第09話『家出少女をダメ社会人が保護してメシを食わせる系』
といっても、いきなり敵が殴りかかってくるわけではない。魔凛は『面倒くさがらず、今晩中に残りの円卓因子を配り終えるよ』と言っていたし、しばらくは大丈夫かな。
おうちに帰ろう……オレは再び街を歩く。
「えへへ」
「……ん?」
オレの後ろに、何故か麻子ちゃんがついてきていた。
「家に帰った方がいいんじゃない? 親御さんだって心配してるはず」
「あたし、ししょーと一緒にいたいです!」
「んんん?」
若々しい身体をぴょんぴょんと跳ねさせて、麻子ちゃんはオレの隣にくる。
なんなのだろうか、ひょっとしてオレの事が好きなんだろうか。
ああ、いや、んなわけない。流石に三十歳になってそういう思考回路はよくないぞ、オレ。
「ししょー……だめですか?」
うるうる……と瞳を潤ませて、麻子ちゃんはオレ上目遣い。なんというか、麻子ちゃんは喜怒哀楽の振れ幅がすっごい。
「……じ、事情を説明してくれたら」
「わかったですー!」
麻子ちゃんは快活に返事をして、説明を始める。
一週間前、麻子ちゃんは魔凛より円卓因子を継承され、双極円卓大魔法陣の真実を知る。麻子ちゃんは正義感をメラつかせ、なんとしても双極円卓大魔法陣で勝つことを目指す。
何でも円卓騎士はチームで動く事が基本らしく、一番最初にやるべき事は、味方との合流……との事。
「えっと、ほら、ゲームでも……補助魔法しか使えないようなジョブがあるじゃないですか、円卓騎士にもそういうジョブの騎士さんがいるみたいですね」
「なるほど……?」
「それに、例えば『相手の動きを止める魔法』があったとしたら、その能力を使って相手一人の動きを止めて、一緒に行動するチームメイト全員で、止めた人をボコボコにするのが一番いいはずですー」
「物騒だけど、まぁそうだよね」
大体のEスポーツでも、確かに火力を集中させるのが重要、そういう理屈か。
まぁ、現実の戦いをゲームで例えるのはどうかと思うけど……双極円卓大魔法陣そのものがゲームみたいなものだから、考え方としては間違ってないか。
「それで、あたし、合流したかったんですけど……」
……魔凛はあくまでもGMなので、他の円卓騎士の情報はくれなかったらしい。麻子ちゃんはとりあえず、街を歩いて同じ陣営の円卓騎士との合流を目指していたのだ
「当てずっぽうに歩いてどうにかなるものなのかな」
「言葉では説明できないですけれど、円卓騎士になって感覚がびんびんになってますからね……どちらかが隠れようとしていなければ、円卓騎士同士は近づけば分かるようになります」
「なるほどね」
「……それで、あたしはその……今は亡きパーシヴァル卿とアグラヴェイン卿に襲われてしまうのでした、よよよ」
「殺すな殺すな」
イカせただけや。
「なので、敵の円卓騎士さんチームに闇討ちされる可能性は、今この時だって十分にあるということなのです! たいへん!」
「たいへんだ!」
「という事なので、お家に帰れないのです、ししょー」
「家に居て、他の円卓騎士に襲撃されちゃったら、ご両親に迷惑がかかる……と」
「は、はい。家族は巻き込みたくないです」
「そっかぁ」
警察に相談してどうなる事でもなさそうだし、話し合って分かってくれるような相手でも無いだろう。
それに、自分本位の考え方にはなるが……オレのチートは眠っている時は発動しないし、不意打ちや闇討ちの類には滅法弱い。
オレだって、仲間と一緒に居る事は大きなメリットがあるのだ。
…………だ、だから、その……
「ん? どうかしましたか、ししょー」
白いぷるぷるのお肌、発育の良いお胸、苗字から考えるとハーフなのだろう……日本人離れした脚の長さで、非常にスタイルが良い麻子ちゃん。
可愛らしいくせっ毛の美しいベージュ色の髪。蒼くぱっちりとした瞳。
…………そう、麻子ちゃんはかなり可愛らしいお嬢さんなのであった。ちょっとハーフ交じった超級美少女なのである。
「麻子ちゃんはいくつ?」
「十五歳になりました! 中三です!」
