第133話「情報集めの南瓜-5」
年末年始の集まりが終わり、俺とイズミ、それにロウィッチは一緒にセンコノト城から出ると適当な場所で独力で動いた方が早いと言う事でそれぞれ分かれて帰路に着くことになった。
ただその前に交わした言葉が一つ。
「例の兵器の件。一般人……いや、本当に信頼できる相手以外には間違っても話すなよ」
「分かってる。知られれば絶対に暴動が起きるもの。イズミだってそれぐらいは分かってる」
「こう言っちゃあ悪いが、有象無象がいくら居ても役に立つとは思えないしな」
上から順にロウィッチ、イズミ、俺である。
何と言うかこればかりはしょうがないよな。
イズミの探し出した歴史書の内容から鑑みるに黒き獣ですら一定ライン以下の実力者だとよほどうまい策を練ってしかも良い指揮官が付かなければ一方的にやられるだけだろうし、その黒き獣を使役している例の兵器の実力についてはどう贔屓目に見ても黒き獣以下になる事は有り得ないだろう。
そしてそう考えた場合の話だが、例の兵器相手を相手取るなら人間レベルの達人程度では有象無象扱いをせざるを得ないと言う事である。
そう言ったわけで余計な犠牲を無くす意味でも俺たち三人はこの話を伝える相手は可能な限り絞ると共に一部例外を除いて直前までは隠しておくことに決めたのであった。
「じゃあな」
「また今度」
「おう」
そして俺たちは帰路に着いた。
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「帰ったぞー」
空を飛ぶこと数時間。
俺はサンサーラエッグ村に帰って来た。
「お帰りなさいパンプキン」
「ブンブブー(お帰りなさい)」
「お帰りゾクチョー」
「おっ、パンプキンか」
村に帰って来た俺をミズキたちが出迎えてくれる。
さて、空を飛んでいる間中これからの事を考えていたが、やはりこうするべきだな。
「ミズキ。ちょっとお前に話が有るんだがいいか?」
「ん?私だけ?」
「ああ、ミズキだけだ」
俺は周囲から疑問の目を向けられつつミズキだけを集会所の中に招き入れ、戸を閉めると共に魔力による防音の結界を張り巡らす。
流石に『誰でも使える・アベノ先生のインスタント結界セット』を使ったら逆に怪しまれるだろうし、例の兵器自体の情報を流すつもりはないから俺の結界でも大丈夫だろう。
「それで?わざわざこんなに厳重な結界を施すってことは相当厄介な話って事でいいのよね」
「ああ。そう思ってもらって構わない」
どうやら俺が張った結界のレベルからミズキもこれから俺が話そうとしている事の重要性を感じ取ったのかそう言い、話をする準備も整ったところで俺もミズキも真正面に相手を捉える形で座る。
「最初に言っておくが……」
「他言無用でしょ。後は話の内容に合わせて村の皆をうまく誘導して欲しいって所かしらね」
「すまん。よろしく頼む」
その上今までの付き合いからミズキは俺のして欲しい事を読み取ってそう言う。
話が早く済むのはありがたいが、何と言うか今後頭が上がらなくなりそうだな……まあいい、今は実利優先だ。
「それで内容は?」
「ああ、それなんだが……」
そして俺はミズキに場合によっては三年後に『陰落ち』が起きるかもしれないと言う事実を伝え、その際に起きるであろう多くの問題への対抗策を今の内から練っておいてほしいと言う事を伝えておく。
「『陰落ち』が起きる……か。特大級の問題ね。でも逆に言えばこういう事よね。パンプキン。貴方は『陰落ち』の元凶を見つけ出した。これはだからこそ起きる問題。だったら私たちの事なんて気にしなくてもいいように全力で支援してあげるわ。それが私の役割だもの」
ミズキは俺が一言った事から十を読み取ってそう返してくれる。
何て言えば良いんだろうな……こうまで言われたなら……そうだ。
「すまない……いや、ここはありがとうって言うべきだな。ありがとうミズキ」
素直に礼を返そう。きっとそれが一番ミズキが喜ぶだろうから。
だから俺はミズキの事を抱きしめて今までで一番多く感謝の念を込めて言葉を紡ぎ、伝える。
「今更の話ね。と言うか何年も付き合ってるんだから今更よ」
「確かにそれもそうなんだけどな。まあ、これは俺の気持ちの問題だ」
ミズキも軽く一度俺の事を抱き返してから体を放す。
「それで?三年後に備えておけって言う話は分かったけど、わざわざそんな話をするってことはそう言う事よね」
「ああ、流石に時間が無いからな。準備が整い次第また出かける」
本当にミズキは俺の言葉から十を察してくれる。
「北と南。まずはどっちかしら?」
「北だな。流石に南は今行くには準備不足過ぎる」
俺はまだまだ弱い。
リーン様には当然敵わないし、イズミよりも弱い。
いや、その二人だけではなくロウィッチだって本気で戦えば俺よりも強いだろうし、それどころかこの世界では最も強いと言われている生物とされる竜が相手になれば自分の得意な場に引き摺り込まなければならない。
そして、三年後の事を考えればその程度の実力では駄目なのだ。
「分かった。なら村の事は私たちに任せていってらっしゃい」
「ああ。行ってくる」
ミズキが何処か満足げな顔で一度俺の胸の辺りを小突き、俺はそれに応じて頷くと集会場の外に出る。
そして俺は強くなるための手掛かりを求め、準備を整えるとまずは北……サンホロと言う魔王が居るとされている都市へ向かい始めた。
かぼもげ