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第101話「王子様来訪」

 冬である。

 毎年冬の間にやる事と言えばそれぞれの家の中で内職に勤しむのがサンサーラエッグ村での基本であるが、今冬は冬明けに件の建物の調査をするための準備を進めているので普段より人の動きが活発で物も含めて出入りが激しくなっている。

 そして、大量の人が移動することによって比較的ではあるが安全な道が出来るわけである。


「久しぶりだなパンプキン殿」

「…………」

 と言うわけでその大量の人間に混じる形で安全な道を通って皇太子殿下が参りましたとさ。

 なお、皇太子殿下の後ろには護衛と思しき騎士が何人も控えている。


「えーと、何故こちらに?」

「先日の件で依頼分の報酬は渡したが、それ以外についてはまだだったからな。そちらを渡しに来た」

「?」

 俺は王子様に来訪した理由を聞くがその返事の内容は俺には心当たりがないものだった。

 いやだって、俺は冒険者として王子から依頼を受けてそれを達成しただけだし、報酬についても事前に決めていた通りだったのだから何も問題は無いだろう。

 なのにそれに加えて渡す物がある?どういう事だ?


「と言うわけでパンプキン。君にセンコ国男爵位を与えたいと思う」


 ……。うん。特大級の面倒事だな。と言うわけでだ。


「お断りします」

「きさっ……」

「即答だな。私も正直そう言うと思っていたが何か理由はあるのか?」

 俺の言葉に対して護衛隊長が何かを言おうとするが、それを王子様が手で止めつつ俺に問いかける。


「いやまあ、俺は今の村長程度の立場に満足してますし、魔法使いとして生きる事を考えたら爵位と言うのは足枷にしかならない気がしますんで」

「爵位とはまた違うが、宮廷魔道士になろうとは思わないのか?君の魔力と魔法を考えれば直ぐにでも宮廷魔道士の長にだってなれるだろうし、そうなれば自らの研究を進める事も容易になるが?」

「俺にとって魔法は手段であり目的ではありません。そして俺の目的を果たすのならば宮廷魔道士の地位は不要です。そもそもこんなぽっと出の南瓜がそんな大層な地位になったら余計な恨みを買うだけです」

 加えて言うならこの手の地位を貰うとそれに合わせて色々なしがらみとか面倒事が纏わりついてくるからな。それもこの手の地位が欲しくない理由である。


「なるほどな。その気持ちは分からないでもないが他のスパルプキンのために爵位を貰いたいとは思わないのか?一人爵位を持っていれば種族全体の地位がだいぶ変わるぞ?」

「俺じゃあ貰っても生かせないし、その内そう言う謀に向いた子が出てくるだろうから、そしたらその子に与えればいい」

「ふむ……」

 俺の言葉に王子様は何かを考え込むような素振りを見せる。

 実際種族全体の地位にしたってスパルプキンは現状だとド田舎の中でも更に辺境に属するような場所にだけ住んでる種族だからなぁ……あまり必要になるとは思えない。


「義務も権利も何もない本当に名誉だけの男爵位と言うのはどうだろうか?」

「それでも何か勘違いした方が来そうで怖いんですけどね」

「心配しなくても君の名は竜殺しの魔法使いとしての方が中央では知られているし、そんな相手に喧嘩を売ろうと考える者など数えるほども居ないだろうさ」

「むう……」

 俺がああ言えば王子様はこう言う。

 その後もリオの事や灰硬樹製の武具の事で話を逸らそうとするが効果は無し。どうあっても話の筋を戻されてしまう。

 どうやら王子様はどうあっても俺に爵位かそれに匹敵する物を渡したいらしい。


「ええい!良いから受け取らんか!皇太子殿下から直接爵位を受け取れるなどこれ以上の名誉は早々無いのだぞ!」

 と、ここで実を言えば先ほどからずっと何かに耐えるように震えていた護衛の人が青筋を浮かべつつ大声を上げて俺を威圧しようとするが……すまん。お前ら程度じゃどう威圧されても屁のツッパリにもならんわ。

 最低でもエントドラゴンレベルの魔力を放出してから威圧してみてください。そしたらちょっとは気になるんで。

 と言うかですね。


「知らんがな。こちとら悠々自適な今の生活が気に入ってんだっての。陰謀策謀は俺の迷惑に関わらない所で勝手にやってろ」

 表には出せないが実質的に俺は神様(リーン様)に仕えている身だから人間から貰う地位何てありがたくも何ともないんだよ。

 ミズキよりも年を経ている精霊からお褒めの言葉を頂けるとかならまだ分からないでもないが。


「はぁ……どうやら君には建前で物を話すよりも本音で話をした方が速そうだ」

「ん?」

 と、王子様は一度溜息を吐くと何かを諦めたかのような口調で言葉を紡ぎ始める。


「本当の事を言うとだね。今回の件で君がやった事を正当に評価するなら侯爵位か伯爵位を授けても何の問題も無いぐらいなんだ。なにせ事前情報や私たちの協力が有ったとはいえ実質的に独力でセンコノト城を奪還したような物であるし、陛下・側室・姫も助け、破壊神本体が召喚されかねなかったところを腕一本にまで落とすと共に破壊神信者の手によって生み出された異形の化け物たちも駆逐した。誰かさんは自分が倒した異形の化け物たちの事については何故か語っていなかったようだがね」

「……」

「それを君がその手の地位を望んでいないという事でクヌキ伯爵や私が貴族たちに根回しをして、何とか爵位の授与式すらも省いて名ばかりの男爵位を与えると言う事で落ち着かせたんだ。そして、この場で君が男爵位を受け取ってくれなかった場合私やクヌキ伯爵の面目は丸潰れだし、君以上の功績者がとある一人を除いて居ない以上は他の者達には一切の褒賞を与える訳にはいかなくなる。これがどれだけの面倒事を引き起こすか君なら分からないでもないだろう?」

「むう……」

 何と言うか……流石にここまで来ると受け取らざる得ないかもしれない。と言うかこうなると受け取らなかった方が余計な面倒事を招きそうだ。主に金銭的な恨みと言う意味で。


「分かりました……受け取っておきます」

「うん。ありがとうパンプキン男爵」

 そして俺はスパルプキンと言う種族の中で初めて爵位を持つ個体となった。






 ちなみに、俺以上の功績を持った人物について王子様に聞いた所、破壊神の腕を吹き飛ばしたオレンジ色の髪に黒と白の装束をまとった謎の少女が存在するそうだが、この少女は創造神教会のサクリ大司祭の言から創造神の使徒であることが判明し、創造神の使徒にとっては人の世での栄誉ではどのようなものでも釣り合わないという事で、教会の経典に創造神の使徒の一人としてその姿を記載する以上の事はしない事に決めたらしい。

 実際にはどこを探してもその痕跡すら探り出せないので諦めたとも言えるがな。とは王子様の言葉ではあるが。


「では、私たちはこれで失礼するとしよう」

「どうもでーす……」

 ただね。うん。この話に関しては三つほど突っ込みどころが有る。

 まず一つ目。この少女と俺は同一人物です。なのでしっかり褒賞は与えられてます。

 二つ目。俺は創造神の使徒じゃない。強いて言うならリーン様の使徒です。勝手に経典に描くなし。

 三つ目。


 なんで“少女”何ですかねぇ!?


 とりあえずこれについては明らかにロウィッチの仕業なので、後でロウィッチはボコる。本気でボコる。ウリコの件も含めてボコりに行く。

 ふはははは。待っているがいいさぁ……ロウィッチイィィ!

ロウィッチは完璧に幸福な仕事をしました。

その結果がこれです。

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