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第117話「学院都市クルイカ-10」

「ここがそうか」

 深夜、俺は少女に会うためにマドサ学院の第三実習室に繋がる扉の前に来ていた。

 なお、学院の警備に関しては少女が何かしたのか全員ぐっすり眠っていた。一応、追加で【共鳴魔法・ネムリ草】も使っておいたので事が終わるまで目覚めることはまず無いだろう。


「魔力はあるし、きちんと居るな」

 扉越しに第三実習室の中を見る限りでは室内には例の少女とその少女とほぼ同一の魔力を持った体高4m超の狼らしき魔力の塊が存在している。

 ウリコの話では第三実習室は四方を見学用の窓が多少付いた壁に囲われ、天井が無くて床が土になっていると言う場所だそうで、身を隠せる場所は一切無いらしいからこの手の交渉事をするには便利だろう。


 さて、扉を開く前に頭の中でリーン様に言われた世界の外側の存在と交渉する際の注意事項を思い出しておくか。

 まずリーン様の名前を出すのはアウト。交渉相手がリーン様と敵対している可能性もあるし、そうでなくとも誰が何処で聞き耳を立てているかも分からないしな。

 次いでリーン様の能力や容姿についても……と言うかリーン様関連の情報はほぼ出してはいけない。

 俺自身の情報については何処まで出すかは自己判断でいいが、名前を利用して呪う能力者もいるそうなので細心の注意を計る事。

 まあ、要するに相手の能力や手の内が分からない間は細心の注意を払って交渉をしろって事だな。


「さて、時間だし行きますか」

 そして俺は第三実習室の扉を開けて室内に入った。



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「待ったか?」

「ううん。時間通りだから問題ない」

「バウッ!」

 第三実習室の中に入った俺の前には黒い狼耳の少女と少女に付き従う様に巨大な狼が鎮座していた。


「さて……自己紹介の前にこれだけは言っておくぞ。まずこっちにはそっちと戦う意思は無い」

「それはこっちも同じ。少なくてもタイガにウリコちゃん、それに貴方とは戦う気は無い」

 と言うわけで交渉を始める前にとりあえずお互いに形だけでも構わないので敵対する意思が無い事は示しておく。


「さて、俺としてはお互いに一つずつ質問を出しては答えるような形で行きたいと思っているんだが?」

「それで構わない。タイガを助けてもらった恩も有るからそっちからどうぞ」

「分かった」

 そして交渉のルールも定めた所で情報交換の始まりである。


「じゃ、お互いにまずは自己紹介だ。俺の名前はパンプキン。魔法使いだ」

「イズミ・ハーツ。本名に近い偽名だけど貴方も同じようなものみたいだし良いよね」

「?」

 少女……イズミの言葉に俺は疑問符を浮かべる。

 確かに俺の名前は自分で決めたものだが、偽名では無いと思うんだが?

 まあ、とりあえずこれはお互いに質問一で答え一だ。


「そう。無自覚なの。なら、この話は止めておきましょう」

「あ、ああ。じゃあ次、アンタはどうしてこの世界に?アンタとマジクは前世で何か有ったみたいだがこの世界に居ることは知らなかったようだし、他にも理由はあるんだろ?」

 とりあえず流されてしまったし、優先順位も低いのでこの件については後回しにして俺は次の質問をする。

 なお、イズミがマジクが居ることを知らなかったとした理由はウリコから酷く驚いていたと言う話を聞いていたからである。


「イズミがこの世界に来たのはとある人からの依頼で探し物をしにきたの。そっちはどうしてイズミに会いにきたの?」

「なるほどね。俺の方は調査だな。とある筋の情報で世界の外側からこの時期この都市に人が来ると聞いてな」

「ふうん。それで、イズミが危険な存在だった場合は何としてでも倒し、そうでなければ情報交換をするってわけね。まあ、放置すると言う選択肢は無いよね」

 ああうん。やっぱりバレバレか。まあ、勝てるかどうかは分からなくても何かあった時に一番抗える可能性が高いのが俺だったからな。

 イズミの言うとおり力ある者としてどのみち放置することは出来なかった。


「そっちの探し物ってのは?危険な物であり、且つそれを使わずに持ち帰ってくれるなら探すのに協力するけど?」

「探し物はとある兵器。詳細について話せない。申し出についてはありがたいけど、私が受けているのは探し出すまでであって持ち帰る事じゃないからその申し出はたぶん受けられない」

「そうか。ならしょうがない」

 それにしても兵器か。世界の外側を行けるような存在が探す兵器となればそりゃあまた物騒な……。

 と、ここで俺の脳裏に兵器と言う言葉に対して一つだけ思い当たる物が有った。

 そう。兵器と言うからにはそれは何かしらの形で破壊をもたらすものであるはず。となれば俺は散々それについて調べたはずだ。


「こっちの質問。貴方はこの世界の何処かで大規模な破壊の痕跡を見たり、噂を聞いたりした事が無い?」

「…………」

 こちらの心を読み取ったわけでは無いだろうが、イズミの質問は今正に俺が考えている事を話す事を求めるような内容だった。

 その質問に俺は迷う。仮にイズミが……イズミ自身がそうでなくてもイズミの後ろに居る存在がリーン様と敵対する勢力だったら?恐らくその誰かは喜び勇んでその兵器を……『陰落ち』を引き起こすそれを使おうとするはずだ。

 だが、それと同時にイズミの後ろに居る者がリーン様の味方である可能性もまたある。そうなればこの申し出は受けるべきである。

 詐称は……論外だな。まず確実にバレるし、バレればこの先の交渉が不可能になる。

 となればこれは賭けか。

 上手くいけば『陰落ち』と呼ばれる現象の正体を知ることが出来るが、下手をすれば世界滅亡の引き金をこの場で引く可能性も存在するのだから。


「どうしたの?」

「分かった。俺が知っている事でいいなら話そう」

 そして俺はイズミとその後ろに居る存在がこちらの味方であることに賭け、イズミに『陰落ち』と呼ばれる現象がこの世界にある事、それによっていくつもの文明が滅びた事、そしていつか風精霊に聞いた話をイズミに話して聞かせたのだった。

パンプキンは無自覚に偽名を、

イズミは意識的に偽名を名乗っています。

お互いに相手次第では本名(真名)を知られると厄介な立場なので

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