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第122話「南瓜と大きな木-1」

「なるほど……こりゃあ確かに大きいな……」

 サンサーラエッグ村を出た俺は、本来ならば一週間はかかるとされた行程を木々の上を飛んでいく事によって道に迷う事も、森を徘徊する魔獣に襲われることも、地形の関係で遠回りを余儀なくされることも無く、ほぼ丸一日程飛ぶことによってゴーリキィの報告に有った巨大な樹に到達した。

 で、肝心の樹だが現在俺はある程度離れた場所の地上から眺めているのだがゴーリキィの報告に有ったように確かに大きい……と言うか大き過ぎる。

 なにせ周囲の樹も高さにして20~30m程有るのだが……件の樹についてはそんな周囲の樹と比較して最低でも数百mは有る。

 はっきり言ってデカすぎる。


「で、魔力や構造についても報告通りと」

 さて、そのサイズに圧倒されそうになるがこの巨大な樹の頂上の辺りには、これもゴーリキィから報告が有った通りにだが大量の魔力が存在していて、俺の目にはまるで霧か何かで樹の頂上が覆われているように見えている。

 そして構造としては芯に何かの建物が存在しており、それに絡み付くように樹が成長している。これもゴーリキィの報告通りだな。

 それでより詳しく見ていくと、芯にされている建物は複数の鉄骨……恐らくは何かしらの魔法によって強度や耐環境性を上げられたものだろう。そんな鉄骨を組み合わせて建てられた何かしらの用途が存在する塔であることが分かる。

 で、幹と枝の合間から見える部分で判断する限りでは基本的なカラーリングは赤と白か。

 うーん。とてつもなく高い塔で、赤と白のカラーリング……何か記憶の片隅に引っかかる物が有るんだが出てこない……。

 まあ、今世で引っかかる覚えは無いから前世の何かで引っかかっているんだろうが、なんだかんだでこの世界に転生してきてから結構長いしなぁ……前世の事で忘れていることが有ってもしょうがないか。


「とりあえず空を飛んで近づくのは……止めた方が良さそうだな」

 俺は魔力の視認レベルを下げた状態で樹の頂上を見る。

 すると樹の頂上付近では樹から放出されている魔力の影響なのか大規模な乱気流が発生しており、近づく者を容赦なく遠ざけ、バランスを失わせて地面に叩きつけるようになっている。

 俺が以前やった魔力による防音魔法の様に空気の動きを無理やり停止させれば結果として風を防ぐことも出来そうだが……相手も魔力で風を起こしているわけだしなぁ……お互いの魔力が妙な干渉をしあった結果として大惨事になる可能性を考えると真正面から突っ切るのは危険か。


「ん?」

 と、ここで俺は背中に何か視線を感じて振り返る。

 が、振り返ってみても誰も居ない。

 俺は相手が何かしらの魔法を使って隠れている可能性も考慮して下げていた魔力視認能力を少しずつ引き上げながら周囲を観察するが、特に魔力は見えない。

 となれば考えられるのは俺の気のせいか、高い魔力操作能力によって俺の目を誤魔化しているかだな。


「と言うか今気づいたんだが、この辺りの魔力は色々と手が加えられているみたいだな」

 さて、魔力視認能力を高めた結果として気づいたんだが、どうやらこの辺り一帯の地中に含まれている魔力はこの塔を建てた何者かによって調整されているらしく、地中にはいくつもの妙に直線的な魔力の流れが存在している。

 そして魔力の流れの行きつく先は……。


「そしてそうやって集められた魔力は例の樹に集められていると」

 当然の様にあの巨大な樹である。

 どうやらあの樹はこの辺り一帯の魔力を一身に集めたことによってあそこまで巨大化したらしい。

 ついでに確認した感じだと、魔力の流れを調整するためなのか、それとも単純に地下空間を利用するためなのかは分からないが、この辺り一帯の地中には様々な物質が埋まっていたり、妙に小奇麗な空間が出来ている感じがする。

 魔力濃度の片寄り方的にそんな感じがする。


「さて、どうするか……」

 で、そこまで確認した所で魔力視認能力は普段のレベルに戻す。

 さて、この時点で俺が取るべき行動は二つある。

 一つは素直にあの樹を調べる事。もう一つは先程の視線の主を探し出す事。

 俺の気のせいの可能性もあるが、正直に言ってその可能性は低いと思っている。これでも俺は魔法使いとして一流の腕を持っていると言う自負はあるからな。

 そして視線と言うものには魔眼と呼ばれる物を代表として、視線を介して対象に掛ける魔法が色々と存在するように、魔法的に魔力が込めやすい物であり、素人ではどうしても視線に微量ではあるが魔力がこもってしまう。

 と言うわけで元々魔力を感知する能力が高い魔法使いとして意外と誰かに見られているという感覚は馬鹿に出来ないのである。

 尤もそんな俺でも今現在の居場所を探れない辺りに相手の力量も相当の物だと判断せざる得ないが。


「まあ、何かを仕掛けてくる気配もしないし。当初の予定通りと行くか」

 さて、本音を言えば後顧の憂いはしっかりと断っておきたい所ではあるが、このまま相手が何か仕掛けてくるまで待つのも、俺が探し出そうとするのもあまりにも非効率だろう。

 そんなわけで俺は周囲への警戒レベルを上げつつ、木の根元に向かって移動を始めるのであった。

樹が絡み付いているのはアレです。あの電波塔です。

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