第105話「遺跡調査-5」
「うぷ……」
魔力貯蔵庫の中はまるで暴風雨の真っただ中の様に魔力が吹き荒れていた。
そして、外の数倍から十数倍濃い魔力がその圧を乱高下させつつ荒波の様に俺の結界を揺らして俺の体と精神に少なくない負荷をかけていくと共に、濃すぎる魔力によってまるで霧の中の様に俺の視界はドンドン狭まっていく。
「本当にキツイな……」
この空間の魔力濃度に耐えるために俺は魔力貯蔵庫の中心部に向かいつつも時折進むのを止めて呼吸と結界、それに体内の魔力濃度を調節していく。
それにしても俺の魔力操作能力をもってしても軽度の魔力酔いを起こす……か。一体どれだけ濃い魔力が集まってんだか……。
「まああれだな。高山病対策と一緒だ。ひたすらにゆっくりゆっくりと体を慣らしながら進むしかない。それでも無理なら……まあ、ちょっとした防護服みたいなものでもを考えるか」
俺は身体の調子を整えながらついでにこの高すぎる魔力濃度対策を考え、ここまでの濃度なら宇宙服よろしく周囲の環境と自分の身体を完全に断絶するつもりの方が良いかもなと思う。
具体的な手法としては全力で魔力による膜を張り、膜の内側に外側から魔力が入り込まないようにする感じ。
と言うかこの先もっと濃度が高まるなら早速出番が有るかもな……触媒要らずではあるが試作もしてない魔法をぶっつけ本番で使うとか絶対に御免だけど。
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「なるほど……確かに石だな……」
そして一時間ほどかけて魔力貯蔵庫の中心部にやってきた俺だが、そんな俺の前には黒い石のような物体が浮かんでいる。
なお、俺が入ってきた入口からここまで100m無いのに、ここの魔力濃度に体を慣らしながら進んでいたら一時間もかかる事から分かるようにここの魔力濃度は本当にトチ狂ってる。
しかも中心部に向かうにつれて魔力濃度がドンドン高まっていくし。
「で、この石は何なんだ?」
俺は浮かんでいる黒い石の様子を観察する。
表面の光沢を見る限りでは黒曜石に似た何かではないかと思うが、こうして見る限りではこの石は一切の支えなく浮かんでおり、しかも周囲にある魔力の色や濃度を見る限りでは何か魔法の力が働いているわけでもなさそうなので、少なくとも黒曜石のような普通の物質では無くそれ自体が特別な力を有している物体。所謂魔法金属と言う奴だろう。
尤も冒険者や村長、魔法使いとして多方面に対して活動している俺は方々でその存在を聞くが、それによれば魔法金属と言うのは殆ど空想上の物で、仮にそれで武器を作ったらそれ一本だけで屋敷が数棟建つとか言われるほどの超高級品だと聞いた覚えがあるが。
で、今まで聞いてきた話の中には黒い魔法金属と言うものは無かった気がするので、結局のところ外見からではこの石の正体は不明である。
「ただ、この空間内に特別な処理も施さずに存在できる上に石が有る場所が一番魔力濃度が高い事を考えるとコイツがこの辺り一帯の魔力濃度が高まっている原因かもな……」
で、そう考えるならこいつから大量の魔力が発せられたためにこの魔力貯蔵庫が限界に達して弾け飛んだって言うパターンも有るよな。
そう考えると迂闊に動かすのも危険かもな。
だからと言って放置しておくのも危険すぎるけど。なにせこの魔力濃度の原因がこれだとしたら、普通の人間が扱えるのは万が一どころか億が一程度かもしれないがそれでも何かヤバいものに流用されるされる事を考えると……な。
実際、自分の命を投げ打ってでもここの事を知ったら突貫してきそうな連中を俺は知ってるし。
「よし。とりあえず魔力の箱のようなものを作って……と」
そんなわけで持ち帰ることを決心した俺は魔力で作った箱を黒い石の周りに展開するとその箱を手に取ろうとする。
「っつ!?まずっ……ぐっ!?」
が、触れた瞬間腕に伝わってきた魔力を俺は感じ取り、咄嗟に触れた方の手を肩口から切り落とす。
そして切り離した瞬間、黒い石から大量の魔力を吸収した俺の腕は【オーバーバースト】を起こし始める。
「間に合え!ミズキ!!」
「えっ!?パンプキン!?分かったわ!」
俺はその瞬間全力で魔力の暴風を突き抜けてミズキの元に辿り着き、俺の視線によって何をするべきなのかを理解したミズキと共に俺は何重にも防御魔法を張り巡らす。
「ぬぐぐぐぐ……」
「ううううう……」
防御魔法の展開が完了した数瞬後、俺とミズキが展開できる中では最高レベルの防御魔法すら揺るがすほどの爆発と閃光が魔力貯蔵庫の方から発せられ、俺たちは無駄口を叩く暇も無く持てる力の全てを使うつもりで今張られている防御魔法を維持しつつその上から新しい防御魔法を次々に生み出していくことでそれをどうにか耐えきる。
「はぁはぁ……」
「治まったわね……」
やがて俺の腕による【オーバーバースト】と言う場合によっては【共鳴魔法・核南瓜】にも匹敵するような威力の爆発は止み、辺り一帯を包んでいた土煙も少しずつ晴れていく。
そして完全に土煙が晴れた後には……
「うわぁ……」
「流石と言うべきかしらね……」
俺たちの居たドーム状の建物はその半分ほどが跡形も無く吹き飛び、もう半分も殆ど瓦礫の山と化していた。
だが、爆発の影響か高濃度状態で偏在していた魔力の大半は周囲に撒き散らされており、その視界は明らかに良くなっていた。
「と、とりあえず石を回収するか。今なら大丈夫そうだし」
「そ、そうね。幸いドーム以外の建物にはほとんど被害は無いみたいだし。」
で、俺はドーム状の建物の中心に行くと殆ど魔力を発していない黒い石を恐る恐る回収し、ミズキと一緒に一応巻き込まれたが死んではいない生物が居ないかを確認した後にサンサーラエッグ村まで一目散に逃げるのであった。
さて、この石が幸を呼ぶか不幸を呼ぶか……とりあえず既に一回不幸を呼んでいるから次は幸運を呼んで欲しいものだ。
あ、腕が弾けましたが、腕の一本ぐらいなら普通に生えますのでご安心を