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第136話「南瓜とサンホロ-3」

基本的に暗いので注意を

「畜生!よくも俺の仲間を!!」

「腕がぁ!脚がぁ!!」

「殺してやる!殺してやるぞぉ!!」

「誰か!誰か助けて!ウチの子が……」

「グルアアアァァァ!!」

「ケキャキャキャ!」

『退くな!逃げるな!戦え!奴こそが全ての元凶なのだぞ!』

「…………」

 境界線を越えた瞬間、俺の耳に凄まじい量と種類の怒号に怨嗟の声、剣戟に爆発の音、野獣の雄叫びが最初に届き始め、続けて濃厚な火薬と鉄……いや、血の匂いが俺の鼻に伝わってくる。

 そして俺の視界に映ったのは黒き獣相手に剣を振るう騎士に、手足を失ってなお抗う事を止めない魔法使い、息絶えた子供を抱えて泣き叫ぶ母親、狼や鳥、熊などの姿をした黒き獣たちの姿。

 この世の地獄……いや、かつてあった地獄が寸分違わない形で再現されていた。


「アレが……例の兵器か……」

 俺はその地獄の中で空を見上げる。

 そこに浮かんでいるのは表面が黒く染まり、中心に向かって7本の赤黒い色の直線が等間隔に走っている月。その周囲は膨大な魔力によるものなのか歪んでいるように見える。

 その月から次々に黒い何かが地上に向かって放たれている事を鑑みるに、やはりと言うべきなのかイズミの予測通りに例の兵器は月に擬態していたらしい。

 より正確に言えばこの時代の(・・・・・)兵器は月に擬態していた。と、言うべきなのかもしれないが。


「グルアアァァ!!」

「おっと」

「キャイ……ン……」

 と、ここで狼型の黒き獣が俺に向かって襲い掛かって来たので、俺は黒き獣の牙を躱すとその頭に向かって【レゾナンス】による魔力振動を叩き込んでやる。

 すると狼型の黒き獣は全身が黒い砂のような物体に変換されていく。

 この結果からしてやはり今のサンホロに居るのは全て魔力によって再現された紛い物らしい。

 これが本物の黒き獣なら今のような攻撃は通じないのだろうしな。


「お前は……一体……」

「敵でもないが味方でもないさ」

「待て!」

 近くに居た騎士が明らかに意思が感じられる瞳で俺を見ながらそう言うが、俺はそれを無視して空に飛び立つ。

 一つの可能性に過ぎない話だが、もしかしたら人間側に関しては魂が入っているのかもしれないな……だとすればこれを仕組んだものはどうあっても許す気にはならない。

 無自覚のまま何千年と戦い続けさせるなんて例え神であっても許される所業ではない。


『戦え!死んだ……ガガッ……ちの恨みを晴……ジジッ……のだ!!』

「目指すは王城か……っと!」

 俺は街中に設置されている壊れかけのスピーカーのような物から聞こえてくる指揮官の声を聴きつつサンホロの街中を指揮官が居ると思しき場所……王城に向かって飛びぬけていく。

 その間にも上空からは明らかに重力以外の力も受けて加速した状態の黒き槍が降り注ぎ、鳥形の黒き獣が俺に向かって襲い掛かってくるが、俺はそれを出来る限り減速しないように注意しつつ回避していく。


「っつ!?この気配は!!?」

 と、ここで俺は上空に凄まじい量の魔力が収束していくのを感じ取り、思わず足を止めて空を見上げる。

 空では月の表面が直線に沿って僅かに割れ、中心部に魔力が収束しつつあった。


『総員!対ショック態勢!!』

 奇跡的に一切の音割れも無くスピーカーから指揮官の声が響く。

 これから何が起きるのかなど考える暇もなかった。


「ヒュロロロォォォ!!?」

 否、考えている暇が有れば少しでもスピードを上げて逃げるべきだと俺は判断し、全速力で空に向かって飛び立っていた。

 そして俺がサンホロ全体の四分の一ほどを視界に収められるほどの高さに到達した時、月からそれは放たれた。


「これが……『陰落ち』」

 それは血赤色の魔力をそのまま光線にしたような魔法だった。

 だが、その威力と規模が桁違い過ぎた。

 城に張られた堅牢なはずの結界は殆どその役目を果たさずに城の極一部を除いて全てが消し飛んで巨大な穴が地面に穿たれ、その余波だけで近くに居た人間から【オーバーバースト】を起こして弾け飛び、兵器にとっては仲間であるはずの黒き獣たちも爆風によって吹き飛ばされ、絶命した者の中には紙のようになるまで押し潰されて息絶えた者も居た。

