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第119話「学院都市クルイカ-12」

「大丈夫?随分と驚いているようだけど……」

「あー……うん。大丈夫だ。流石に驚きはしたけどな」

 動揺している俺に対してイズミが気遣うような言葉を掛けてきたので、俺は動揺の理由を悟られないようにだけ注意しつつ返す。


「ならいいけど。いずれにしてもまずは兵器が何処にあるかを探し出さないといけないのは確か」

「分かってるさ。とりあえずイズミは学院で情報を探すって事でいいんだよな?」

「うん。イズミは歴史科所属の生徒って事になっているから、その立場を活用するつもり」

「なら、何か分かった時点でマジク経由で俺に連絡してくれ。立場上俺の方が自由に動けるだろうからな」

「分かった。これからよろしくね。パンプキン」

「こちらこそよろしくな。イズミ」

 そして俺とイズミは協力関係を結ぶことを証明するような握手を交わすとこの場を後にし、その翌日には俺はウリコとマジクに別れを告げ、マドサ侯爵に礼を言ってからクルイカを後にした。

 さて、イズミと協力関係を結んだのは良いが上手く出し抜いてその兵器とやらを破壊しないとな。

 でないと協力してくれるイズミには悪いが、回収された後にその兵器の矛先がこちらに向けられないとも限らないからな。



■■■■■



『標準時空上を走査。敵性存在の反応無し。敵性存在の残滓を確認。特殊時空への転移を確認』


 それはこの世界で敵を探していた。


『該当時空への転移が現装備で可能か検討……不可能。装備の強化を提案。承認。強化プランを提示……』


 それは誰にも見つからない地で自らの力を高めていた。


『現在の装備と敵性存在の戦力を比較。現在の勝率は……』


 それはただ貪欲に自らが作られた目的を果たそうとしていた。


『プランの作成完了。実行に移します』


 そしてそれは動き出した。



■■■■■



「すみません。イヴ姉さま。仕事がなかなか終わらなくて」

「やっほー、エレシー。遅れたのは別にいいよ。無理を言ったのは私だし」

 ここは多次元間貿易会社コンプレックスの一角にあるカフェ『海に浮かぶ月』。

 別の世界から多次元間貿易会社コンプレックスを訪れた神向けに開放されているそのカフェで『神喰らい』と呼ばれている女性と『電子の女帝』とも呼ばれている女性……エレシーが会っていた。


「それで、早速ですみませんけど、わざわざ私を呼び出すだなんて用件は何ですか?イヴ姉さま」

「とあるAIの行動予測をしてもらおうと思ってね」

「行動予測ですか……」

 女性からエレシーに一枚の紙が渡される。

 その紙にはとある兵器の仕様とその兵器が“現在”置かれている状況に関して事細かに書かれており、明らかに普通の人間が手に入れられるようなレベルの資料では無かった。


「うーん……」

「どうしたの?」

「イヴ姉さまが自分で作った方が早いし正確な気もするんですけど……それじゃあ駄目なんですか?私の予想だと当たる確率は良くて八割ぐらいですよ?」

 紙を受け取ったエレシーは頭の中で早速計算を始めつつ、女性と自分のスペック差を正確に把握しているために女性に向かって疑問を投げかける。


「それはそうだけどねー。でもそれじゃあ面白くないじゃない。この手の話はブレが有ってこそよ。それにこの前大量の装備品と薬剤、道具類を作ってあげたじゃない」

「それはそうなんですけど。そういうものですか?」

「そういうものよ」

 内心でモル姉さまの胃がまた痛くなりそうだなぁと思いつつもエレシーは頭の中で計算を続け、その計算結果を別の紙に書いていく。


「お待たせ致しました」

「ん?」

「おっ、キタキタ」

 と、そうやっているところにウェイトレス服を着た水色の髪に紫色の目をした女性がワゴンのような物を押しながらやってきたため、エレシーが頭の上に疑問符を浮かべると共に女性が笑顔を浮かべる。


「あ、エレシーはそのまま計算を続けてて、私の小腹が空いただけだから」

「そう……なんですか?」

「どちらに置きましょうか?」

「この辺でお願いします」

「分かりましたー」

 女性にそう言われたためにエレシーは素直に計算を続け、その脇ではウェイトレスの女性によって料理が出されていく。

 ただし……


「レオレタスのサラダになります。ミノタウロスのステーキになります。ライス(銀河盛り)になります。ミオパンシェンのスープになります。セーフリームニルの丸焼きになります。技巧蟹の姿煮になります。エスペランザパスタになります。ダイダロス餅になります。ニャアの刺身に……」

「どんだけ頼んでるんですか!」

「え?50品ぐらい?」

 一品一品のボリュームですら明らかに女性の体積以上である品ばかりが次々にテーブルの上に並べられていき、一つのテーブルでは料理を乗せきれずに他のテーブルを繋げたり、空間魔法によって店の内部空間そのものを広げていくその光景に何処の世界の神々かは分からないが、周囲からの視線が女性に向かって注がれる。


「……ます。アムリタになります。ソーマになります。バベルパフェになります。以上56品になります。伝票はこちらに置いておきますね」

「どーもー。いやー、これが楽しみでわざわざここに出向いたんだよねー。じゃ、私は食べてるからその間に書いておいてね」

「…………」

 そして最後に天を衝くような超巨大なパフェがテーブルの上に置かれ、テーブルの上が有機物、無機物問わない混沌としか言いようのない品々で満たされた時にエレシーが思ったのは……


 見てるだけで胸焼けしそう……


 と言う非常に素直な感想だった。


 なお、その後この女性は一時間ほどで全ての品を食べきると、エレシーからAIの行動を予測した紙を受け取って多次元間貿易会社コンプレックスを後にするのであった。

学院都市クルイカ編終了です


最後の品目は適当ですよ

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