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第07話『説明フェイズ前半(次で終わるから!)』

 魔凛(と呼ばれる今回の騒動に詳しい人)は、この雑居ビルの屋上にテントを設営し、そこで暮らしているみたいである。

 最近流行りのグランピングのような豪華なテントが張られていて、ちょっとオレはこの状況だというのにワクワクした。


「魔凛さーん」


 麻子の平和な声に、テントががさごそと動く。


「やぁ、麻子、こんな真夜中に何か用かい?」


「……ん?」


 なんだろう、その口調や喋り方に、オレは少しの既視感を覚える。


「なんだい、今の伏線っぽい『……ん?』という声は」


「いや、なんでもない」


「映画や漫画でそれを言って本当に何でもなかったことなんて、ほぼ無いんだけど……まあいっか」


 ふふふ、と怪しく笑って、魔凛と呼ばれた女の子はテントから出てくる。

 ツーサイドアップ……なんか声優アイドルがしてそうな黒髪ロングで、オレより少し小さいぐらいの、長身の女の子が魔凛だった。

 スタイルも良く、まるでウケの良い数値を入力して作ったゲームのキャラクターのようだ。

 ……いや、なんていうか……本当に『女の子』なのだろうか? なんだかオレは自分の感想に疑問を覚えてしまう。姿形は若々しいし、シワも無いけれど、身にまとう雰囲気が妙に老成しているというか。


「キミ、失礼な事を考えているね?」


「あ、すみません」


 明らかに年下な女の子に敬語で謝るオレ。この人……まるでオレの考えている事をエロゲのバックログみたいに読み取りやがった。


「あ、あのですね、魔凛さん……」


 へなへなと、しおれた声で魔凛に話しかける麻子。


「どうしたんだい、可愛い麻子」


「あ、あたし……全く無関係の人を、双極円卓大魔法陣に巻き込んだ可能性が……」


「ほほう? 記憶の操作の希望かな?」


「RPGの教会感覚で人の記憶を弄らないでくれる?」


「ああ、何から話していいか……ぬぬぬ……」


「落ち着いて可愛い麻子。不味かったらいい感じにこの人の記憶をいじいじすればいいんだから、全部話してしまえばいいんだよ」


「魔法ってすげーな」


「魔凛さん、こんな夜遅くにごめんなさい……あたしの口からは上手く説明できそうになくて……ししょーに、この人に双極円卓大魔法陣のお話、してもらってもいいですか?」


「勿論だよ、それがボクの役割だからね」


「なっ……ちょっと待ってくれ」


「どうしたんですか、ししょー」


「今……自分の事、ボクって……!!」


「そうだけど」


「ボ、ボクっ娘って事で……いいんでしょうか……?」


「………………中々、この人、トリッキーな人だね?」


「ししょー、話を始めていいですか?」


「ああ、すまない……」


 生のボクっ娘を見て、少し取り乱してしまった。誠にごめんなさい。


 チュートリアルガール、京楽魔凛きょうらくまりんは話し始める。

 まず大前提として、この世界には魔法使いがいる。この世界で普通に生活をする人々に対して魔法使いの存在は秘匿されている。

 もし無関係の人々に魔法使いの存在が気づかれそうになった場合、専門の組織により人々の記憶から魔法関連の記憶が操作され、削除される。

 つまり、世界に魔法使いという存在がいる事を知る人間は、ごくごく限られた少数の関係者だけ……という事だ。


「そうでもしないと、マイノリティである魔法使いは迫害されてしまうからねぇ」


 魔凛によると魔法使いの人口は、非魔法使いの人口に比べればすごく少ないらしい。

 大雑把に言うと、『魔法を使える部族』っていうのがこの世界に存在していて、世界各地で細々と暮らしているそうなのだ。


「科学に比べれば魔法使いの存在なんてちっぽけなものなんだけれど、魔法使いっていうのは、個人が持つ戦力がとても大きいの。だから科学サイドに取り込まれず、睨み合いの状態が続いているって言う事」


「個人の持つ戦力……?」


「例えばだけど、ボクの魔法を使えば……東京を一晩でゾンビ溢れる街にする事ができちゃうんだ。科学サイドが絶対に検知できない不思議な力で、一つの証拠だって残さずに、ね」


「……ほ、ほう」


 荒唐無稽だけれど、まぁこの世界は『そういう設定』なんだろうな。


「数は極端に少ないけれど、自分達とは全く違う法則で世界を滅ぼしてしまえるだけの魔法使い。科学サイドはその異端者を鬱陶しがっているけれど……お互い別に戦争がしたい訳じゃないから、ぬるい冷戦みたいな現状維持が延々と続いているんだ」


