第10話「秋の南瓜-3」
「で、貴方の名前は?心配しなくても真名を利用する術を私は持ってないから安心して名乗っていいよ」
「名前ね……」
そいつは笑い声でそう言う。
俺は目を凝らす。どうやらこいつは俺と同じように巧妙に隠してはいるが、相当な量の光を持っているようだ。恐らく俺よりも光の総量は多いだろう。
となれば出来る限り刺激しない方が良いな。今は敵意を見せていないが、戦いになったら逃げるしかなさそうだ。
「俺の名前は……あー……」
「どうしたの?」
で、名乗ろうと思ったんだが、考えてみれば俺ってば地球の頃の名前は忘れているし、今までは必要なかったから今の名前は考えても無かった。
と言うわけで早急に考えなければならない。
南瓜、カボチャ、かぼちー、かぼーちゃ、パンプキン、ジャックランタン、ステルスカボチャ、黄色い花、アイキャンフライ……っていかん。変な方向に思考が流れてる。
「もう、早く名乗ってよ。私だって暇じゃないんだよ」
イカン!早く思いつかなければ!?
そうだ。俺の名前は……
「パ、パンプキンだ!」
「……」
俺がそう名乗った瞬間。一瞬だが世界が凍りついたような気がした。
駄目だ。色んな意味で終わった。南瓜=パンプキンだからってこれは無い……。
「あー……うん……取ってつけたような名前だけど名乗ってくれたならそれでいいよ」
「なんかごめん……」
場の空気がすごくどんよりしてくる。
でもしょうがないじゃないか。他に思いつかなかったんだし。厨二病の申し子たるドイツ語さんで南瓜をどう呼ぶかなんて知らねーよ。
俺は落ち込みながら地上まで降りていく。
「まあいいよ。私の名前はミズキ。ミズキでいいわ。人間たちがアキューム湖と呼ぶこの湖を管理する水の精霊よ」
「へー」
そいつ改めミズキが自己紹介をし、その姿を少女のような姿に変える。
なるほど精霊なんてものがこの世界に入るのか。流石は異世界だ。
しかし精霊って何なんだろうな?それにどうして俺に接触してきたかが分からない。とりあえずミズキが俺よりも大量の光を持っているていうのは分かるけど。
とりあえず接触してきた理由から聞いてみるか。
「ちょっと質問。どうして俺に接触してきたんだ?」
「見かけと実際の魔力が大きく違う生物が自分の住処に近づいてきたら普通は気になると思うけど?」
あー、確かにそれは気になるかも。
と言うか魔力って言ったか?
「魔力ってこれのことか?」
俺は手の平の上に光を集めてミズキに見せる。
「ああ、やっぱり魔力を扱えるのね。そりゃあ見かけと中身に差が出てくるわけね」
「!!?」
ミズキの言葉に俺は驚きを露わにする。
と言うかやっぱりこの光=魔力で正解だったのか!
つまりこの光改め魔力を自在に操れるようになれば魔法を使えるようになる可能性があるという事だな!
「なんか妙に喜んでるわね」
「そりゃあ嬉しいに決まっているさ!だって魔法だぜ!ま・ほ・う!夢溢れすぎて小躍りするっての」
「もう踊ってるじゃない」
俺が全身を使って踊っているとミズキからツッコミが入る。
でも、ツッコまれたって嬉しいものは嬉しいんだぜ!
「そのはしゃぎように奇妙な容姿。加えて土の魔力持ちなのに空を飛ぶ……もしかしなくてもパンプキンって転生者か何かなの?大抵の転生者は魔力と魔法とか聞くとそれだけで嬉しがるし」
「おう!一応は転生者分類だと思うぜ」
ミズキの言葉に俺は小躍りを維持したまま答える。
それにまあ実際の所俺は前世……と言うか地球でのことは覚えてるしな。体はカボチャだが一応は転生とか憑依とかその辺に分類してもいいだろう。
「てか、大抵のって事は俺以外にも転生者って居るのか?」
「時折居るみたいよ。まあ、前世の事を全部覚えて転生するわけじゃなくて部分部分で覚えてる程度みたいだけどね」
「なるほどねぇ」
ミズキの言葉に俺は思わず頷く。
てー事は地球に居た頃の俺の名前を覚えていないのはその部分部分に名前が含まれなかったからなのか。
それにミズキの言葉から察するにこの世界では転生者ってのはきちんと立場がある存在みたいだな。それはこの先生きていくのにありがたい情報だ。
「まあそれでも、カボチャになった元人間なんて聞いたことないし。よくて魔獣扱い。悪ければ未知の化け物呼ばわりだと思うけど?」
「オウフ」
ミズキの言葉に俺のテンションが一気に下がり、地面に頭をこすり付けるような体勢を取る。
ああうん。てかやっぱり普通はもうちょっと普通の生き物に転生するものなんだな。その中で何で俺はカボチャなのか小一時間ぐらい神様を問い詰めたい気分だよ。
で、その後会話の中でいくつかわからない単語があった為そこら辺についてミズキに聞いた所「まあ、私は人と関わる方じゃないからそこまで詳しくは無いけど」と断った上で色々と教えてくれた。
曰く、精霊とは自然界で一か所に集まった魔力が長い年月をかけて自我を得た存在の事を言うそうで、ミズキは水精霊に分類されるがまだまだ若い方らしい。
曰く、魔獣とは魔法を意識的に扱う動物全般の事を言うそうで、俺も分類上は魔獣扱いになるらしい。
曰く、転生者は確かに有用な知識を持ち、様々な面で優遇されていると言えるが、武器に関する知識を持つ転生者が異常に少ない事からその手の危険な知識については神様が転生前に手を入れて消している疑惑がある。
で、ここからが本題。
「はい。ミズキ先生。魔力とか魔法とか話の中で出てきましたが、具体的にはどういう物なんでしょうか?」
俺は正座のようなポーズで片手を上げてミズキに問いかける。
「うーん。私も詳しい訳じゃないんだけど、その内私から貴方に用事が出来た時に聞いてくれるって言うなら私が知ってる限りで教えるけど?」
「是非是非」
と言うわけで水精霊ミズキ先生の魔力・魔法講座はっじまるよー
ついに名乗りました。
ちなみに調べたところドイツ語では南瓜は「キュルビス」だそうです。
個人的にはトルコ語の「カバック」や「バルカバユ」がかっこいいなぁと思ったり。