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第110話「学院都市クルイカ-3」

「学院長。パンプキン殿をお連れしました」

「分かった。入ってくれ」

「失礼します」

 女性が学院長室と書かれた扉をノックすると中から返事が返ってきて、その返事を受けてから俺と女性は部屋の中に入る。

 部屋の中には実用性を重視した感じの応接机に椅子。そして椅子には立派な髭を蓄えたエルフの老人が座っていた。


「遠路はるばるご苦労じゃったな。パンプキン殿。どうぞそちらへ」

「こちらこそ急な求めに対してわざわざ時間を割いて頂いたことも含めてありがとうございます。では失礼させてもらいます」

 老人の言葉に対して答えた後に老人の正面に置かれている椅子に腰かける。

 老人は年老い飄々とした様子だが、その眼光は長年の経験に裏打ちされる形で非常に鋭く、その奥には様々な感情が渦巻いているのが見えた。

 ま、品定めと言ったところだろう。


「では、一応ではあるが自己紹介からしておこうかの。儂はマドサ領領主にしてこの領立マドサ学院の学院長でもあるジーニア=ケルプ・マドサ侯爵じゃ。名前から分かるとは思うが一応転生者じゃな」

「竜殺しの魔法使い、パンプキン・サンサーラ男爵です。この度はウリコ・マウンピールとマジク=タイガ・サンサーラエッグの保護者として参りました。名は覚えていませんが私も転生者です。今日はよろしくお願いします」

「うむ。よろしくじゃ」

 挨拶が終わったところで俺とマドサ侯爵は握手を交わす。

 なお、ウリコとマジクの苗字は学院内で苗字の有る無しによって貴族かそうでないかを見極めて何かをしようとする人間対策の一環で出身の村の名前を流用した学院内でだけ使う苗字である。


「この場については学院長と竜殺しの魔法使いが会ったという事で良いじゃろうな」

「そうですね。私と学院長の爵位では良からぬ噂を立てられるかもしれませんので」

 で、お互いの立場も明らかにしたところで他にも二、三会話を交わしてから本題に入る。


「さて、今回私が学院長に面会を求めた理由ですが、それはウリコ・マウンピールの学院生活について先に相談をしておきたいのです」

「先に言っておくがテストの採点を甘くしてほしいや、寮生活において何かしらの便宜を計ってほしいと言う願いなら論外じゃぞ?」

「それは本人の為にもならないのでこちらとしてもお断りです。ある意味では便宜を図る事に近いかもしれませんが」

「ふむ……内容を窺おうかの」

「ありがとうございます。それで相談と言うのは……」

 そして俺が学院長に対して相談内容を告げようとした瞬間……


 ウリコたちの居る検査会場の方から巨大な爆発音が学院中に響き渡った。


「なんじゃ!?」

「マジク……お前が付いていながら……」

 謎の爆発音に対して学院長は即座に反応していくつかの魔法を使用すると共に側仕えの女性……たぶん秘書だろう。秘書を呼び出して話を聞いた後にいくつもの指示を出していく。

 学院長が使った魔法は恐らくこの手の緊急事態に対応するための連絡や探査、防御の魔法と言ったところだろう。対応の早さも含めて学院長はこの手の事態には相当手馴れているようだ。

 で、爆発音の原因だが実を言えば俺には分かっている。

 だって、爆発音がする一瞬前に検査会場から上空に向かって高密度の魔力で作られた柱が立ち昇っていくのが見えたし。


「パンプキン殿。どうしてお主が相談を持ちかけたのかが分かったわい」

「分かってもらえましたか」

 と言うわけで数分後。事態の把握と収集を一応一通り終えた学院長が微妙に顔色を悪くしながら俺に話しかけてくる。


「一応、何が有ったのかを窺っても?」

「分かった。説明を頼む」

「はい」

 学院長の言葉を受けて横に立っていた秘書の女性が何が起きたのかを説明し始めてくれる。


 で、その話を纏めるとだ。

 最初はウリコもマジクも大人しく検査を受けていたらしい。

 そして、魔法科なので魔力の量と密度を測る検査を受けた際に俺の言いつけを守って程々の魔力を流して検査を終えようとした際に、詳しい内容は事情聴取中という事で分からなかったが、どこぞの貴族の息子がウリコとマジクの事を馬鹿にすると共に喧嘩を売ったらしい。

 まあ、後は言わずもがな。自分の事ならともかく兄弟の様に育ったマジクの事も馬鹿にされたためにウリコはブチ切れ、全力で魔力を放出したそうだ。


「幸いと言うべきか。直ぐに彼女が我に返ってくれたので被害としては体育館の屋根が壊れたのと、余波を受けた検査機器が壊れただけで済みましたが、全力で魔力を放出した際に観測された魔力量は宮廷魔道士たちと比較しても遜色無かったそうです」

「なるほどのう……」

「そう……ですか……」

 実を言えば学院長や秘書の女性は一つ勘違いをしている。

 ウリコは全力で魔力を放出したと言ったがそんなことは無い。ウリコは俺仕込みの魔力操作技術を持っている上に最も得意とするのは成体のワイバーンとも殴りあえるレベルの身体強化魔法なのだ。つまりはあの魔力の柱自体はウリコの身体強化魔法の余波でしかないのである。

 ついでに言うとそんなレベルの身体強化を掛けた状態で普通の人間を殴れば吹っ飛ぶとかもげるとかじゃなくて触れた部分が蒸発するし、亜竜のブレスやバジリスクの魔眼を始めとして大抵の攻撃は半自動的に無効化(レジスト)される。

 はっきり言って人間レベルで使うのなら反則物である。まあ、学院長たちには敢えて何も言わないが。


「さて、もう殆ど分かってはおるが、パンプキン殿の口から相談の内容について聞きたい」

「そうですね。俺の相談内容と言うのはウリコのカリキュラムについてです」

 と言うわけでこれ以上の邪魔が入らない内に学院長に対してウリコのカリキュラムに倫理や道徳、常識に関する授業を出来る限り多く盛り込むように提案し、学院長は今回の件も有ってだろうか俺の提案を飲むのであった。

 とりあえず、ウリコと同期の子供たちは色々と大変なんだろうなぁ……と、同情はしておく。

ちなみにマジク君も決して弱い訳ではありません


05/13誤字訂正

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