「魔法使いってすごいですー」


「そうだね」


 麻子ちゃんの平和な声にオレは癒される。


「ともかく、魔法使いは存在する。この世界は『魔法使い』っていうたった一人で世界を変えてしまえるような特異な存在と共存しているんだ、ここまでは大丈夫?」


「うん、続けて」


「話が早くて助かるよ……で、魔法使いって、大体は一人一人、研究テーマみたいなものがあって、それを成し遂げる為に生きているの」


「中々壮絶だな」


「魔法使いは自分の代でその研究テーマが完成しそうになかったら、次代に託したりして、ともかく探究に探求を重ねているの。特に理由とかは無いはずなんだけれど、魔法使いっていうのはそういうものなんだって理解して」


「研究熱心ですねぇ」


「ありがとう。んで、ここからがキミ達に関係する話なんだけれど……ボクの研究テーマって言うのが、『神への謁見』なんだよね」


「メチャ壮大じゃん」


「うん、ボクの家系は、神っていう上位存在にアクセスする事を目的としてるの。そして、その為に双極円卓大魔法陣……っていう儀式を繰り返しているんだ」


 魔凛は夜空を見上げ……存在するかどうかわからない神を見るように背伸びをした。


「分かりにくいかもだけど、なんていうかね……『めちゃくちゃ面白い演劇』を『途轍もないクオリティ』で仕上げて『神に捧げる』事が出来たとしたら、神様に会える……そう信じて、京楽家は魔法陣を作ってきたんだ」


「魔法陣とは?」


「あー、ちょっと分かりにくいかな? ほらよくソシャゲでガチャ召喚する時にナゾの五芒星が描かれる事あるじゃない? あれのこと」


「あー、うん……分かるような」


「ま、あんなに単純なものじゃないけれどね。ボクの言う魔法陣っていうのは、目的の為に作成するありとあらゆる術式の事なんだよ」


 ……ソースコードみたいなものかな、とオレはムリヤリ理解しておく。


「んで、凄く長い時間をかけて魔法陣を練り上げていたら……そこそこ神が降りてくれるようになってきたんだよね」


「そんな事ある?」


 そこそこってどういう。


「神と直接会話ができるようになったわけじゃないんだけれど、不思議な現象を起こせるようになったんだ」


「ふふふ、ししょー、聞いて驚くです。なんと、双極円卓大魔法陣を最後まで完成させると、何でも一つ願いが叶えられちゃうんです!」


「えええ……」


 どういう理屈なんだ。


「本来は神とただ話すだけで良かったんだけどさ、ま、研究の過程で色々副産物が生まれちゃったんだよね。会話はできないけど、神はボク達にご褒美だけは与えたもうたのよ」


「…………分かった、ま、そういう事もあるだろう」


 理屈は分らんが、魔凛がそういうのであればそうなのだろう。


「……キミ、凄い飲み込みが早いね?」


「そういう導入のゲームやったことあるし、まぁなんとか」


「オタクってすごいね」


 魔凛は苦笑し、話を続けてくれる。


「双極円卓大魔法陣はつまり、ボクが主催する、神に捧げる演劇って事。今回で神に謁見できるかどうかは知らないけれど……ま、オリンピックみたいに定期的にやってみよっかなって思って」


「軽いな……」


 いや別に、オリンピックは重いけれども。


「ボクは魔法使いの知り合いに『ボクが主催するゲームに参加して勝ち残ったら、何でも一つ願いを叶えたるで~』とオファーを出してみたの」


「ふむふむ」


 エセ関西弁なのはスルーしておく。


「あ、でもまぁ、麻子ちゃんとか他の一部の役者さんについては、魔法使いじゃない一般人から選んでみた枠もあるんだけどね」


「ええ……なんでまた」


「ほら、日本のアニメ監督って、なんでか知らないけど、素人を声優に選ぶことあるじゃん?あれの魔法使い版って言うか……」


「そんな事する必要ある?」


「要は演劇が面白くなるためのエッセンスって事。全員が魔法使いの状態で物語が始まったら、お客様がおいてけぼりのオナニー脚本になっちゃうでしょ?」


「……ま、一理はあるかな」


 確かに、全員が魔法使いで、したり顔で魔法をぶつけあっていたら、エンタメ感に欠ける面はあるのかもしれない。

 そこはまあ……バトルに巻き込まれた高校生とか、何も知らないけれど運命だけはたんまりと背負ってる主人公とかがいたほうが確かに面白そうだ。

 実際カミサマに会った事あるけど、あいつらマジでそんな感じだったしな。


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