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第102話「南瓜と海月-2」

「…………」

「テヘペ……ロフアアアァァァ!」

 俺の右ストレートによる一撃が顔面に決まってロウィッチが奥にある異界産の品々が積まれた戸棚に突っ込む。


「ふう……死ぬ覚悟は良いか?」

「ちょっ……待っ……アッー!?」

 そして床にまでロウィッチがずり落ち、部外者が入って来れないように結界施したところで俺は飛行能力も生かしたループコンボを叩き込んで行く。


 さて、ここらで何が有ったのかを語っておこう。

 冬が明けて新年の挨拶も兼ねてクヌキ伯爵に会いに行った帰り、俺は今までの落とし前を付けるために『ウミツキ文房具店』に来ていたのだが、そこには創造神の使徒(笑)である少女の16分の1スケールフィギュアを手に持って怪しげな笑顔を浮かべるロウィッチが居た。

 どうやら俺が魔力の放出を抑えていた為に来店には気づかなかったようだが、俺の怒りに合わせて漏れた僅かな魔力でロウィッチは俺の存在に気づいたようだ。

 で、自分が今している事の拙さに気づいたのかフィギュアを背中に隠して笑顔を浮かべるが……もう遅いから。

 と言うわけで全力で魔力を込めた俺の右ストレートが炸裂したわけである。以上本当は別の理由も有って店に来たけど回想を終了してループコンボに戻る。


「うう……酷い目にあった……」

「ちっ」

「ちっ、っておい……並の魔獣なら消し飛ぶ様な魔力を込めた拳で人の事を殴っておいて何を言っているんだお前は」

 コンボが終わったところで、多少痛がりながらロウィッチが立ち上がってこちらに歩いてくる。

 ただ、残念ながら変態であっても実力者なのは確かなので、()に残念ながら仕留められなかったらしい。しかも例のフィギュアも青い膜みたいな物がいつの間にか張られていて傷一つ付いてねえし。

 こりゃあ、本気でやる気なら【共鳴(レゾナンス)合奏(コンチェルト)魔法(スペル)四季(フォー)四刃(シーズ)セット(エッジ)】を使わざる得ないな。それでも破れるか怪しいが。


「で、今日は何の用だ?」

「落とし前……は今付けたな。ああそうだ。リーン様からなんか情報を貰っておいてとか言われてたな」

「情報?ちょっと待ってくれ」

「分かった。適当に商品でも見てるわ」

 俺の言葉を聞いたロウィッチは一度店の奥に引っ込むと誰かと何かを小声且つこの世界の言葉とは違う言語形態の言葉で喋り始める。

 と言うわけで俺が『ウミツキ文房具店』に来た理由その二は数日前にリーン様から一方的にロウィッチに情報を求めるように言われたためである。

 理由は不明。ロウィッチも話を聞いていなかったっぽいし、こりゃあ時間がかかるかもな。

 と言うわけで適当に店の商品に掛けられている魔法を読み取りつつ時間を潰すこととする。



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「連絡が取れたわ。で、これを渡して読んでもらえだとさ」

 店の奥から片手に紙のような物を持って出て来たロウィッチがこっちに歩いて来て、俺にその紙(?)を渡す。

 疑問形なのは外見は紙だが、持った質感が紙とは明らかに違っていて何と言うか金属っぽい感じなのである。


「受け取るのは良いが、俺が読む意味はあるのか?」

「前にもやってたと思うが、ウチの社長曰くそれを渡したい人なら自分の視界と自分の信者の視界をリンクさせるぐらいは出来ると思うからとにかく読ませろとか言ってたし、とにかく読んでみればいいんじゃね?」

「ふうん」

 俺はロウィッチにそう言われてもらった紙に視線を下ろす……が、見た事も無いような意味不明の記号が羅列されているだけで全く読めない。

 そして紙面の横に矢印っぽい物が有ったのでその辺りを弄ってみるとまた違う文が出て来たのだが、やはりこれも正体不明の記号の羅列であってその内容は読み取れない。


「なあ、ロウィッチ」

「何だ?」

「読めないんだが……」

「翻訳魔法とかないのか?」

「無い」

「……。お前の上役にはもう伝わっているとは思うが、その内容はお前も知っておくべきだよなぁ……。しょうがない、今回は代読してやる」

「ごめん」

 と言うわけでロウィッチに俺は紙を渡して代読してもらう。

 とりあえず翻訳魔法については後で開発することを本気で考えておこう。


「えーと、内容としては……一枚目が『『リ××ス=R=××××ティ様』 本日は『多×元××易会××ンプ×ックス』のご利用ありがとうございます。弊社では現在そちらの『R××-I×4-××1世界』周辺の監視と下級神に範囲を限定した『時××移結界』を展開しています。その『時××移結界』にですが先日『×』の関係者である『生××ぶ群×××主』が接触し、弊社の展開した『時××移結界』によって本人に気づかれる事なく三年後のセンコ国マドサ領領都クルイカに『時×××』をさせることに成功いたしました。『生××ぶ群×××主』への対応についてはそちらにお任せします』だそうだ。で、二枚目がそれに付随する種々のデータで『生××ぶ群×××主』についてウチで把握してるレベルのデータとかが有るな」

「……。日本語でおk?」

 で、ロウィッチに代読してもらったのだが……所々に何故かノイズが混じって聞き取れない単語が混じっていてどうにも詳しい事が分からなかった。

 とりあえず分かったのは三年後のセンコ国マドサ領領都クルイカと言う場所に何かが来るという事ぐらいである。


「そもそもこの世界の共用語はそれじゃないだろ。それからもし聞き取れない単語が有ったのならそれは俺のせいじゃなくてお前の能力不足で本能的に理解を拒否しているだけだからな」

「むう……」

 そして実力不足と言われてしまうと俺としては何も言い返せなくなる。

 やはりと言うか何と言うか、やっぱりまだまだ実力不足なんだよなぁ……サンサーラエッグ村に帰ったら色々と考えないとな。

 と言うわけで俺はその紙の内容を通常の羊皮紙に書き写した上で懐に納めるのであった。

フィギュアについては次回にて(笑)

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