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第132話「情報集めの南瓜-4」

「月って……本気で言っているのか」

「本気」

 俺はその事実を認めたくが無いためにイズミに問いかけるが、イズミはそれに対して己の考えが正しい事を確信している目で返してくる。


「ぐう……なら聞くが物証なんかはあるのか?」

「正確な物証についてはこれからだけど……とりあえず言えるのはあの月は地上に近すぎるし、重量もおかしい。潮汐なんかも調べれば物証は得られると思う。それに……」

「それに?」

「多分だけど竜や精霊の様に長い歳月を経た存在なら月がアレに成り代わって地上を攻撃する様子を見た事が有る存在も僅かになら居るはず」

「……」

 俺はイズミの言葉に黙る事しかできない。

 今の所話の辻褄が合わない部分は無いし、もしも本当に月がそうなのだとしたら大地の精霊王があの時『今は奴の時間だ』と言ったのも納得がいく。あの時空には確かに満月が出ていたのだから。

 くそっ、後で大地の精霊王……それにサンタック島に行った際にでも竜の長老とかを探し出して話を聞くか、どうにかして物証を得ないとな。


「……」

「イズミはこれからアレが有る場所にまで行き付く方法を模索してみる。大丈夫。イズミの世界に在った月ほど離れているとは思えないから必ず行く方法はある」

「そうかい……」

 俺の沈黙をどう解釈したのかは分からないが、イズミが慰めの言葉のような物を発する。

 そしてその言葉で俺の頭は冷え、例の兵器が月に擬態しているのなら今までの諸々が全て繋がる事も理解する。

 こうなればもう月に擬態しているのだと認めて対策を練った方が遥かに建設的だな。


「分かった。それなら俺はイズミが月に行く手段を整えるまでの間に出来る限りの修行をして万が一に備えておけばいいんだな」

「うん。ただ万が一と言うよりはほぼ間違いなく戦闘にはなると思うからそのつもりでいて。期限は……イズミの依頼主が来るまでかな。あの人が来たらイズミが何を言おうが関係なく、どんな方法を使ってでも行くだろうし、下の被害なんて気にしない人だから」

 そう言うイズミの顔には何となくだが苦い物が見える。

 ああなるほど。イズミの依頼主ってのはあんな物を求めるだけあってそれ相応にヤバい奴っぽいな。

 そしてイズミはもうほぼ完璧にこっちの味方と考えても良さそうだ。空が戦場となればマジクにも被害が及ぶ可能性があるから当然と言えば当然だけど。


「それでその依頼主とやらが来るのは何時頃なんだ?」

「何の問題も無ければ……一年もしない内に来ると思うけど……」

「短いな……」

 一年未満……あまりにも短すぎる。とてもじゃないが『陰落ち』の脅威に対応できるほどの力を蓄えられるとは思えない期間だ。


「でも、それで何とかするしか……」

「こんなところで何をコソコソと話をしているんだ?」

「「!?」」

 と、ここで突然俺のでなければイズミの物でもない第三者の声が室内に響き渡り、俺もイズミもその声がした方向に向かって戦闘態勢を取りつつ向き直る。


「タンマタンマ!パンプキンに知らせを持ってきただけだって!」

「お前は!」

「その目と髪……コンプレックスの社員?」

 だがそこに居たのは俺もよく知る人物。ロウィッチだった。

 正体が分かると共に俺は戦闘態勢を解除し、それに合わせてロウィッチ自身はともかくとしてロウィッチの所属している会社とやらはイズミも知っているのか戦闘態勢を解く。


「そうそう。それでえーと……あっ、ちょっと待ってくれ。はい。ロウィッチです。はい。はい。了解しました」

 と、誰かがロウィッチに通信を掛けたらしく、ロウィッチはそれに答えてから改めて俺とイズミの方に向く。


「パンプキンと『生死運ぶ群狼の命主』イズミに連絡。『管理者』アバドモルについてはウチの結界班が張った時空遷移結界によってどんなに早くてもこの世界に到達するのは三年以上先になったそうだ」

「!?」

「?」

 ロウィッチの言葉に俺は疑問符を浮かべ、イズミは驚きの表情を露わにする。

 うーん。話の流れから察するにその『管理者』って人がイズミの依頼主か?

 まあ、何にせよ少なくても三年の猶予が出来たのはデカいな。もしかしなくてもこれがタイムリミットになる可能性は高い。


「その……この話をイズミにしてもよかったのですか?それに『塔』の人間に対してそんな事をしたことがお母様とかに知られれば……」

「俺は上から伝えてもいいと言われただけだからなぁ……何とも言えん。それにウチの社長ならお宅ともやりあえるから問題は無いんだろ。たぶんだけど」

 で、俺を除け者にしてイズミとロウィッチは訳の分からない会話をしている。

 俺としては何の問題も無いって言われたらそれを信じる以外にはないんだけどな。

 と、話が終わったのか二人ともこちらを向く。


「分かりました。なら猶予は三年。その間にイズミは安全にあれと接触できる方法を考えます」

「そして俺はアレとやりあえるだけの力を蓄えればいいって事か」

「俺も対価を貰った範囲でなら協力して良いってさ」

 そして俺、イズミ、ロウィッチの三人はお互いにやるべき事を確認し合い、頷き合った。

 ああうん。こうなったらもう目的もほぼ同一だしイズミは仲間として信頼してやるよ。リーン様の事は立場上どうしたって言えないけど。

 それはともかくとして……


「ところでロウィッチ?」

「なんだ?」

「魔法少女的に対価を貰った範囲でってのはどうなんだ?」

「俺だって魔法少女としては愛と正義の名の元に無償で働きたかったけど上がそれを許す気がねえんだよ……」

 どうやらロウィッチの方にも色々と事情はあるらしい。

 本気で悔しそうな顔をしているから色々と大変なんだろうなぁ……と、俺は場違いにも程があるが思ってしまった。

南瓜とイズミは自営業のようなもの。対してロウィッチは会社員。

結構面倒な立場なのです。

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