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第113話「学院都市クルイカ-6」

「やれやれ。今日もまるで手がかりなしか」

 ウリコたちがマドサ学院に入学してから一週間後。

 俺は六花の飛竜亭の自室で宿前の通りを眺めていた。

 学院に通うウリコとマジクは多少道徳関連の講義が増やされているカリキュラムの元で学び、既に何名か仲の良い子が出来ているらしく、これについては兄としても親としても嬉しい限りである。

 それと同時に魔法と戦闘関連について今まで天才だと周囲から持て囃されていた子のプライドを(主にウリコが)叩き折っているようだが……こればかりはその子供たちに対して『強く生きろ』とか『比べない方が良い』とか、それぐらいしか言う言葉が無い。

 実際、ウリコの魔法能力は現時点でも桁違いって言う次元じゃないからな。

 で、俺の調査については……まるで進展が無い。


「いやまあ、まるで進展が無い訳じゃないんだけどな」

 俺は黄昏るのを止めて机の上に置かれている資料に目を通す。

 俺がここ一週間で調べた限りの話になるが、まず上空からクルイカ全体の魔力の流れを観察した感じでは、妙に大きな魔力が動いているとかは勿論無かった。

 これについてはある意味当然と言えるな。例の少女の正体はわからないが、ロウィッチから受け取った資料を読む限りでは強大な魔力を持っているのは確かだった。

 が、その強力な魔力をそのまま放出していたら間違いなく一般人にもその存在が感知される……と言うか恐らくだが無秩序に放出していたら周囲で片っ端から【オーバーバースト】が発生するわ。


「むしろ問題なのは今現在どういう姿をしているのか分からない事だよなぁ」

 次に黒い狼系のビースターと言う外見の少女に関する目撃証言だが、こちらについては全く入って来ていない。

 これもまた当然だな。この世界では獣人は非常に珍しい。珍しいという事は当然それだけ目立つという事であり、何をするかにもよるが隠密行動をするにあたっては目立つと言うのはマイナス面だ。

 と言うわけで過去の姿についてはもう気にしない。重要なのは今現在の見た目が分からない事の方だ。

 これが分かっているのといないのとでは見つけ出す難易度が格段に変わってくる。


「ただ、分からないなら分からないなりに探す方法はあるんだよな」

 続けて俺は次の紙を見る。

 そこに書いてあるのはここ一ヶ月程の間に正規のルート外でクルイカの中に入ってきた人間についてである。

 ここクルイカは住む人間も出入りする人間も多く、中には当然ながら正規のルート外で入って来る者に物もある。が、そう言った正規のルート外で現れたならそのルートだからこその情報と言うものが残る事になる。

 と言うわけで俺が今持っている紙に書かれている情報と、マドサ侯爵から貰った正規ルートで入ってきた人間の情報を組み合わせると、元々クルイカに住んでいた人間で無いにも関わらず、何処からも入ってきたと言う情報も無い不自然な存在が浮かび上がる事になる。


「これがそうで……こっちがそうで……ここが被りで……この辺りか」

 で、そうして数時間ほど部屋の中で複数の資料を比較していった結果として何人かの怪しい人物が浮かび上がる事になった。

 尤もこの怪しい人物の大半は個人の実力だけで都市の中に入り込んだだけの人間であり、多少調べれば直ぐに俺が探している少女で無いことぐらいは分かるだろう。

 ただしその怪しい人物が裏でしている内容次第では通報か討伐ぐらいはさせてもらうが。


「よし行くか」

 と言うわけで俺は一度マドサ侯爵に連絡をして揉め事が起きた際の保険をかけてからその怪しい人物たちを調べに向かった。

 ただ、この時点では気づいていなかったが、この調べ方には一つ欠点が有り、その入ってきたルートが不明の人間が何かしらの方法でパトロンを得て偽装をされてしまうと一気に判別が難しくなったりする。

 いやまあ、それならそれで違和感が出てくるから調べる方法はあるんだけどな。



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「はぁ……こいつもハズレか」

「ぐ……が……」

 俺は蔓の手で白衣を着た髭面の男の首を持ち上げて締め上げる。

 さて、個人で密入都した連中を調べに行ったんだが……どいつもこいつも裏でやってる事が酷いわ……麻薬、強盗、暗殺と何でもござれだったわ。

 何と言うかデカい都市だけあって裏では色々と蔓延っているとは思ったけど、どうやらマドサ侯爵やクルイカの裏社会を取り仕切ってるような連中でも完全にその手の物を排除しきれないようだな。

 と言うわけでアウトだと判断した奴は片っ端から排除です。どうせ表にも裏にも仲間が居ない奴だからどう処理しても周囲に被害を出さない限りは問題無いし、むしろ表も裏も余計な被害を出さないように周囲の人員を避難させておくなどしてくれたので非常にやりやすい。


「貴様は一体……」

「いいから眠ってろ。【共鳴魔法・ネムリ草】」

「ぐぅ……」

 で、トドメではないが俺は【共鳴魔法・ネムリ草】を使って男を眠らせると後始末をマドサ侯爵の兵に任せて俺自身は次の不審人物の調査に取り掛かる事にした。

生徒A「俺はこの学院で一番強いんだ!」

ウリコ「じゃあ、ワイバーンも一人で倒せるの?」

生徒A「え゛っ!?」

ウリコ「え?私は倒せるよ」

生徒A「すみませんでしたぁ!! ((;゜Д゜)ガクガクブルブル」

ウリコ「?」

マジク「これが無自覚系Sと言うものである」


大体こんな感じにプライドを折ってます


05/16誤字訂正

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