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第118話「学院都市クルイカ-11」

「『陰落ち』……そんなものが……」

「その様子から察するに『陰落ち』の原因がそっちの探している物という事でよさそうだな」

 俺から『陰落ち』について聞いたイズミは神妙な面持ちで頷く。


「うん。イズミの持っている情報とも被害規模が一致しているし、まず間違いないと思う。それに何度も被害が出ている以上は次の起動まで時間的な余裕はもう無いかも」

「だな。前回起きたのは二百年程前らしいが、五百年周期と言っても完全に決まっているわけじゃ無いからいつ起きたっておかしくは無いだろうな」

 俺の率直な言葉にイズミは何かを覚悟したような顔を見せる。


「パンプキン。さっきは協力は不要と言ったけど、イズミも明かして問題ない情報は明かすから、貴方にも兵器が何処にあるか探すのを協力してもらいたい。イズミはタイガの住んでいる世界であんな物を使われたくない」

 そう言って右手を俺に向かって差し出したイズミの目には強い意志の力が宿っていた。

 どうやらイズミにとっては依頼人よりもマジク……より正確に言えばマジクの前世であるタイガと言う存在の方が遥かに重要らしい。

 まあ、味方をしてくれると言うなら断る必要は無いな。

 ただ一つ確認しておく必要もある。


「それは最悪の場合、破壊することも辞さないって事でいいのか?」

「もし、探し出した時点で起動していたり、起動しかけていたらそのつもり。私の依頼主には悪いけど」

「分かった。そう言う事なら申し出を受けさせてもらおう」

 そして俺はイズミの手を握り、握手を交わした。

 これで俺は大きな味方を得たと考えてもいいだろう。なにせイズミの情報次第では今までまるで分からなかった『陰落ち』の詳細も分かるのだから。


「じゃあ、早速になるけどイズミの持っている情報の中で明かしても問題の無い情報は明かさせてもらう」

「分かった」

 と言うわけで早速『陰落ち』を起こしている兵器とやらに関してイズミが説明を始めた。



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「まず、イズミが探しているのは最初に言ったようにとある兵器」

「うん。それは聞いたな」

「その兵器の目的は自分の意思で敵を探しだし、その敵が居る場所(世界)まで独力で移動、探し出した敵を殲滅する事。特徴としては仮に敵を見つけ出した後に倒せなかった場合は自分の身に擬態を施して姿を隠した後に勝てる様になるまで周囲にある物質を利用して成長をすると言う性質を持っている」

 それは……なんて言うか厄介極まりないな。

 イズミの話を聞いた俺は素直にそう思った。

 兵器が勝手に動き出すって言うのは製作者の正気を疑いたくなる部分だがそれはさておいても、倒せなければ擬態で時間稼ぎをしつつ、勝てる様になるまで周囲にある物質を利用して成長するとか厄介極まりない。

 しかも、恐らくだが迂闊に手を出して半端に壊せば世界の外側に逃げ出して俺程度じゃ追うことも出来なくなる気もする。


「正直、製作者を一発ぐらい殴りたくなるな」

「それは止めた方が良いかも。製作者はイズミの数十倍は少なくても強い神様だから……」

「そうか……」

 俺の正直な感想に対してイズミは心底うんざりした感じの顔を見せる。

 何となくだがイズミもその製作者とやらには迷惑をかけられているのかもしれない。ちょっと同情する。


「それでその兵器の名称や具体的な外見や兵装は?」

「名称については何処で感知しているか分からないから言えないかも、外見についてはイズミの持っている資料では六枚羽の竜という事になっているみたいだけど、既に何百年も経っている事や擬態をしている事も考えると多分当てにはならないと思う。兵装については資料では広域殲滅を目的とした兵装が中心になっているかな。ただ、こっちも見つけ出した敵に合わせて自己改良している可能性が高いから何とも言えないかも」

「ふうむ……」

 自己改良を繰り返す兵器だからやっぱり昔の資料だとあまり当てにはならないか。

 とりあえず広域殲滅兵器については今でも保有していそうだな。『陰落ち』とかは正にそう言った兵器を使っていそうだ。


「となると探し出すにあたって問題になるのは何に擬態しているかだな。後、その兵器が何を探しているかも探し出すにあたっては重要そうだ」

「うん。その二つはイズミも重要だと思う」

「ワンッ」

 イズミの話を聞いて思わず俺が呟いた言葉にイズミも半分空気になっていた狼も同意を示す。

 実際それが分かっているかいないかで探し出せるか否かがだいぶ変わると思う。

 と言うわけでイズミに心当たりを聞いた所……。


「擬態については追っている相手を監視しやすい場所に合せた偽装をしているとは思う。それで何を探しているかだけど……」

 そこでイズミは何か言い淀むような表情を見せる。

 うーん。もしかしなくても面倒な相手かな?こりゃあ。

 だが、それを喋らなければ進展が無いと判断したのか、意を決してその兵器が探しているものについて話し始める。


「兵器の用途的に探しているのは多分……」

「多分?」


「この世界で一番偉い神様」


「!?」

 イズミのその言葉に驚きつつも、俺が最初に思い浮かべたのはリーン様の姿。

 つまりだ。イズミ自身はともかくとしてイズミの依頼主に、イズミが探している兵器を作った誰かは……。


 リーン様が見つかる事を恐れている誰かなのかもしれない。

イズミは数多くを知っていますが、全てを知ってはいません

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