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第106話「南瓜と黒い石-1」

「分かんねえなぁ……」

 ドームが吹っ飛んでから数日後。

 俺は自宅で回収した黒い石の正体について調べていた。


「うーん……」

 この黒い石だが、どうやら何かしらの金属のようであり、金属的な光沢と石には無い金属特有の性質をいくつか有していた。

 だが、それと同時に通常の金属どころか普通の物質なら有り得ない程に軽く、まるで重量が存在しないと言うとんでもない性質を有しており、それ以外にも他の物体では有り得ない様な量の魔力を蓄え放出することが出来ると言う性質を有していた。

 また、強度面を見ても一般的な鉄とは比較にならない程だった。


「形としては何かの武器の破片って感じなんだけど、形はそんなに重要とは思えないしなぁ……」

 俺は黒い石を指で突きながらそれを眺める。

 黒い石には尖った部分や薄い部分があり、まるで何かしらの刃物の破片のようである。

 が、はっきり言って俺個人で分かる事と言えばこれぐらいが限度だ。

 なにせ直火で炙っても色一つ変わらないし、砕こうと思っても形が少々変わる程度。魔力を流し込んでも吸い取られるだけ。

 とてもじゃないがサンサーラエッグ村にある設備や俺の知識では手に負えそうにない。


「はぁ……しょうがない。出来ればアイツには頼りたくないんだけどな」

 と言うわけで俺は黒い石を特製の箱……魔力を良く吸って程よく吐き出す性質を持った木の箱に納めるとミズキたちに一声かけてからクヌキハッピィへと向かった。



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「ロウィッチ居るかー?」

「いらっしゃーい。ってこの前来たばっかだってのにまた来たのか?」

 俺が『ウミツキ文房具店』に入ると最初は猫を被っていたロウィッチが、俺だけだと分かった途端にいつものロウィッチに戻って対応を始める。


「ああ、ちょっとお前に見てもらいたい物が有ってな」

「ん?」

 そう言うと俺は箱を取り出してカウンターの上に乗せる。

 すると箱から漏れている魔力から何かを感じ取ったのかロウィッチが訝しげな目を箱へと向ける。


「開けてもいいか?」

「ちょっと待ってくれ。今日はもう閉店にした方がよさそうだから看板とか弄ってくる」

「分かった」

 ロウィッチは一度外に出ると何かをし、中に戻ってくると扉の鍵をかけて戸締りを済ませる。

 そしてその後に何度か指振りや小言を呟いて店全体に対して何かの魔法を働かせる。

 うーん。ロウィッチがここまでするって事は相当ヤバい代物なのか?現時点でもヤバいってのに……。


「よしいいぞ。開けてくれ」

「分かった」

 ロウィッチの許可が出た所で俺は箱を開けて中に入っていた黒い石をロウィッチに見せる。

 するとロウィッチの頬が黒い石を一目見た瞬間に引き攣り始める。

 あ、うん。ヤバイの確定したわ。だって今のロウィッチの表情は前にリーン様のリボンを手渡した時と同じ表情だもの。これ絶対に取扱い注意の第一級危険物とかそんな感じだわ。


「閉めるぞ」

「あ、ああ……」

「で、これの正体は結局何なんだ?」

 俺は箱の蓋を閉じると、ロウィッチに黒い石の正体について尋ねる。

 そうしたらロウィッチの表情に何か翳りのような物や迷いのような物が出てくる。まるで、何処まで話してもいいものかを考えているような感じだ。

 そんなロウィッチの表情にどうしてもと言うべきか俺も何となくだが不安になってくる。

 と、ロウィッチの考えがまとまったのかゆっくりと口を開き始める。


「これは……『ブラックミスティウム』と言う名前の魔法金属だ」

「ブラックミスティウム?」

「ああ、有名所で言えばミスリルやアダマンタイト、オリハルコンにヒヒイロカネ、アポイタカラ何かが存在する魔法金属だが、その中でもコイツはかなりの変わり種でな。自然界には存在せず、一部の存在のみが作り出せる金属として俺たち(神とその眷属)の間では知られている」

 ロウィッチは右手で自身のこめかみを弄りながら言葉を繋げていく。


「ブラックミスティウムはミスティウムと言う魔法金属を特殊な方法で加工することによって得られる魔法金属でな。その特徴としては霧の様に軽いという事とその色に応じた力を強化する性質を持っている事が挙げられるんだが……それよりも問題なのはパンプキン。お前がこれをどこで手に入れたかだな」

「ん?」

 俺はロウィッチの言葉に首を傾げつつも黒い石改めブラックミスティウムをリーンの森の中にあるドームで手に入れた事をロウィッチに教える。


「そうか……ちょっとブラックミスティウムを貸してくれ。詳しく調べてみる」

「分かった」

 俺がブラックミスティウムをロウィッチに渡すと、ロウィッチはそれを店の奥へと持って行く。

 そして数分後に戻って来たロウィッチの顔色は明らかに悪くなっていた。


「どうした?」

「ブラックミスティウムは自然界には存在せず、一部の存在のみが作り出せるとはさっき言ったな」

「ああ」

「実を言えばそうやって作り出される関係でミスティウム系列の金属には製作者特有の癖みたいなものが有ってな。その癖を見ればどこの誰が作ったミスティウムなのかが分かるんだ」

「ふむふむ」

「で、そうして調べた結果としてコイツの製作者が分かったんだが……」

 ロウィッチは明らかに言いづらそうな様子を見せる。


「このブラックミスティウムの製作者の通称は『神喰らい』。世界も神も食い殺して己が力とする敵として相対するなら最悪と言っても差し支えない本物の化け物だ。そして『神喰らい』ならコイツを作り出す理由がある」

「…………」

 ロウィッチは何か覚悟を決めたような表情を見せる。


「さっきは言わなかったがブラックミスティウムにはとある逸話が有るのさ」

「逸話?」

「最初にコイツを作り出した神。それからコイツを使ったメイスを武器にしたとある男はな、多少他の存在の協力も得てはいるが不滅とされた存在を滅ぼす事に成功しているのさ。そしてジンクスと言うものがあるように一度成立した話は同じ条件を整えることによって再現することが可能であるためにブラックミスティウムにはとある力が秘められることとなった」

「その力ってのは?」

 俺がブラックミスティウムの力について聞くと、ロウィッチは一度目を閉じてから開き、そしてその力を告げる。


「『不滅(アンルーイン)滅ぼし(アナイアレイト)』 決して滅びることが無い不滅の存在と言うものをも滅ぼすと言う矛盾を押し通し成し遂げる。在る事に飽きた神にとっては最後の救いの力であり、不滅を得て己の栄華を絶対だと信じる神にとっては最悪の力さ」


 ロウィッチがそう告げた瞬間。俺は思わず息を呑んでいた。

ブラックミスティウムの別名は黒霧鋼と言います。


まあ、そう言う事です。

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