第107話「南瓜と黒い石-2」
『いずれにしても相手が悪すぎるからな。このブラックミスティウム自体は適当に普通の金属と混ぜる形で素材として使っても問題は無いだろうが、『神喰らい』と事を構えようとは思わない方が良い。お前の上に居る存在でも相手になるか怪しいラインだからな』
ブラックミスティウムとその製作者について教えられた後、こうロウィッチに言われた俺はブラックミスティウムが入った箱を片手にサンサーラエッグ村に戻った。
「にしても、他の金属と混ぜるにしても炉なんてウチの村には無いしなぁ……」
が、正直な話としてサンサーラエッグ村には金属の精錬や鍛冶作業に使えるような高温の炉は必要が無いので存在していない。
だってサンサーラエッグ村で武器や防具と言ったら灰硬樹とハンティングビーの蜜蝋と言う鍛冶じゃなくて木工で作った物が大半なわけだし。
必要ならクヌキハッピィにまで出向けば事が足りるってのも有るけど。
加えて言うと並の金属だと格の差が有り過ぎてうまく合わない気もするし、俺自身が武器も防具も殆ど使う事が無いと言うのも有るわけで、そう言った理由からその辺りとは色々と縁遠い。
と言うかそもそも『不滅滅ぼし』なんて言う物騒な性質を持った金属を俺が持っててもいい物なのかとも思うが、それについてはむしろ俺以外の人間に渡した場合が怖すぎるのでその点については諦めておく。
「いっそのこと他の金属とは混ぜずにそのままの形で杖の先端につけるとかの方が良いかもなぁ。そうなると……」
「何を悩んでるのよ?」
「うおう!?ミズキか……」
「周りが見えなくなるぐらいパンプキンが集中しているなんて珍しいわね」
と、ここでいつの間にか家に来ていたミズキが背後からいきなり声をかけてくる。
どうやらブラックミスティウムをどう扱うか悩み過ぎていて、周囲への注意が疎かになっていたらしい。
「これ、この前の黒い石よね。結局正体は何だったの?」
「そう言えば言ってなかったか」
で、ミズキにブラックミスティウムについて聞かれたのでロウィッチに教えてもらったことを話したところ……。
「とんでもないわね……それを使った道具は迂闊に使ったり、人に渡したりしないでよ。『神喰らい』とか名前からして洒落にならなさそうだし」
本当に真面目な顔をしたミズキからそう言われた。
精霊視点から見てもやっぱり『不滅滅ぼし』、『神喰らい』辺りの話はヤバいらしい。
「ああそうだ。ミズキの方でこのブラックミスティウムに釣り合いそうな樹に心当たりとかあるか?普通の素材じゃ多分合わないと思うんだよ」
「樹?」
「ああ、先端にこれを付けて杖にしようと思ってな」
ブラックミスティウム関連の話をしたついでに俺はミズキから杖にするのに良さそうな素材についての話を聞く。
するとミズキは何かに悩むような表情を一度見せた後に幾つかの素材を挙げる。
が、どれもブラックミスティウムに吊り合うかと言われれば微妙な気がする。いやまあ、ミズキが挙げたのはどれも並の素材じゃなくて一流の素材なんだけどな。単純にブラックミスティウムのレベルが高すぎるせいで吊り合わないだけで。
「まあ、私としても吊り合うかどうかと言われれば微妙と言わざるを得ないのは確かなんだけどね。でも、これで無理ならそれこそ今言った樹の中でも精霊付きの物でも探し出すしかないわよ」
「精霊付き……要するに高濃度の魔力を幼少期から受け続けて成長した大木って事か……」
「そう言う事ね。尤もそんな樹はリーンの森全体で見渡しても数本有るか無いかぐらいでしょうけど」
「うわぁ……気が遠くなりそうだ……」
と言うかそんなものを探してリーンの森を彷徨っている暇とか今は無いから……ただでさえ最近は外出することが多くて村長としての仕事が多少疎かになっているし、そもそも夏が終わればある意味一年で一番忙しくなる秋ですもの……。
「まあ、諦めてしばらくの間は村長業に専念していれば?」
「そうだな……それにそもそもべらぼうに性能が良い杖を手に入れたとしても実力が伴っていなければ杖に振り回されるだけでもあるし。まずは自分自身の能力を上げる方が先決か」
「えっ、まだ強くなる気なの……?」
「『陰落ち』の事を考えたらどれだけ強くなっても足りないってことは無いっての」
「それはまあ、そうなんだけどね」
ミズキが気まずそうに視線を横に逸らすが、実際破壊神の腕と戦った時にリーン様の杖を一時的に使わせて貰い、油断すれば杖の力に振り回されそうになった……と言うか実際に振り回された身としてはまだまだ実力不足だと痛感するばかりだったしなぁ……。
それを考えたら自分の能力を上げる方が先です。
「ああそうだ。それからセンコ国マドサ領領都クルイカってところについても調べておかないとな」
「なにそれ?」
と、ここで俺は以前ロウィッチから聞いた話を思い出し、調べるのを忘れていたことを思い出す。
「いやな、ロウィッチ曰く三年後にそこに何かが来るらしいんだよ。どうするかはまだ決めてないし、聞いてもいないけど事前情報ぐらいは仕入れておこうかなと思って」
「ふうん。まあそっちについては村の外の事だから私には関係ないかな?」
「恐らくはそうだな」
そうして俺は自らのやるべき事が山積している現実に多少辟易しつつも自らのすべきことを始めるのであった。
流石にサンサーラエッグ村に鍛冶場は有りません。