よなぁ……行けぇい!我が尖兵たちよ!我が敵を討って我の血肉に変えよ!!』
賢鳥の羽が黒く染まり、周囲にばら撒かれる。
すると地面に落ちた黒い羽根は寄り集まって黒づくめの騎士へとその姿を変え、そうして現れた無数の兵たちは俺に向かって一斉に突撃を仕掛けてくる。
流石は賢鳥を名乗るだけはあるな。激昂はしても不用意に突っ込んできたりはしないか。
「だが好都合」
『『『ーーーーー!!』』』
俺は鬨の声を上げて突撃してくる騎士たちを前に、自らの手を地面に付けて一本の根を地中に挿し込み、その根を通じて俺は地中に魔力球を数個設置する。
新しい体になってそのスペックが大きく上がっているのは分かっている。
だが、どれだけ上がったのかって言う正確なスペックは把握できていないからな。
向こうが様子見としか思えない攻撃を仕掛けてくれるのなら俺もそれを利用しよう。
そして、先頭の騎士が俺に向かって槍を突き出そうとした瞬間に地中の魔力球を開放。
「【クラックルート】」
『なっ!?』
『『『ーーーーー!?』』』
次の瞬間にはその上に居た騎士たちを巻き込む形で周囲一帯に大量の地割れが発生し、ある騎士は地割れに呑まれ、またある騎士は地割れに混ざる形で突き出した鋭利な岩によって刺し貫かれ、またある騎士は岩盤に挟まれて潰れる。
ふむ。俺的にはかなり軽めにやったんだがそれでこの威力か。
ただまあ、運よく巻き込まれなかった騎士たちが通り易い道……地割れによって左右に岩の壁が出来ている道を通って来ているし……均しておくか。
「【リフィーリング】」
『馬鹿な……』
俺は足から地面に魔力を流し込むと、先程の地割れを逆再生するように大地に命じる。
すると大地はその上に居た騎士たちに声を上げさせる暇も与えずに与えられた命令を粛々とこなし、飲み込んだ騎士たちの身体に対して元に戻るには邪魔だからと圧力をかけて潰しつつ【クラックルート】が発動する前の姿に戻る。
後に残るのは真っ平らな大地とそこに立つ俺、それに空を飛んでいて難を逃れた賢鳥だけだ。
「魔力は……ああ、問題ないな。勝手に回復する」
俺は今の魔法で自分が消費した魔力量がどれくらいなのかを確かめようとして……止めた。
今までの俺の様に光合成で勝手に回復しているだけじゃなく、周囲の空気中からも魔力を集めているし、地面からもさっき飲み込んだ騎士たちの身体を構成していた魔力などが流れ込んできて勝手に回復していっているからだ。
早い話、今の俺は能力的な意味での葉と根が届く距離にある魔力なら全て俺のリソースとして扱えるわけだな。
尤もウリコの能力と違って変な思念とかも飲み込まざるを得ないようだが、それは別に構わない。それも力に変えるのが今の俺なのだから。
『おのれ……だがしかし!我が白羽の守りを突破できる者など居らぬわ!』
「へぇ……試してみるか?」
賢鳥の羽の色が黒から白へと変わっていき、それと同時に口の端を歪ませて嫌らしい笑みを浮かべる。
が、俺はそれを見て賢鳥に対して手を動かして挑発を仕掛ける。
『挑発か。クカカカカ……そのような挑発には乗らんぞ』
「そうかい。なら一つ聞くが、お前はどうやって俺を倒すつもりだ?赤の炎も黒の騎士も通用しない以上お前は別の手を出すしかないぞ?」
『こうするのさ!』
賢鳥の白い羽根が撒き散らされ、それが白い炎に変化すると俺に向かって一直線に迫りくる。
白い炎から敵意は感じない。それどころか生命力に満ち溢れている感じだ。恐らくは直撃を受けても傷は受けず、むしろ回復するだろう。
だが、これをマトモに受けるわけにはいかないだろう。
なにせ今の俺は傷一つ負っていない。そこに相手に合わせた回復魔法ではなく相手の限界以上にまで無理やり回復する気な回復魔法を受ければ、恐らくだが過剰供給された魔力と生命力によって魔力酔い……場合によっては【オーバーバースト】を引き起こす事になる。
尤も……かつての俺ならば。と、但し書きをする必要があるか。
『な……』
「お生憎様。どこぞの誰かさんと違って俺は正負を反転させているわけでもないし、限界以上の魔力に生命力が供給されたって問題は無い」
白い炎の直撃を受けた俺の肩から一本の蔓が伸び、その先に幾つもの葉と黄色い花が付く。
花はやがて枯れ落ち、子房が膨らんで果実となる。
まあ、単純な話だ。そのままでは受けきれないのなら、受けきれるようにパーツを新たに作り出せばいい。
かつての俺では流石にこんなスピードでは体組織を増やすのは無理だったが、この身体なら何の問題もなく出来る。
「と言うわけで魔力供給ありがとう。今度は……こっちの番だ!」
『早っ……ガアァ!?』
そして俺は賢鳥から得た魔力を脚力と飛行能力に回すと風魔法によるブーストを掛けつつ跳躍、俺がいきなり目の前に現れた事に対して驚く賢鳥の腹に向かって大半を生命力に変換した、本来ならば回復の力を持っている魔力球を腰の入った掌底と一緒に叩き込む。
すると魔力球が掌底の勢いで吹き飛ばされていく賢鳥に吸収され、吸収された魔力球は賢鳥の体内で生命力に変換されて行き渡り、本来ならば回復の力として働くはずの生命力が賢鳥に対して牙を剥いて暴れ狂う。
『馬鹿なぁ……我が白羽の守りを突破するだと……』
「二度も見せてもらったからな。良いヒントになったよ」
『それだけで看破しただと……』
俺は吐血する賢鳥を前にして、空中をしっかりと踏んで追撃の構えを取る。
賢鳥の白羽の守り。
それは攻撃に含まれている力の方向性を攻撃から回復に反転させることによって敵の攻撃を自らの力として吸収する驚異の能力だ。
だが、力の方向性を反転させるが故に生じる大きな欠点が一つある。
傷を治すための癒しの力が傷を生むための破壊の力に変換されてしまうのだ。
だから、最初の一撃を当てた時には何かを吸われるような感覚がし、癒しの力を秘めていた先程の魔力球は賢鳥に対して多大なダメージを与えることになったわけである。
「さあ、ご自慢の守りは破れた。次はどうする?」
『クカカカカ……そうだなぁ……ならばこういうのはどうだろうな?』
賢鳥は口元の血を拭うと羽の色を白から赤へと変化させる。
そして、賢鳥は俺と同じように攻撃の構えを取って見せた。
なるほどね。殴りあいをご所望ってわけか。いいだろう。やってやろうじゃあないか。
本当は強いんですよー
06/11誤字訂正