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第12話「秋の南瓜-5」

 アキューム湖でミズキから魔法に関する初歩的な知識を教えてもらった翌日。

 朝の修行を終えた俺はいつもの様に研究を始めていた。


「ふん、ふーん」

 俺は出来る限り俺本来の魔力と色が近い草を拾ってくると、それを片手に持った状態で踊って魔力の色を変更しながら草に魔力を流し込んでいく。

 もちろん、色を変える事を意識しつつ何か起きろーとも念じておく。

 これなら精製効率は大幅によくなるし、何処かに当たりがあれば何かしらの反応が出てくるだろう。ミズキの話から察するに魔法は使用者の意思の影響を受けやすいようだしな。


「ふっ、ほっ、はいはい」

 で、もしかしたら特定の順番や間隔で流すとかそう言う条件がある可能性も有るので、何パターンも踊り方は試す。

 え?こんな事をしてる暇があるなら詠唱とか道具とか魔法使いへの弟子入りとか考えないのかって?

 ファンタジーの定番で詠唱や道具は本当に特定の物、特別な物しか受け付けない可能性が高そうだし、それらを一から研究するとどれだけ時間がかかっても終わりそうにないんだもの。

 それと弟子入りについてはよほど変わり者の魔法使いを見つけないと無理だと思って、最初から諦めてる。

 だって、カボチャだし。


「ん?」

 と、ここでほんの一瞬だが手に持った葉っぱに何か反応があった気がする。

 具体的に何があったと聞かれると困るぐらいの微細な反応だけど。


「とりあえずここを起点にしてみるか」

 ただ、何かあったのは確かなので、反応があった所から思いつく限りのパターンを次々に試していく。



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「ふっ、はっ、そいやっ……さ!おおっ!」

 数時間後。時折水分補給をしつつ踊り続けていた俺の手の中で草が大きく輝きだす。

 その輝きはただ流し込んだり、【オーバーバースト】とは明らかに違う輝きだった。


「ん?ああ……」

 が、感動する俺の前で徐々に光の強さは弱まっていく。どうやらまだ少し何かが違うらしい。


「でも、もう少しだ。あともう少しで何かが起き……ん?」

 ただそれでも何かを掴んだと言う感覚があったのは確かであるため、俺はその感覚を忘れない内にもう一度この草を光らせるための手順を行おうとする……が、その前に拠点を取り囲む茂みが揺れる音がした気がするので音の出元であろう方向を向く。


「グマアァ……」

「…………」

 そこに居たのは巨大で緑と茶色が入り混じった迷彩柄の熊。その手からは赤い魔力が漏れ出ており、爪の鋭さや腕の太さから察するにちょっとした木なら簡単にへし折れるだけの威力は間違いなく秘めているだろう。


「……」

「……」

 そんな熊が俺の方をじっと見つめている。

 その目に宿っているのは冬に備えて少しでも栄養を蓄えておきたいと言う意思。つまりは食欲であり、口の端からは涎が垂れている。

 と言うわけで、


「ヒュロロロォォ!!」

「グマアアアァァ!!」

 熊が突撃を開始する前に俺は上空に向かって高速で飛ぶことで素早くその場から離脱する。

 そして俺が手を出せない位置に逃げたのを見ると熊は下で「降りてこい」と言わんばかりに吠えてくる。

 はっきり言おう。


「誰が下りるか!お前の爪なんぞ喰らった日には全力で体を強化してても吹っ飛ぶわ!!」

 正面からやり合うとか絶対にごめんだ。

 魔力の総量で見たって俺と同等か俺よりも多いぐらいなんだぞ!絶対に手が届く範囲に何て行ってやるか!


「グンマアアァァ!!」

「やかましい!【ガストブロー】!」

「グマッ!」

「ちっ」

 俺は上から【ガストブロー】を熊に向かって放つが、真正面から顔に【ガストブロー】を受けたはずの熊は何事も無かったかのように顔を振る。

 距離も有るが、攻撃側と防御側での魔力量の差が問題になっている気もするな。


「放置しておけば帰る……って言う雰囲気でもないよな」

 熊は上空で待機しているこちらの様子を窺いながら、どうにかして攻撃を仕掛けられないか窺っている。

 まったく、この森の動物たちはどうにも粘着質でこういう時面倒だな。


「ただ、まともにやり合ってやる義理は無いし。このままここで研究を続けてるか。ついでに熊をどうにかしろーってイメージしてれば何か起きるかもしれないしな」

 と言うわけで俺は下でウロウロしている熊を尻目に研究の続きを行う事とする。

 それに俺と違って熊は腹が減るしな。腹が限界まで減れば退かざるえないだろう。


「ふんふーん♪」

「グマグマアァ!」

 そんなわけで下で騒いでいる熊公の撃退を目標と定めて先ほどの研究の続きをする。

 後もう少しで何かが起きそうだったし、頑張る価値はあるだろう。


「ほいほい、ほいっさ♪」

 どうでもいいが実戦でこれだけ踊ってたら隙だらけだよなぁ。


「てんてろ♪てんてーん♪」

 となると仮に上手くいってももっと踊りを簡略化するか、踊り自体を回避や攻撃の一部として組み込む必要があるよな。


「へいへいほー♪ふん、ほっ、たっ♪」

 てことはやっぱり修行と研究は欠かせないな。


「ふっ、はっ、そいやっ……さ!」

 まだまだ先が長いとすると冬支度も始めないとなぁ。何が必要かも分からないが。


「へいさっ!よいさっ!ふん!!」

「グマッ!?」

 と、ここで俺の手に持つ草が先ほどよりもさらに強く輝きだしたため、俺は草を熊の方に向ける。

 すると放たれている魔力の量にビビったのか熊が逃げ出し始める。

 だがもう遅い。何が起こるかは分からないが、何かは起きるぞ!


「おおっ……!」

「グ……!?」

 俺は光が最大限にまで強くなったところで仮に【オーバーバースト】が起きてもいいように草を熊の方に向かって投げつける。

 そして、熊の近くで閃光が周囲に向かって放たれると同時に草が塵になって消えていくとともに煙の様な物が熊を巻き込みながら発生する。


「…………」

「お!?」

 やがて煙が晴れる。すると煙が晴れた先には……


「ZZZ……」

「……」

 完全に熟睡状態の熊が居た。


 ……。うん。とりあえず吸血して仕留めとこう。


 初めて飲んだ熊の血は美味しかったと言っておく。

遂に来ましたとも

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