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第128話「海月と南瓜-4」

「狩猟蜂の蜂蜜酒一樽に俺の露からリーダーが生成した蜜蝋一瓶、それに灰硬樹製の短剣が数本。これでいいのか?」

「ああ、量も質も十分だ。これなら問題ない」

 秋、俺は大地の精霊王から話を聞くための条件である強力な結界を張る方法を求めてクヌキハッピィにある『ウミツキ文房具店』にやって来ていた。

 いやまあ、本当は夏の間に一度訪ねていたんだけどな。その時は『手が無い事は無いけど、流石に対価を貰わないと上から怒られる』と、言われてしまったのでこうして対価を準備して持ってきたのである。


「それじゃあよろしく頼むわ」

「おう。それじゃあちょっと待ってくれ」

 と言うわけでロウィッチに対価を払ってその強力な結界を張る方法とやらについて教えてもらうのだが……なんか店の奥でカタカタとやり始めた。

 もしかしなくてもロウィッチの上役とやらと連絡を取っているのか?


「とりあえずこれを取っておけ」

「ん?」

 と、ここでロウィッチが一枚の金属製と思しきカードをこちらに投げてくる。

 カードには多次元間貿易会社コンプレックス発行・会員証と書かれており、幾つかの読み取れない項目に俺の名前、それから……魔法少女マジカル☆パンプキンの顔写真が印刷されていた。


「あっ、写真間違え……あいたぁ!?」

「何処から持ってきたぁ!作り直せや!!」

 で、その写真に思わず俺は魔力で強化したカードを手裏剣の要領でロウィッチの頭に向かって投げつけ、投げつけられたカードは綺麗にロウィッチの頭に突き刺さる。


「痛て……これ(会員証)はこの先必要な物になんだから投げんなっての。再発行になるとスゲー手間がかかるんだぞ」

 しかし、多少痛がる素振りをしつつもロウィッチは頭に刺さったカードを普通に抜くと、置かれていた機械を動かしてカードの写真を別の物に変更する。

 と言うか結構深々と頭に突き刺さったはずなのに何で生きているんだコイツは。いや、今更な話ではあるけど。


「まあいいや。この会員証を使ってお前の口座を開いて、お前が持ってきた物を社に送って換金。えーと、全部合わせて三単位だから、問題なく三セット取り寄せられるな」

「良く分からんがとりあえずぼったくられていると言うか、足元を見られている気がするのは気のせいか?後、魔導書を取り寄せるとかじゃないんだな」

 俺にはロウィッチのやっている事が良く分からないが、とりあえず色々と取引は行われているらしく、俺の持ってきた対価がロウィッチが機械を操作したタイミングで消えてなくなる。

 それにしても取り寄せって……まるで通販だな。


「ぼったくったりはしてないぞ。と言うか世界の壁を越えて物を取り寄せるんだから運送費が高くつくのは当然だ。ついでに言えば機械を売る会社が有るとして、その会社がこの程度のはした金で機械の設計書を売ったりするかよ」

「あー、言われてみればそれもそうか」

 ロウィッチの言葉に俺は渋々であるが納得する。

 三単位と言うのがどの程度のお金になっているのかは分からないが、確かにその手の設計書は高いのが当たり前だよなぁ。

 しかも、世界の壁を越えて送るとかなれば特殊な魔法なり設備なりが必要になるんだから高くて当然か。


「ついでに言えば今回はお前の要望に合わせてとにかく効果の高さと安定性を優先したからなぁ……お、来たか」

『お届け物でーす』

「早っ!?」

「最大手舐めんな♪」

 と、ここで体高50cm程の小さなデフォルメされた海月が段ボールらしき物を抱えて室内に現れ、その海月の持ってきた機械にロウィッチが俺のカードをかざすと、受け取りが完了したのか段ボール箱を置いて消え去る。

 あー、もしかしなくても今のが世界間転移魔法とか言う奴か?正直一瞬過ぎて何をしているのか殆ど分からなかったが、凄く貴重な物を見た気がする。

 と言うか俺に見せて良かったのか?

 俺がその辺りについてロウィッチが訊いたところ。


「それを見せて問題なくするための会員証だ。と、それよりも商品の確認をしておけ、世界間の法則差による影響とか経年劣化を防ぐための存在固定パッキングをしているはずだけど、万が一ってことがあるからな」

「了解」

 そう返されたので俺は段ボールを開けて中からパック詰めされた五芒星や太極図が描かれている八本一組な針の様な物体を三セット取り出す。

 パックの表面には見た事が無いにも関わらずなぜだか読める字で『誰でも使える・アベノ先生のインスタント結界セット』と書かれ、裏にはその使い方らしきものが書かれている。

 どうやら遮蔽したい空間の頂点八ヶ所に針を刺して針の頂点にあるスイッチを押せばいいらしい。

 何と言うか……前世の大量生産された諸々を思い出して色々と不安にさせてくれるなぁ……しかもこのパックの力なのか中にある針からは一切力のようなものは感じないし。凄い技術が使われているのは理解できるけど本当に効果があるのか?


「ま、心配しなくても効果は確かだよ。千年以上続くロングセラーの商品だし、この世界にはきちんと魔力も有るから使用や保存についても妙なイレギュラーが起きる隙は無いはずだ」

「うーん。まあ、三セットも有るなら一本はお試し兼解析用に使ってもいいか」

「それも一つの手ではあるな。まあ、解析は多分無理。と言うかしても意味が無いだろうけど」

「ん?ああ、そう言う事か」

 俺はロウィッチのその言葉に一瞬疑問符を浮かべるが、すぐに理解する。

 以前ミズキが言っていたもんな。此処の商品に使われている魔法はこの世界の魔法とは法則が違うって、つまり基礎部分が違うから例え解析に成功しても参考になるかどうかすら怪しい訳か。


「とりあえず今後ともご贔屓にとは言っておく」

「あーうん。分かった」

 と言うわけで、俺は微妙に火種になりそうな気がする物を手に入れると、『ウミツキ文房具店』を後にするのであった。


 ……。

 内心では今日一番の成果は結界を張る手段が手に入った事よりも、世界間転移魔法の実物を一応とは言え見れたことかもしれないと思ったりもする。

 何気なくやっていたけど間違いなく大魔法の一つだろ。あれ。

アベノ先生は他にも『誰でも使える・アベノ先生の式神セット』や『誰でも使える・アベノ先生の占術セット』なんかも作っています。

魔力が無い世界でも使えるとか地味に神の仕事ですね。


05/31誤字訂正

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