寂寥感
いつの間にか十月になってた。
しかし何故だろう、俺の姿は相変わらず秋桜の容姿である事に変わりがなかった。
あの日に受けた傷は痛さはそれなりだったが、やはり俺が思った通りに軽い傷であるらしく、退院は早かった。
それでも傷は少しだけ秋桜の肩、胸の部分に残ってしまうと聞いて心苦しかった。
お互いこの一か月上手くこなしてきたつもりだ。
かんなも色々協力してくれて、両親にも気づかれていないし、学校ではジュンや雄平先輩のおかげで何とかなっている。
それでも何より大事だったのが、俺と秋桜のお互いの気持ちだったのかもしれない。
戻ろうとする努力はしなかったけれど、それでも二人とも今を生きる努力はしていた。
あきらめず、そして日々が過ぎていく。
秋桜とかんなのふたりの誕生日だった九月八日もいい日だった。
そして十月になった。
秋の候には考え事が多くなる。
秋の寂寥感が俺を恣意的にそうさせているのかもしれない。
今日も普通に学校が終わった。
十月の第二週目のある日。
俺は帰り支度をしていた。ある用事があるために俺は部活をやらず早く帰ろうとしていた。別に部活は家でもできるものだから。
その時に不意に声をかけられた。知り合いではない声、それでも聴いたことのある声だった。
「ねえ、秋桜ちゃん」
そんな呼びかけにも慣れてきた。
「ん、なあに?」俺はそつなくこなした。
これじゃあ戻った後の方が大変だな。
相手は少し気の強そうな体育系の女子だった。身長は少し高く、それでもかんなと同じくらいだろう。俺(秋桜)よりは確実に高かった。確か硬式テニス部の女子だった気がした。
「秋桜ちゃんって、拓磨君の事好きなの?」
「……」そう聞かれて内心吹き出しそうになった。
なんで、俺がジュンを?ホモですか?なんて思っても俺は秋桜なのだ。
俺がジュンと男同士仲良く話していても、周りは男女が仲良く話している絵にしか見えないのだ。そう勘違いしてもおかしい話ではない。
さてはコイツ、ジュンの事ねらってんな。
はっきり言ってやめておいた方が良いぜ、こいつだけは。
俺はじゅんがモテているからとかそういう妬み的な事を言っているのではなく、こいつに恋をするとその99.99%以上は儚く散ってしまう事になるからだ。
現に、俺がたとえ俺であり、秋桜の姿をしている俺であっても、ジュンは俺と話す時、まるで興味ないと言った様子で平然と俺の話を聞き流しているからだ。
普通、うちのクラスの男子とかだったら、俺に話しかけられただけでしどろもどろになったり、妙に落ち着かなくなったり。あと先日嫌な話なのだが告白されたこともあった。
人生初被告白が男子からだったとは…。
俺は無言になってしまった。無言になるとはつまり認めてしまったと同然の事をしていると思う。
何か言い返さなくてはと思うけれど言葉にだせなかった。
俺はその理由をあいまいな形で知っていた。
なんだろう、ほとんど感覚的な気がするけれど、俺の心、胸のあたりが痛むような気がするのだ。
もしかしたら秋桜は本当はジュンの事が好きなのかもしれない。
俺は一瞬そう思ってしまう。
ただの部活仲間でも、あそこまでかっこよければたとえ俺の姿であっても、ジュンに惹かれる気持ちには関係が無い事だ。
そして俺は秋桜の身体でこんなことを思ってしまう。
今、秋桜の胸にある、胸にしまっている思い人はいるのだろうか。
俺はそっと胸をあてた。
そしてその俺を目覚めさせるように、そのテニス部の短髪の女子が言った。
「拓磨君は止めておいた方が良いかも…。悪いことを言ってるんじゃないよ。私別に拓磨君の事は好きじゃないし、彼氏がいるから。そういう事じゃなくて、彼はそういうのに無関心だから、難しいと言っておくわ。本気だったら頑張ってね」
彼女はその場を去っていく。
俺は一瞬で思ってしまった。
今のが秋桜が綺麗であるが故の妬みなのかは俺にはわからないが、たぶん彼女が前にジュンの事がすきだったのには間違いがない。
彼女に彼氏がいるのは聞いたことがあるから本当だ。
まあいいや、所詮人は人。自分は自分。
俺はそう考えた。
そう、たとえ秋桜がどこの誰かを好きになろうと、家族であっても俺は見守ることしかできない。
家族だからそうしかできないと言ってもおかしくはない。
ただ、今日とある場所に行くことに俺は少しの怖さを感じた。
俺は誘われたのだ。
秋桜から、用事があると。
最終話は今日の夜更新します。