第116話「学院都市クルイカ-9」
「ヒュロロロォォ!結界なんぞ張ってんじゃねえ!」
上空から降下した俺は全身に魔力による防壁と強化を施す事によって屋敷に張られた結界を破壊し、その勢いのまま屋敷の天井も破壊して屋敷の中に突入する。
「なん……だあぁ!?」
「コイツは……ひぎぃ!?」
「かぼ……ちゃだば!?」
「ヒュラッハアァ!雑魚に用は無い!!」
で、突入場所に複数人のチンピラと思しき魔力が集まっている場所の中心を選んだので、突入と同時に俺は蔓を伸ばしながらその場で回転して部屋中のチンピラを薙ぎ払って倒す。
確実に気絶させるためにいくらか大目に魔力を込めて殴ったが……まあ、当たりどころが良ければ助かるだろう。死んでもこいつ等はやってた事がやってた事だしな。
「まずはこの階に居る奴からだな……【共鳴魔法・豆散弾】!」
「「「がっ……ギャアアア!」」」
続けて回転した際に魔力視認によって確認した位置に向かって共鳴魔法を発動した状態の豆を投げる。
すると【共鳴魔法・豆散弾】の効果によって外皮が硬化したと同時に高速で飛ぶようになった豆は屋敷の壁を突き抜けてその先に居たチンピラたちに突き刺さる。
が、弾が到達した後にもう一度叫び声が有った事から分かるように【共鳴魔法・豆散弾】の本領は此処からであり、【共鳴魔法・豆散弾】の真の効果は体内に残った豆がその場ですぐさま芽を出すと同時に根を張り、宿主の栄養を残らず吸い上げて息の根を止めるものなのである。
ついでに言えばそうやって芽を出した豆から次の弾が回収できるので、威力だけでなくコスト面でも非常に優秀な共鳴魔法でもある。
「ん?コイツは……」
と、この時点で俺は気づいたのだが、屋敷の周りを取り囲むように少し青混じりの黒い魔力を持った犬っぽい四足歩行の動物が集まり、屋敷から外に出ようとした人間を襲っている。
ただこの犬らしき生物たちの妙な点は普通の生物なら同じ種族でも多少は魔力の色や濃度にブレとでも言うべき個体差が有るはずなのだが、コイツらには全くそのブレが無い。まるで一つの工場で作られた製品のようである。
「色々と調べたい所ではあるが……マジクが優先だな」
犬たちと恐らくはその後ろに居るであろう主の目的は分からないし、恐らくはこの犬たちの主こそが俺が探していた少女な気もする。
が、この屋敷の連中と犬たちが敵対関係にあるのは確かであるし、それならば一先ず犬の方は放置してマジクと誘拐された人たちを救助する方を優先した方が良いだろう。
「おっと。急ぐか」
そして、俺がそうして考えている内に犬たちが屋敷一階を制圧し始めたので、俺は魔力を込めた手で床を掘って一階に降下する。
「グルッ……」
「敵じゃねえよ。ふん!ふん!!ふんぬっ!!」
で、降下した先に居たチンピラの喉を噛み千切って殺している犬……と言うか狼と一度視線を交わし、お互いに敵でない事を認識した所で俺は一階と地下の間には外に張られていた物よりも強固な結界が張られていることを確認して身体強化の出力を上げてから鋼の様に硬くなっている床を結界ごと一気に破壊して地下に続く道を開通させる。
「じゃあな!」
「バウッ!」
俺は一度狼に手を挙げて礼をしてから、開いた穴に飛び込んで地下に降りる。
「…………」
「…………」
「なんだね君たちは?」
そして、地下に降りたところで俺はその場に漂う亡者たちの恨みつらみの籠った魔力に顔を顰めると同時に壁に吊るされた誘拐されたと思しき人たちに白衣のような物を着た研究者風の男、手術台のような場所に乗せられたマジク。加えて俺と同じ様に床を突き破って来たと思しき斧を持った少女とウリコの姿を見る。
「ここは私の崇高なる研究を行うための場所であって貴様らのような俗世に生きる下賤の者が踏み込んでいいと思っているのか!」
この場で何が行われていたのか、俺はそれを考えるのも嫌だと思った。
そしてそれは斧を持った少女も一緒だったらしい。
故に、
「今すぐ出て……」
「黙れ。粉砕しなさい『骨肉斧チニクタ』」
少女が俺の目にすら映らないようなスピードで男の眼前に移動して手に持った気色悪い外装の大斧を一閃して男の首を刎ね、
「いけ?」
「弾け飛べ【オーバーバースト】」
その次の瞬間には俺が飛び出して刎ねられた男の頭を鷲掴みにした後に周囲に漂っているこの男に対する恨みつらみの念も注ぎ込み、男の顔の周囲に簡易の結界を張って周囲に被害が出ないようにした状態で【オーバーバースト】を発動。完全に自らの死を知覚しきれていなかったであろう男の頭を跡形も無く吹き飛ばす。
「マジク!」
「んあ……?」
と、ここでウリコが手術台に乗せられていたマジクに駆け寄って拘束を外し、その肉体にまだ害が及ぼされていなかった事を確認する。
とりあえずマジクは無事だったか。良かった良かった。
となると残る問題は……
「さて、色々とお互いに聞きたいは有るだろうが、もうすぐここにはマドサ侯爵の兵が来るし、アンタは離れた方が良いんじゃないか?」
「…………」
この斧を持った少女の扱いか。
こうして近くで見れば分かるが少女の頭と腰の辺りには妙な揺らぎのような物があるし、その魔力の量と密度はしっかりと偽装されているがそれでも俺と同等と言っていいレベルの量だ。
ここまで来れば間違いない。彼女こそが俺がここクルイカで探していた世界の外側から来た少女だろう。
と言うわけで本音を言えば今直ぐにでも色々と問い詰めたい。
が、これから此処は現場検証などで慌ただしくなるだろうし、彼女の出自から考えて侯爵の兵に会わせるのは拙いだろう。加えて彼女のおかげでここまで楽に制圧出来たのだから最低限の恩は返すべきだろう。
「ウリコ?」
「良かったぁ……」
「今日の夜、日付が変わるころに学院の第三実習室に来て。そこで情報交換と行きましょう」
「分かった。見つからずに抜け出せよ」
そしてそれだけ言うとマジクを抱きしめているウリコを一瞥した後に少女は一瞬にして消え去り、少女が消えると同時に屋敷の周囲を囲っていた狼たちも忽然とその姿を消す。
うーん。それにしても不可視化か転移かは分からないが詠唱も無しにそう言うレベルの魔法を使えるのか。こりゃあ話をする時は万全を期さないとな。
その後、やってきたマドサ侯爵の兵によって誘拐された人の中で生き残っていた人たちは無事に救出され、死ななかったチンピラどもから此処が破壊神信仰者たちの拠点兼研究施設として使われていたことが明らかにされた。
「さて、俺にとっての本題は此処からだな」
が、俺にとってはマジクが助かったと言う事実以外は割とどうでもよかった。
俺にとって重要なのはこれから……世界の外側からの来訪者と会って話をする事なのだから。
破壊神信者幹部「スパルプキンを一人攫ったら化け物が群れを成して襲って来たでござる;;」