前へ次へ
127/163

第127話「世界の外側で蠢くモノ」

今回南瓜は未出荷です

「フンフフーン♪」

 『塔』の一室。そこでは白衣を着た女性……『神喰らい』が無数にある同じようなキグルミに囲まれた状態で、新しいキグルミを手作業で作っていた。

 と、そこにマスクにフードを身に付けた女性……『管理者』がやってくる。


「例のアレの居る世界が分かった」

「それでー?」

「私は行く。貴様もアレを作った者の責任として一緒に来て貰うぞ」

「悪いけどパス。ピーちゃんに頼まれちゃったから私はこれを完成させないといけないし」

「なっ!?本気か!」

「本気本気。それにアレについては行動予測も渡したし、後は自分の手でも何とかなるでしょ?それとも何?私の可愛い可愛い妹は並の神様なら姿を見ただけで一目散に逃げ出すような超頼もしいお姉ちゃんが居ないと何も出来ないのかなー?それなら可愛い妹の頼みだし、お姉ちゃんてば頑張っちゃおうかなー……っぷ!?」

「もういい!貴様には頼まん!!」

 が、『神喰らい』の言葉に『管理者』は怒り、その場を後にする。


「まったくひどい姉だな。貴様は」

「……」

「お母様にウスヤミさん。動作確認どうもでーす」

 そして『管理者』が出て行ったところで無数に置かれている同じモチーフで作られているが、微妙に意匠が異なるキグルミの中に在る二つのキグルミから金色の虹彩を瞳に持った少女と額から角の生えたメイド服の女性が出てくる。


「性格がヒドイのはお母様譲りだと思いますよ」

「笑顔でそれを言うか」

「言いますねー」

 『神喰らい』はケラケラと笑いながら複数本の腕を生じさせてキグルミ作りを進め、お母様と呼ばれた少女はその言葉に思わず苦笑いをする。


「キグルミの方は問題なかった。それで、件の世界には誰が居ると思っている?」

「なら送っていいですねー。件の世界についてはたぶん『根』が居ますね。ついでに言えばお母様との実力差は結構ついてますからその気になればいつでも狩れると思いますよ?」

「つまり貴様は全てを知った上で放置していたのか」

「さて、それはどうでしょうね?一応上級神とは言え私は全知全能とは程遠いですし。いずれにせよ今回の件で私がするべき事の大半は終っていますから、後は最後の方でちょっと手を加えるだけです」

「まったく……貴様の不真面目な真面目さには困ったものだな」

「お母様の望みは一番理解してますけどねー」

「だからこそ余計に性質が悪いんだがな」

「よーし、完成。チープ系特撮版用カミハングリーちゃん!」

「まったく……だから貴様は失敗作と呼ばざるを得ないんだ」

「褒め言葉ですねー」

 お母様が溜息を吐く中で『神喰らい』は何かの機械を操作して誰かと連絡を取り合う。

 そして交渉がまとまったのか『神喰らい』が指を一度パチンと鳴らすと、部屋の中に置かれていたキグルミが全て消える。

 仮にこの場にパンプキンが居れば複数の対象に対してほぼノータイムで転移魔法……それも次元転移魔法を使ったと言う事実に対して驚愕の意を示すだろうが、この場に居る者にとっては日常的な光景であるために特に反応は無い。


「ところでだ」

「何でしょうか?」

 お母様と『神喰らい』はお互いに虚空から椅子を生じさせるとそこに座り、そんな二人の間にメイドの女性が何処からか持ってきたテーブルとティーセットを一通り置いて茶の準備を始める。


「貴様は以前、『(ミリタリー)』と余所の神々に対して情報を流し、一つの世界に集めさせたな」

「実力が拮抗しているせいで今でも交戦中ですねー。おかげで軍需物資が飛ぶように売れて大儲けだってチーさんが言ってました」

「『模造品(イミテート)』に世界管理用のAIを渡した事も有ったな」

「それはだいぶ昔の話ですよ。それに最終的にはその子はお母様に寝返ってるじゃないですか」

「エレシーの奴が作った拘束を『死神(デス)』が突破しそうになったらしいな」

「アバドモルならともかく、あの娘がした仕事にしては珍しい事ですよねー」

「今回の件で『(ルーツ)』は少なくとも下級神に匹敵するようなレベルの使徒を手に入れるぞ」

「無事に終われば。の話ですけどね」

「『狂正者(サニティ)』の宝玉が行方不明だ」

「仕様書通りなら例の兵器に搭載してますねー。でももう使っちゃってるかも?」

「他にも貴様が関わっているとされている案件がいくつも私の耳に届いているんだが?」

「お母様ってば本当に地獄耳ですねぇ。でも、真偽ぐらいはきちんと確認してくださいねー、全部が全部本当とは限らないんですから」

「…………ハァ」

「溜息を吐いたら幸せが逃げますよ。それにいったい何が言いたいんです?お母様ってば不思議な事をしますねークスクスクス」

 二人はティーカップに入れられた紅茶を楽しみながら言葉を重ねていき、二人が言葉を重ねていくと同時に二人の発する様々な圧に押されて周囲の空間には無数の綻びとヒビが生じ始める。


「私の望みを一番に理解していると言ったな。では聞くが、私の望みを叶える気はあるのか?」

「そりゃあ、勿論ありますよ。だって私もエレシーもアバドモルも、それどころか『塔』に所属する私たち全員の存在理由が本来はそれじゃないですか。まあ、個々の望みを優先する子が居るのは否定しませんけど、そう言う子もそう言う子なりに第二目標としてお母様の望みを叶えるべく動いていますし」

「他の娘たちの話はしていない。で、貴様のやることは信用していいんだな?」

「盲信はしないでほしいですけどね。なにせ私ってばお母様の作品の中では明らかな失敗作なわけですし。まあ、最終的な帳尻合わせは何とかしますし、最後が良ければその道中でいくら遊んでも問題にはなりませんよねー」

「分かった。ならばこれ以上はとやかく言わん。だが、遊び過ぎて足元を掬われるなよ」

 そう言い残すと『神喰らい』の持っているティーカップに座っている椅子を残してお母様もメイドの女性も部屋の中から一瞬にして消え去り、それと共に空間に生じていたヒビや綻びも消え去っていく。

 そして一人部屋に残された『神喰らい』は満面の笑みを浮かべ、


「クスクスクス。遊び過ぎて足元を掬われるですか、それもまた一興で良いじゃないですか。それに私の足元を掬えるだけの存在ならそれこそ一番成功作に近いわけですし」


 一人で楽し気に笑いながらそう呟くのであった。

『神喰らい』は閣下、ロキ、ニャル様、アジ・ダハーカ、キマイラ等の存在を混ぜ合わせて適当な数で割ったような存在です。

まあ、系統的にはトリックスターに分類される神様ですね(邪神、悪神分類の方が近い気もしますが)

前へ次へ目次