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第109話「学院都市クルイカ-2」

「「着いたー!」」

「はいはい。危ないぞー」

 馬車の窓からクルイカのマドサ学院を見つけたウリコとマジクが馬車の窓から身を乗り出して大声を上げ、慌てて俺が二人を馬車の中に引き戻す。

 さて、マウンピール村を出発した俺、ウリコ、マジク、それに護衛の騎士たちは道中で観光もしつつ、おおよそ一ヶ月程かけてクルイカに到着した。

 道中で起きた事と言えば……まあそうだな。

 精々途中の交易都市で希少魔獣の密売会を開いていた組織を『魔法少女には使い魔が必須だってロウィッチお姉ちゃんが言ってたの!』と言ったウリコがほぼ独力でその組織を叩き潰し(俺とマジクも多少手伝ったが番犬代わりに飼われていたバジリスク含めて本当に殆ど全てウリコが叩きのめした)、その後にやってきた子供を攫われて怒り狂っていたワイバーンを説得(物理)し、捕まっていた魔獣を一匹使い魔にし、最後は俺がサク皇太子に連絡して捕まっていた魔獣の大半を引き取ってもらっただけだな。


 ……。分かってる。精々で済まないことぐらい分かってる。

 俺だってまさかウリコがこの三年間の間に亜竜(ワイバーン)程度なら特別な魔法も無しにほぼ身体強化だけで倒せるようになるとは思わなかったさ……そんなわけでこの学院に居る間にウリコもマジクも魔法に関する技術以上に倫理とか道徳とかそっち方面の勉強を本気でして欲しい所である。


「ムンムムー」

「ん?ムーちゃんどうしたの?」

「ムー!」

 ウリコが件の密売組織を潰した際に身寄りがないという事で貰い、『ムーちゃん』と名付けた魔獣と楽しそうに戯れている。

 このムーちゃんだが、ムツメクチタケモドキと言う魔獣だそうで、その外見は簡単に言えば茸の傘の部分に等間隔で目と牙の生えた口をそれぞれ六個ずつ付け、茸で言うなら軸に当たる部分に足先が外側を向くように設置された脚を四本持っていると言う非常に奇妙で……正直に言ってちょっと外見が微妙(婉曲的に表現している)な生物である。

 ちなみに一応爬虫類らしい。クレイヴに謝れと言いたくなる気もする。


「おお!不思議な感じー!」

「色鮮やかだねー」

「ムンムー♪」

 ムーちゃんの口から六色の魔力が煙の様に放出され、それを感じ取ったウリコと見たマジクが楽しそうに騒ぎ、ムーちゃんは胸?を張る。

 さて、このムツメクチタケモドキだが今見てもらったように少々特殊な魔法をほぼ常時使っている。

 その魔法の名を【トランサー】と言い、周辺空間に存在している魔力を吸い、体内で別の属性の魔力に変換して放出することが出来るそうで、その効率の良さや作り出せる属性の細かさは俺や普通の魔法使いが動作でやっているのとは比較にならない程であり、この魔法が有れば大抵の属性魔法を安定かつ高威力で放つことが出来るようになるそうだ。

 尤もこの魔法の利便性に限定された生息地域、そしてムツメクチタケモドキの繁殖スピードの遅さから魔法使いの間を中心に希少性が高まり、希少魔獣として扱われるようになったのだが。


「むー?」

「ムー」

「むむー!」

 二人と一匹は狭い馬車の中ではあるが、相変わらず楽しそうにしている。

 あ、ちなみにムツメクチタケモドキは特定の機関を除いては単純所有するのも禁止されている魔獣だが、ウリコがムーちゃんの所有していても問題ないようにサク皇太子からはしっかり許可証を貰っている。

 ついでに言えばウリコの魔力量だとムーちゃんの補助は雀の涙みたいなものなので、ウリコは利便性とかではなく純粋に気に入っている模様。

 うん。ウリコの趣味については特に何かを言う気は無い。何か言って嫌われるのはゴメンだし。


「と、そろそろか。二人もムーも静かにしろよ。そろそろ学院に入るからな」

「「はい!」」

「ムー!」

 学院の門を間もなく潜るのを確認した俺の言葉にウリコもマジクもムーちゃんもしっかりと返事をし、その後は落ち着かない様子を見せながらも静かにする。

 うん。この様子なら問題は無さそうだな。


「お三方とも。着きましたので降りてください」

「「ハーイ!」」

「ムー!」

「分かった。道中ご苦労だったな」

「いえ、これも務めですから」

 そして俺たちを乗せた馬車は学院の中にある馬車の発着場に停まり、俺たちは護衛の騎士たちに礼を言いながら馬車の外に出る。

 さて、これからの予定は……確か俺はマドサ侯爵に挨拶しに行って、ウリコとマジクは入学前の検査だったかな?

 聞いた話だとマドサ学院では入学時に生徒がどの程度の能力を持っているかを確かめてからその能力に合わせてカリキュラムとかを組むらしいし。


「「「ガヤガヤ……」」」

「「「ヒソヒソ……」」」

「「?」」

「やっぱりか」

「まあ、そうでしょうね」

 で、全員馬車から降りるとやはりと言うべきか周囲に居る他の人から何かを囁き合うような声や不躾な視線が俺たちに向けられる。

 まあ、スパルプキンと言う種族はセンコノトを始めとする中央では殆ど知られていない種族だし、ムツメクチタケモドキも居るし、何よりもウリコの可愛らしさは戦略兵器級だからな。周囲の注目を集める事ばかりはしょうがない。

 あ、権力を盾にウリコに何かするような奴が居たら勿論、物理的にも社会的にも完全に抹殺するよ。

 ふっふっふ。王様や皇太子に直接連絡を取れるだけの繋がりが有る上にほぼ個人で竜すらも殺してみせる魔法使いの妹に何か出来るとは思わない事だ。

 ……。ウリコなら独力でどうにかできる気もしないでもないけどな。


「あー、すまないが俺が居ない間は……」

「分かっていますのでご安心を。と言っても出来る限り早く話を済ませて戻って来てくださいね。私の力ではウリコ殿どころかマジク殿でも止められませんから」

「出来る限りの善処はする」

 さて、俺には俺のやるべき事がある。

 という事で、俺は護衛の騎士たちの長であり、ウリコたちの検査に保護者として同行してくれるヒューマンの彼と少し打ち合わせをした後、マドサ侯爵に挨拶をしに行くことにした。

 これからおおよそ8年間世話になるわけだしな。きちんと挨拶はしておかなければ。

ウリコ>ワイバーン(成体)


ムツメクチタケモドキの外見は説明した通りです。本当に奇怪な生物ですね。

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