 けれど、ここで俺は一つの確信を持つ。サンホロの王城が有った場所に穿たれた穴。アレはクヌキハッピィの北に有った奈落の海の断崖とほぼ同一の物だった。

 つまり、あの地形と奈落の海を作り上げたのもやはり例の兵器なのだろう。


『生き残っ……ガッ……いる者は……ギガッ……か……?』

「…………」

 近くのスピーカーから声が届く。どうやら指揮官殿は城の僅かに残った部分に居たらしい。


『我等は……朽ちぬ……滅びぬ……だから必ず奴を倒すのだ……』

 途切れ途切れながらも妙に良い音質でスピーカーから声が届く。


『戦い続けよ……それこそが我等が……』

 地上にある建物は連鎖的に【オーバーバースト】を起こして崩壊していく。


『主である……ガガッ……様の御心に沿う唯一の……』

 地上を蹂躙し尽くした兵器はその姿を俺たちが見知った月へと変えていく。


『行動と知れ……』

「!?」

 そして表面の色も俺たちが知ったものに変わっていく中で月から何かが発射される。


『逃げ出す者は要らぬ……』

「拙いっ!?」

 俺には月から放たれたそれの正体を看破することは出来なかった。


『臆する者も要らぬ……』

「発動!」

 だが、まるでこの世に存在する不吉なもの全てを内包したかのような“ソレ”を見た瞬間に俺は懐から例の結界セットを取り出して発動させ、更には手持ちの触媒の大半を使ってその内側に自前の結界を張っていた。


『幾度負けようとも……』

「頼むぞ……」

 “ソレ”が僅かに残った王城に着弾する。


『いちどかつことができれば……』

「ぐっ!?」

 “ソレ”が無数の何かに分かれて偶然生き残っていた生物たちを蹂躙していき、俺が張った結界もほんの僅かな量を残して食い破られる。


『ソレデイイ……』

「止まったか」

 “ソレ”から分かれた何かは見た目としては何の変哲もない針のような物体で、一番後ろの部分には小さな宝石が付いていた。

 だが、その針には膨大な量の魔力と何かの魔法が含まれているのが一目見て分かった。

 と言うわけで俺は念の為にと言う事でその針を回収しておく。


『サア、繰リ返ソウ。モウ一度ダ』

「この気配は!?」

 そして俺が妙な気配を感じ取って王城の方を向いた時に突如として変化が始まる。


『勝テルマデ……』

 王城の方で卵の様な形をした何かが蠢いていた。


『勝テルまで……』

 蠢いていたそれから赤い羽根を下地として白と黒の羽根によって紋様が描かれた翼のようなものが出始める。


『勝てるまで……』

 続けて鳥の頭のような物が現れ、そこから更に全身が出てくる。

 その姿は俺が都市の外から観察して確認したあの鳥そのままの姿だった。


『何度でも!何度でも!何度でも!何度でも!何度でも!何度でも!何度でも!何度でも!何度でも!何度でも!何度でも!何度でも!何度でも!何度でも!何度でも!何度でも!何度でも!何度でもだああぁぁ!!』

「!?」

 そして鳥が怒りとも嘆きとも取れない、けれど聞いていた魂の底から震え上がるような叫び声を上げると共に周囲の土と魔力を原料として崩壊したはずの都市が再生を始めていく。


「止まった?」

『……』

 だが、都市の再生は突如として中断され、中途半端に再生されたがためにより不気味な様相になったサンホロの中で赤い鳥は叫び声を上げるのを止めてこちらを見る。

 その目には……俺が今までに見た誰よりも昏い光が宿っていた。


『招かれざる者か……』

「まあ、招かれていないのは確かだな」

 俺は即座に戦闘態勢を取り、何時でも動けるようにする。


『招かれざる者よ……『円環を廻す三色の賢鳥』たる我に命を捧げよ!さすれば貴様もあの黒き月を打ち倒すための軍勢に加えてやろうではないかあぁ!』

「お断りだ!」

 そして赤い鳥……『円環を廻す三色の賢鳥』は胸元から二本の屈強な腕を生やすと俺の言葉などまるで聞いていない様子のままに俺に向かって突撃を仕掛けてきた。

戦闘開始ですよー

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