「あっ、あっ……」
若い、若過ぎる。ああ、ときめいたオレはロリコンである。
「……オレは、三〇歳ね……ちょうど麻子ちゃんの倍」
「おおお、苦みばしった渋い年齢です……!」
ああ、麻子ちゃん。世の中の三〇歳の九十五%は三〇歳の自覚は無いと思うよ。
「うーん……」
道徳的には、独身男性三〇歳は十五歳のJKと一緒にいてはいけないと思うけど。
ただまぁ、非常時……だよな。この世界のどんな兵器も通じない絶対防御を持った奴に狙われている状態で、道徳とかしのごの言っている場合ではない……今回の場合は、世間も許してくれるだろう。
いざとなったら、不味い事になった関係者を、魔凛に頼んで何とかしてもらったらいい訳だし。
「分かった、ご両親にちゃんと連絡してね」
「分かりました! 友達の所泊まるって……ぽちぽち、あ、返答がありました、オッケーだそうです!」
「一行で!? ほんと!?」
麻子ちゃんは画面を見せてくれた。パパとママからスタンプで了承された。
「うちって放任主義の極みなんですー。パパもママも普通に働いてない人なので、娘を縛るのは違うだろっていっつも言ってます」
「凄い家庭だね」
麻子ちゃんはにこにこと笑っているし、スタンプのやり取りを見る限り、家族はとても仲良しなのだろう。
「流石に男の人とは言ってないですけど……友達というのは嘘ではないはずです!」
「女の子ってたくましいなぁ……それじゃ、我が家に案内しよう」
オレはちょっとだけドキドキしながら……ハーフ美少女と隣り合って歩き、家に向かうのであった。
再びのオレ亭。ザ、日本家屋。
「ほあ~……え、えっと……あたしの家よりおっきい……」
「掃除が大変なだけだよ」
居間に入り、麻子ちゃんはオレの家の広さに驚く。
「ししょー、お金持ちなのですか?」
「遠い親戚が東京で旅館やるぞって言って、物件を買ったところで他の事業が当たっちゃったみたいで……」
この日本家屋は買ったまま放置される事になる。
築年数はかなりのもので、放っておくわけにもいかず……
「色々あって管理する事を条件に、オレが格安の家賃で借りるって事になったんだ」
「ししょー、凄い人だった」
「運がいいだけだよ」
「すごいです!」
にぱー☆ と全くもって無害な笑みを浮かべる麻子ちゃん。
……オレの人生において、これだけ女の子と一緒にいるのは初めての経験である。
「…………」
「どうかしましたか?」
まじまじと麻子ちゃんを見てしまう。健康的で、年齢の割には早熟な肢体を見て、やっぱりドキドキはしてしまうわけで……
そしてオレには激イキのチートがある。その気になればこの子をいつでも快楽漬けにしてしまうすごい力があるのだ。すごいんだぞ。
いやしかし、女子中学生にそんな……ありえない事ではあるけれど……
「あ、麻子ちゃんっ」
「はい?」
ぐぎゅるるるるる――
オレが何か変な事を口走りかけた時、お腹の音が鳴った……二人同時に。
「あ、そうだ。オレ、メシを買いに行って、その途中で……」
「はう、あたしもよく考えたら、最後にご飯食べたの……いつだっけ……」
時刻は深夜。流石にもう家から出たくはない。
「晩御飯にしようか」
「そーですね、ししょー!」
「冷凍食品でいいかな」
「全然かまいません!!」
オレは面倒くさがり屋なので、こういう何もしたくない時の為のストックがたんまりあるのだ。
「遠慮なく食べちゃっていいから」
オレは冷蔵庫に向かう。
「手伝います!」
「今日はいいよ、色々疲れただろ」
「でも」
「明日から……ね。色々教えるからさ。おじさんに甘えなさいな」
「……わかりました! まちます!」
素直ないい子である。オレは鼻歌を歌いながら、とっておきの冷凍食品をレンジに入れる。在宅独身フリーランスのささやかな楽しみ、冷凍食品。今日は少しいいのを出そう。
レンジがチンチン唸り、オレは適当にそれらを皿に盛って、食卓に届ける。
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