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第104話「遺跡調査-4」

「話には聞いていたが凄まじいな……」

「そうね……ここまでだとは思わなかったわ」

 季節は夏。俺とミズキはサンサーラエッグ村からリーンの森の中を二日ほど歩いたところにある建物に来ていた。

 春の間にクレイヴたちが調べた限りではこの建物は500年以上前に建てられた何かしらの学術機関または研究機関であることが判明しており、魔力濃度が高すぎるために探索することが出来なかった一部の建物を除いて既に探索は完了している。


「確かにこりゃあ普通の人間は勿論、冒険者でもキツイよなぁ……」

「と言うか、私やアンタだって気を抜いていたら微妙なラインよね。これは」

 俺とミズキはクレイヴたち調査隊がまだ調べていない建物……魔力濃度が著しく高くなっているエリアに向かって歩いていく。

 その建物は一見するとドームの様な建物であったが、ドーム周辺には雑草一本すら生えておらず、時々何かが弾けるような音を鳴らしている剥き出しの地面が広がっている。

 恐らくはあまりにも魔力濃度が濃すぎるためにドーム周囲の雑草は重度の魔力酔いによって枯れ、小石が【オーバーバースト】を起こしているために時々何かが弾けるような音がしているのだろう。

 俺やミズキは体内の保有魔力濃度が高い上に魔力操作に慣れているから大丈夫だが、これだけの濃度になると流石に注意深くならざるを得ない。

 過ぎたる薬は毒と変わらないのは魔力も同じなのだ。


「と、見えてきたな」

「建物の中はもっと酷そうね……」

 ここでこの高魔力濃度地帯の中心部。ドームのような建物の入り口が見えてくる。


「視界の方は大丈夫?」

「感度をだいぶ下げてるけどそれでもまだキツいな。少し待ってくれ」

 で、本来ならばすぐにでもドームの中に入りたい所なのだが、スパルプキンの種族的特徴として魔力を光として視認する能力がここでは仇となっており、自分で意識できる範囲で可能な限り感度を下げているのだが、それでもまだドームの中が白一色に染め上げられてしまうほどにドームの中は輝いてしまっている。


「ぐぬっ……」

「無茶するわねぇ……」

 と言うわけで俺は周囲に無秩序に存在している魔力を押しのける様に自分の魔力を広げて結界とし、最低限の視界を確保する。


「ぬぬぬ……これでどうだ!」

「おおっ!」

 だが、周囲の魔力濃度が高すぎるために油断していると直ぐにでも浸食されそうなので、わざと結界の一部を緩めて周囲の魔力と俺の魔力を交換・対流させ、若干視界が悪くなるのと引き換えに俺の魔力を常に回復させるように結界の構造を調整する。

 これでこの高魔力地帯に居る限りは実質的に俺の魔力は無限にあると言っても過言ではないだろう。

 尤もこの大量の魔力の出所が分からんから本当に無限なのかは怪しいが。

 なお、ミズキは精霊と言う魔力の塊が意思を持った存在であるためか、気を付けるべきは自己と他者を区別する境界面の維持という事で、俺とはまた違う面で大変らしい。


「よし、行くか」

「そうね。そうしましょうか」

 そうして俺とミズキはドームの中に入って行った。



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「うーん……」

「何も無いわねぇ……」

 ドームの中は歩けど歩けど何も無かった。

 と言うのもコンクリートによく似た石材を用いた基礎は何かしらの魔法が掛かっているためなのか効果が切れた部分を除けば無事だったのだが、それ以外は窓枠も床材も資料どころか埃のような物すら存在せず、どこまでも殺風景で無機質な光景が広がっていたのである。

 何と言うかここまで来ると最早ホラーだな。恐らくは外の雑草や小石と同じように魔力濃度が高すぎて予め対策が施されていた部分以外は全部吹き飛んでしまったのだろうが、それにしても恐ろしい。


「唯一の救いは濃度が高すぎて誰も利用できないってところか」

「そうね。少なくてもマトモな人間には利用できないと思うわ」

 俺とミズキはドームの中を彷徨いながら微かに残っている備え付けの設備の状態を確認したり、その用途を想像したりしていく。

 で、俺が今見ているのは魔力を通さないように処理が施されたパイプで、出口には同じ処理が施されたコックのような物が付けられている。

 こういうのを見ているとクレイヴたちの調べでここは学術や研究に関する施設だという事は分かっているので、恐らくだが魔力に関する実験が行われていたんじゃないのかなとか思えてくる。

 実際、この想像は当たらずとも遠からずと言ったところだろう。


「と、ここがそうだな」

「ここから魔力も噴出しているし間違いないと思うわ」

 やがて俺とミズキの前に周りとは違う石材で作られた壁と、その壁に付けられた巨大な破壊痕が現れる。

 破壊痕からは俺とミズキの力をもってしても気分が悪くような勢いと濃度で魔力が噴出している。


「恐らくだが、ここが魔力の貯蔵施設だったんだろうな」

「さっきのパイプも繋がっているし間違いないと思うわ。壊れた理由とかは分かる?」

「細かい破片とかが全部消し飛んでいるから詳しい事は分からないが、恐らくは外からじゃなくて内側から破壊されているな。亀裂の出来方が何となくそんな感じだ」

 俺は破壊痕を簡単に探るとそう結論付け、亀裂から離れる。

 恐らくだがこの魔力の貯蔵施設はセンコノト城の地下にあった物と同じような原理で魔力を集めていたのだろう。

 が、魔力を集めすぎて貯蔵限界を超えてしまい、結果として内圧によって外壁の一部が破損、長年に渡って内部で貯蔵され続けていた魔力が溢れだしたとかそんなところだろう。

 そしてこの傷が出来てからどれだけの時間が経っているのかは分からないが、今なお亀裂から魔力が噴出しているのはこの石材の性質が特定方向にだけ魔力を通すと言う性質のせいだろうな。


「ん?ちょっとパンプキン。アレ何かしら?」

「どれどれ?って遠くて見えねえな」

 と、ここでミズキが亀裂から中の空間に向かって指を指すが、現状俺の視界は著しく制限されているためにミズキが指さしている物は見えない。


「うーん。ドームの中心部に何か石みたいなものが浮かんでいるのよね」

「石?」

「そう。でも何か変な感じ。嫌な感じはしないけど奇妙な気配は感じるわね」

「ふうん……しょうがない。少し行ってみますか」

「私は行けないから気を付けてね」

 そして俺は結界の強度を上げるとミズキの言う石の正体を確認するために亀裂から魔力の暴風が吹き荒れる魔力貯蔵庫の中に入って行った。

変な石の正体は次回以降にて

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