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第123話「南瓜と大きな木-2」

「なるほど、周囲の魔力を吸収して自己修復に回す魔法か」

 しばらく飛んで樹の根元にまでやって来た俺は幹の間から見える鉄骨の一本を観察して掛けられている魔法について調べ、その結果としてこの建造物には周囲の大気中に存在している魔力を吸収することによって予め定義された状態を保ち、その結果として経年劣化を防いでいる事が分かった。

 尤も、経年劣化を防ぐと言っても自己修復のペースはさほど早くなく、しかも周囲の魔力濃度が一定レベル以上必要な事や、それなりに大規模な魔法っぽい事、それに高威力の魔法でなら破壊する事も可能な事を考えると森の外ではとても使えたものでは無いが。


「さて、中に入るなら……この辺りか」

 で、この塔にかかっている魔法の正体も分かったところで俺は比較的鉄骨や樹の厚みが薄い所を探し出すと、掌に魔力を込め始める。

 なお、わざわざ中に入るのは楽に樹を登る為でもあるが、塔の内部に有る諸々を調べる為でもある。

 この樹はヤドリギ系の樹だから芯にしている物次第では中に空間が有るのは当然の話だからな。

 と言うわけで魔力濃度や壁を叩いた際の音の響き方、それに隙間から中を覗いた感じとして内部に空間が有る事を確認した所でだ。


「フン!」

 俺は魔力を込めて大幅に強度と威力を上げた手で樹の壁を掘る!


「フンフン!ソイヤ!」

 掘って掘って掘りまくる!

 それにしてもマジクの時に掘った床よりも明らかに強度は上だが、本気で行けばこの程度の強度の壁なら十分に掘れるのだから、俺も成長したものである。


「ダアラッシャアァ!!よし、開いた」

 で、しばらく掘りつづけて建物に掛けられた自己修復魔法ごと鉄骨を粉砕し、木の壁を突き破ったところで俺の頭を入れるのに十分な隙間が出来たので、身体を構成していた蔓をほどいて隙間から塔と樹の内部に存在している空間に入り込む。

 まるで蛸を始めとした軟体生物のような動きだが、こういう荒業はスパルプキンとはまた微妙に違う種族である俺だからこそ出来る技である。


「よっと」

 で、中に入ったところで周囲の魔力濃度に合わせて魔力視認能力のレベルを調整、魔力を目視することによって他の生物を感知するのは難しくなるが、これをしなければそもそも視界がゼロになるのでしょうがない。

 そしてそれと同時にほどいていた蔓を元通りにまとめあげて身体を作り直す。これでいつも通りに動けるな。


「さて、手近なところから調べていきますか」

 俺は組み直した身体の調子を確かめながら、蓄光性のある石を使った共鳴魔法で明かりを灯して塔の中を調べていく。

 まず俺が突入した場所だが、そこは通路になっているらしくいくつもの扉と窓が見える。

 流石にポスターや掲示板なんかは状態維持魔法の対象外らしく、そう言った資料は残っていないが、通路を覆っている埃の厚さからして本当に長い間人の手が入っていない事は確かだろう。


「ふーむ……」

 で、次にこっちは状態維持魔法の対象らしく、何の問題なく魔力で動作していると思しき扉の一つを開けて中に入る。


「まるで分らん」

 そうして中に入った部屋の中に有ったのは何かしらの機械。

 モニターやキーボードらしきものが存在することを考えるとパソコンに近い何かなのだろうが、動力が来ていないので動かないし、近くにある資料も保存状態が良いおかげできちんと読める状態で残っているが、使われている文字などが現代の物とは微妙に違ったりして読む事は出来ない。

 ただまあ、幾つか読める単語も有るようだし、それから読み取れる限りで読み取る努力はしてみよう。


「えーと、遠く……サンホロ……サンタック島……竜……通信……空……黒い満月?滅び……不可避……悪夢……」

 で、読み取った結果として分からない事がさらに増えた。

 うーん。文面を見る限りではここに務めていた誰かさんの日記っぽいが、詳細が分からないからなぁ……とりあえずこうして文明が滅んでいることから考えても分かるように後の方の日記になればなるほど切羽詰っている感じはするな。

 そう考えると何時かの『陰落ち』について語った貴重な資料である可能性は高そうだよな……うーん。持ち帰ってきちんと調べるか。


「じゃあ、次の部屋に行ってみるか」

 と言うわけでこの部屋について一通り調べたところで俺は次の部屋に移動して同様の調査を進める。

 で、そうやって次々に塔内部の部屋を調べていくうちに分かってきたのだが、どうやらこの塔は元々対遠距離用の通信魔法の発信場として建てられ、利用されていたらしい。

 その通信魔法の精度と距離は現存している物とは比較にならないほど高く、残されている資料を見る限りではリーンの森の深部に当たるこの塔からセンコノトの先にまで正確に映像と音声を届かせることが出来たようだ。

 尤も通信先にも此処と同じような塔が無いと受信は出来ないようだが。

 なお、カラーリングについては当時の設計者の一人がそこだけ妙に拘った模様。転生者か?


「さて、一通り調べ終わったし……次はここか」

 そうこうしている内にとりあえず内部の通路が繋がっていて簡単に行ける場所は調べ終わったので、俺は通路にある扉の一つに近づく。

 その扉は左右に開く扉であり、扉の横には上矢印と思しきマークが付いたボタンが有る。

 うん。これはエレベーターだな。エレベーターは状態維持魔法の対象なのかしっかりと稼働もしてる。

 と言うわけで俺はエレベーターを呼んで扉を開け、中に入るとエレベーターの天井を突き破ってエレベーターの箱部分が上下するために存在している空間に入り、そこから上に向かって飛んでいく。

 ま、わざわざ遅くて狙いやすい乗り物に乗る必要なんて無いよな。

エレベーターは犠牲になったのだ。不意打ち対策と言う名の犠牲にな。

エレベーターェ……

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