第112話「学院都市クルイカ-5」
さて、マドサ侯爵に対するウリコへのお願いやとりあえずの情報収集と提供を済ませた所で、俺は護衛の騎士たちが事前に取っていた宿に向かう。
本音を言うと俺は水と日光と土が有れば十分なのでクルイカの周囲にある山中で適当に野宿でも良く、個人的には宿とかどうでも良かったんだが騎士たちとしてはそれなりに良い宿に泊まりたかったらしい。
「それにしても凄い賑わいだな」
俺の前では様々な種族の人間がこれまた様々な商品の売り買いをしているが、その賑わいはクヌキハッピィの商店街とはまるで規模が違う。
ここでクルイカについて説明しておくとしよう。
クルイカはマドサ領の領都なのだが、その周囲は豊かな生態系を保持している山々に囲まれており、立地が良いとは間違っても言えない土地である。
だが、センコ国一の学院都市と言う事情からセンコ国及び周辺国から生徒を主として多くの人間が集まり、学びの環境を整えると同時に研究成果として生み出された品々を扱うために多くの商人が集い、それに乗じて商品を運ぶための人員に、保護者や商人がクルイカで過ごすための宿泊施設などが出来上がる事でクルイカと言う一大都市が出来上がったわけだ。
「ふうん。色々あるなぁ……」
俺は様々な商店の商品をチラ見しつつ、何かに驚いたような視線を向けてくる人混みを掻き分けながら進む。
で、やはりと言うべきか様々な地方から大量の人間が集まっているためなのかクルイカで生み出された品や周辺の領地の品だけでなく、遠方の方からもその地方の特産品が食料、素材、装飾品等が入ってきているし、中にはセンコノトでもまず見られない様な貴重な品々を並べているような店も有った。
「ただ、残念ながら大概の品は俺と縁が無い。と」
だが、食料品に関しては俺の場合は普通の飲食物は食べられないので買っても意味が無く、装飾品や武器については必要最低限の物以外は身に付ける気は無い。
共鳴魔法の触媒として素材を買うのは……まあ、多少有りではあるが、基本的にリーンの森で回収出来る素材を使った共鳴魔法の方が有用だし、そもそも新しい共鳴魔法を生み出して具体的な効果を確かめるのはそれなりに時間もかかるしな。
ちなみに最低限の装飾品て言うのは、マントに共鳴魔法の触媒、それからこの三年間の間に男爵としてそれぐらいは作って持っておこうかと王子様に言われて作った紋章ぐらいである。
ついでに言えば俺ことパンプキン・サンサーラ男爵の紋章は三重の円に被せる形で杖と南瓜の葉と花をあしらった物である。尤もこれが今までに役立った事とか一度も無いけどな。
「と、ここがそうだな」
さて、話が長引いたことも有って既に陽が落ちかけているが、俺はクルイカに滞在している間泊まる予定の宿である『六花の飛竜亭』に到着する。
この六花の飛竜亭だが値段としては平民~下級貴族向けではあるが、値段の割にはサービスが良いため、クルイカ全体で見ても人気のある宿である。
と言うかよくそんな人気が有る宿を取れたと思うわ。
なお、店名については昔冒険者であった主人が旅の途中で見た雪の様に美しい白い飛竜から取ったらしい。
で、ウリコとマジクについては今日からもう学院の寮に泊まることになっているので、早々に護衛の騎士たちと合流することにする。
「お邪魔しますよっと」
「いらっしゃいませ。お一人様ですか?」
「いや、連れがここに居るはずなんだが……」
店内に入った俺に従業員の女性が話しかけてくる中、俺は食堂も兼ねている宿屋の一階を見渡して騎士たちを探す。
と言うか、流石にこれだけデカい都市で宿をやっているだけあって俺の外見に対しては一切妙な反応は無しか。中々だな。
「こっちですパンプキンさん」
「おっ、そこか」
で、俺が見つけ出す前に向こうが見つけてくれたので、従業員の女性に軽く手で会釈しつつ騎士たちの方に向かう。
どうやら一応役目が終わったという事で酒盛りをしているようだ。
「お前ら……無事に帰って報告するまでが任務だぞ……」
「ははは。良いじゃないっすか。久方ぶりに気兼ねなく呑める場所に来たんすから」
「まったく……」
一応、苦言は呈しておいたが、まあこいつらの立場的にこういう時は気兼ねなく呑みたいか。
実際俺が今、裏でしている事に関わらない限りはクルイカ内なら基本的には安全と言っても差し支えは無いし、道中迷惑をかけた事を考えれば今日ぐらいは許しておくか。
「酔いすぎて他の客に迷惑をかけるなよ」
「分かってまーす」
「それは気を付けますって」
「あざーっす!」
「じゃ、俺は部屋で寝てるわ」
ただし、最低限の釘は刺しておく。
まあ、アイツ等もきちんとした体面が有る騎士だからな。最低限の節度を忘れたりはしないだろう。
「あっ、パンプキンさんの部屋のカギはこれです」
「おう」
「お部屋に案内しますね」
「どうもです」
そんなわけで、自分の部屋に行った俺は明日以降の為に今日歩いて大体把握したクルイカの地理を頭の中で反芻しつつ部屋のベッドで横になって眠り始めたのであった。
スなんとかさん「俺の出番ktkr」
南瓜「残念ながら貴方の出番はこれだけです」
スなんとかさん「!?」