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第125話「南瓜と大きな木-4」

「で、結局はお前は何者で、何時からどうして此処に住んでいるんだ?」

「ぐぬぬ……どうして我が……」

「ああん?」

「ひっ!?にぎゃああぁぁ!?」

 さて、自称大地の精霊王さんが大人しくなったところで俺は質問をしようとしたが、どうにも反抗的なので【レゾナンス】を使ってお互いの魔力を無理やり共振させる。

 精霊は魔力で身体を構成しているからな。こうしてやると全身が小刻みに激しく揺さぶられてすごく気持ち悪くなるらしい。


「ううっ……どうして【レゾナンス】をこやつが使えるのだ……」

「いいから喋れや」

 なお、同じ精霊なのにミズキに比べて扱いが悪いのは初対面の印象が悪すぎるためである。

 後、完全に大人しくなるまでにいくつかの脅しをかけてきたと言うのも有る。その手の脅しについては更なる脅しをかけて黙らせたが。


「ふん。まあいいだろう。まず我は大地の精霊王だ。王であるが故に個体名は無い。ここにはとある契約で500年ほど前から住んでいて、このリーンの森全体の地脈を調整しておる」

「へー」

「へーとは何だ!へーとは!我が仕事をしているからこそ日々この森の植物は栄えるのだぞ!それに【レゾナンス】を使っていると言う事はそもそも我等が契約している相手は同じであろうが!!」

「ん?」

 と、ここで大地の精霊王の口から聞き逃せない言葉が出てくる。

 俺と大地の精霊王が契約している相手が同じ?俺がしている契約とか有ったか?いやまあ、センコ国の男爵位とかは考えようによっては契約と言えるかもしれないが、大地の精霊王に同じ相手と言わせる事は無いよなぁ……そう考えると……うん。思いつくのは一人と言うか一柱だけだな。


「名前は出すなよ。今は奴の時間だ。お前が奴の欠片を持っていることから考えても恐らくは見られている」

「……」

 俺がお互いの契約している相手がリーン様だと気づいたことに顔から察したのか、大地の精霊王が俺に対してそう注意を促す。

 それにしても見られているか……今の時刻はたしか夜だったはずだが、今日は満月で比較的明るかったよな。その中でも見えている?

 ああいや、明るさ以上にこの樹の周囲にある魔力の影響で普通は見えないはずだ。なのに見えると言う事は相当特殊な目でこっちを見ている可能性があるな。

 そしてそんな目を持っている可能性がある存在でかつ俺が奴の欠片を持っている……となると『陰落ち』を起こしている兵器が一番有り得るか。


「大地の精霊王。アンタは奴の事を知っているのか?」

「知っている。が、今は喋れん。一応ジャミングはしているが、我の能力ではバレる可能性が高い」

「分かった。なら言わなくていい」

 俺としては出来れば例の兵器に関しての情報を少しでもいいから集めたかったのだが、見られていることを考えると情報を話すわけにはいかないらしい。

 イズミの話じゃ例の兵器は状況に合わせて自己進化するとか言ってたからなぁ……弱点について何かを話したらその情報に合わせて対策を練ってくる可能性も考えないといけないのか。

 本当に厄介だな……。

 とりあえず、ロウィッチが以前使ってたような結界魔法を今度会う時にまで考えておくか。そうすれば話を聞けるだろう。


「すまんな。話せない詫びと言うよりは表向きにはこれを求めてきたと言う事にしておくためにこれを渡しておこう」

「ん?」

 そう言うと大地の精霊王は手近な樹の幹から枝を一本生やして俺の方に放り投げる。

 その枝は長さが大体1m半で、片方の先端は丸まっており、もう片方はとても持ちやすい形をしている。

 また、今は魔力視認能力を下げているので分からないが、枝から伝わってくる気配からして相当量の魔力が込められているのは間違いないだろう。

 何と言うか……凄く杖の素材にし易い気がする。


「我の力を込めた枝だ。何のために奴の欠片を持っているのかは分からないが、素材としては奴の欠片にも劣らないはずだ」

「確かに込められている魔力量は凄まじいな」

 俺は枝を軽く振りながらそう言う。

 ただまあ、何と言うか穂先を付けたら槍にもなりそうな長さでもあるし、加工の仕方次第では色々と作れる気がする。

 そしてついでに言うとだ。


「ところで大地の精霊王様?どうせならこの枝に釣り合うような素材について他にも心当たりは有りませんかねぇ」

「今更様付けをせんでいいわ。気持ち悪い……」

 折角敬いの心を見せたと言うに……まあ、本人がしないでいいと言うなら今後は付けないが。


「で、我の枝に釣り合う素材か。心当たりは幾つか有るな」

「ほう」

 大地の精霊王はそう言いながら思案顔を見せる。

 これは良い情報だな。例の兵器についての情報は得られなかったが、俺自身の強化につながるこの情報もまた重要だ。

 と言うわけで俺は是非とも聞きたいと言う顔をしておく。


「我の知る限りでは此処から北にあるサンホロと言う都市と、此処から南に行って海を越えた先に有るサンタック島と言う火山島じゃな」

「サンホロとサンタック島?」

「うむ。サンホロには自称魔王が居て、そやつが大量の魔力を秘めた宝石を持っているとか風の精霊王の奴が言っておった。サンタック島については竜たちが住んでおってな。竜たち自身の肉体も素材として有用じゃが、それ以上に良い鉱石が産出されたり、良い炉が有ると言う話は聞くの」

「ふうむ」

 なるほどな。北と南か。これは良い情報だな。

 どちらから行くにしてもこれは大切な話だ。


「分かった。いずれ行ってみるとしよう。じゃ、俺は失礼させてもらうわ」

「うむ。何時か我が知っていることについて話せる時が来ればいいの」

「そうだな」

 そして俺は大地の精霊王に別れを告げると、巨大な樹を後にしてサンサーラエッグ村に戻るのであった。

ラストも徐々に近づいています(意味深)


05/28誤字訂正

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