第130話「情報集めの南瓜-2」
「おいーっす。二人とも久しぶりー」
「よく来てくれた。『竜殺しの魔法使い』パンプキン」
「久しぶりです。パンプキンさん」
さて、サク皇太子殿下の部屋にやって来た俺だが、周囲の侍女や騎士たちに睨まれながらサクとリオの二人に挨拶する。
でまあ、俺の口調の軽さから二人とも今回俺が訪ねてきたのはパンプキン・サンサーラ男爵ではなく『竜殺しの魔法使い』パンプキンである事を察してくれたらしい。
うん。流石に男爵として訪ねているなら身分に合わせた言葉遣いぐらいはする……と言うかそもそもサク皇太子殿下には会えないな。
その後、軽ーく世間話として二人の子供について話を聞いたり、それ以外にも色々と情報交換のような物を交わしたところで俺は本題に入ろうとする。
「さて、本題に入ろうと思うが……」
「必要なら人払いはさせるが?」
「いや、今回は聞きたい内容が訊きたい内容だし、人が多いに越したことはないかな。そもそも見知らぬ誰かに聞かれたところで特に問題は起きないだろうし」
「分かった。それならこのまま伺おう」
で、サク皇太子殿下から人払いの申し出が有ったが……今回俺が訊きたい内容は少々特殊な内容なのでこの場に居る全員から情報提供を求める。
ついでに言えば俺の話を聞いてから裏でコソコソと何かしようと思っても多分無理だろうしな。
と言うわけで質問をする。
「俺が訊きたいのはサンホロと言う都市についてと、サンタック島と言う火山島についてだな」
「「「!?」」」
が、質問をした瞬間に部屋に居る何人かの顔色が明らかに悪くなる。
うん。こりゃあ情報量については期待が持てるな。何も知らないのに顔色が悪くなるなんてことは有り得ない。
問題はサクの表情にはまるで変化が見られない点か。
流石は皇太子だけあってその辺りの術はきっちり習得済みらしい。
ただまあ、俺が既に知っている情報についてまた聞いてもあまり旨味は無いので、この場に居る人間から情報を聞く前にこっちの情報を出しておくか。
勿論、その際に周囲の人間たちの表情も窺っておく。
「何人かは心当たりが有るらしいな。まあ、先に俺が知っている限りの情報を上げておくとだ。サンホロって言うのはリーンの森からかなり北に行ったの方に行った場所にある都市だそうで、サンタック島の方は南方の方にある火山島で竜が何頭も住んでいるそうだ」
で、ここまで話したところで周囲の反応を窺うと、サンタック島についての話が出てきた時点でほぼ全員が何かしらの反応を示す。
うーん。こりゃあサンタック島については知られていても、サンホロについてはあまり知られていないのかもな。
「全員落ち着け。動揺が表に出ているぞ」
「確かに出ているなー」
「「「うっ……」」」
「?」
で、色々と反応が漏れ出てしまっているところをサクが全員を落ち着かせる。
リオは……何も知らないっぽいな。まあ、こればかりはしょうがないか。
「さてと、パンプキン。それでは私が知る限りの知識であれば教えるが、それでも構わないか?」
「ああ。それで構わない」
「分かった」
と言うわけでようやく情報の開示である。
「まずサンホロと言う都市についてだが……すまないがそちらについては初めて聞いたな。だから場所も何も分からない」
「まあ、リーンの森の北って言うとリーンの森に加えてその北にある山脈を越えるか、出す船が片っ端から沈んじまう奈落の海を越えるかだもんなぁ……」
「その上その先については人跡未踏の地。どんな危険が待っているのかも分からない。まあ、それでも向かうなら森経由の方が遥かにマシではあるだろうな」
ちなみに奈落の海とは俺が以前クヌキハッピィの北に有る山で見た『陰落ち』の後に出来ていた海の事であり、あの海ではどうにも妙な力が働いているらしくて一定ライン以上海に潜るとそのまま海底に引き摺り込まれてしまうそうだ。
しかもその一定ラインが海面から数十cm程だとか。まあ、早い話としてイカダぐらいでしか渡れる可能性が無い海なのである。
尤も海面も結構荒れるので実際にはイカダも渡れないのだが。
「それでサンタック島については?」
「そちらについてはセンコ国内に居る竜たちの出身地が大抵の場合はその島だからな。多少は情報が入っている。が、センコ国の皇太子として言わせてもらうなら、出来れば行って欲しくは無い所だな」
「竜たちを刺激するからか?」
俺はサクの言葉に疑問を投げかけ、サクはそれに対して無言で首肯する。
「あの島の竜には人間嫌いの竜も多いし、そうでなくとも子育て中の竜と言うのは周囲に対して敏感な存在だ。それ故に島に入り込んだ者に対しては容赦なく襲いかかってくるし、場合によっては海を越えて関係の無い人間にまで報復行動を取る可能性だってある。加えてパンプキンの場合は二つ名の問題も有るしな」
「むう……」
何と言うか……それは流石に拙い気がするな。
俺だって成体の竜を複数体相手にするならそれ相応の準備をした上で幸運に恵まれないと厳しいだろう。そいつらが普通の人間や都市に襲い掛かってくるのは……な。
と言うかこんなところで『竜殺し』の名が問題になるのは予定外だったなぁ……。
「目的が何かは知らないが、それでも行きたいと言うのならそれこそセンコ国内に居る竜を説得し、その竜の伝手を頼るしかないだろうな。それぐらいサンタック島と言うのは厄介な場所だ」
「なるほどな……」
伝手……伝手かぁ……歳を取った竜なら逆にリーン様の知り合いとかも有りそうだが……まあ、どうにか手を考えるしかないか。
とりあえず争い事になった場合は最悪島中の竜を殲滅する気で行くぐらいでないと拙いかもな。
「分かった。情報提供に感謝する。この借りは……そうだな。サンホロに辿り着けたらそっちの方で何か土産になるような物でも探しておこう」
「それよりも問題を起こさないでくれた方が私としては何倍も嬉しいんだが……」
「善処はする」
「そう言うと思ったよ」
そうして必要な情報を一通り入手した所で、俺は二人に別れを告げると自分の部屋に帰り、
「戻って来ていたのか」
「うん。中々に良い資料が集まった」
そこで何冊もの古い本を抱えているイズミの姿を見た。
どうやら資料探索の方は無事に終わったらしい。
さて、イズミからも得られる情報は出来る限り得ておかないとな。
リオとサクの間にはきちんと子供が出来ております
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