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第06話『戦闘シーンは省略』

「ふえ?」


 女の子も何が起こったか分からないような表情を浮かべ、間の抜けた声を出す。


「は……はひぃん……♪ しゅご……こんなのひゃじめてぇ……」


「んほっ……とまらにゃいい……ふへぇっ……こんなの初めてぇ……ふにゅえ……♪」


 おぞましい声を出しながら、さっきまで格好つけていた大の大人はへなへなになっている。おそらく物凄く大事なものであろう必殺武器は、ちんちんを抑える為の両の手を空けるため、ポイ捨てされている。


「え、エクスカリバー!!」


 女の子はとてとてと走り、地面に落ちていた沼から出てきた本と土から生えてきた槍を両手剣でダッシュ切り(1F)。ノーガードのそれはあっさりとひび割れて、光となって消えた。


「はうう……負けちゃったよぉ……♪」


「あう……らめ……ちからはいんないぃ……♪」


「…………これ、勝ったってことでいいの?」


「は、はい。よく分らないですが、あたし達の勝ちです」


「そうですか」


 なんだか盛り上げるだけ盛り上げておいて、イベントCGが表示されずHシーンが三クリックで終わった感じである。つまりクソゲー。


「――オレの魔眼は、全てを屠る」


 とりあえず、何かすごくかっこいい事があった時の為に、予め考えておいた決め台詞を言っておく。

 激烈にむなしい。クソエロゲーの三番目ぐらいのサンプルボイスみたいでなんかやだ。しかも別に魔眼でもないし。

 ――が。


「す、すごいですーーーーーーー!!」


「え?」


 なんだか、冗談で言ったその台詞がそこにいた女の子に刺さっていた。


「すごいすごいすごいすごい!! ま、魔法ですか!? 魔法を使ったんですか!?」


 女の子は両手剣をがちゃがちゃしながら、オレに寄ってきた。


「近い近い。そして剣がその、ごつごつオレに当たってんのよ」


 当てるならおっぱいにしてくれ。


「あ、すみません」


 しゅらららん……とそれっぽい光エフェクトを発しながらエクスカリバーは光の粒子となって消えていく。わお、便利ね。


「え、円卓騎士を魔法で無力化するなんて!! しかも、魔法を発動する素振りさえなく!!」


「あ、うん、その……なんかごめんね、出番を奪っちゃって」


「あはは、大丈夫です、結果オーライです!」


 良かった、大らかそうな子で。これで『珍妙な妖術を使いおって……破廉恥な! 拙者が成敗してくれる!!』って感じの強火の女剣士だったらどうしようかと。


「そ、それで……ま、魔眼!? 魔眼があなたの円卓心機なのです!?」


「ん? あー……えっとね、その、実はマジで最近色々あり過ぎて、オレもよく分ってないんだよね」


「え、えっと……?」


 ん、なんだこの空気。


「……あの、貴方は……円卓騎士ではないのですか?」


「フリーのエンジニアです」


「さっきの魔法は、円卓心機を使ったのではなく?」


「……そもそも魔法とは?」


「…………ひょっとして、魔凛さんの事も知らないです……?」


「パチンコのキャラ?」


 先程からなんだか、物凄く情報量が多くなっている。

 アグラヴェイン卿、パーシヴァル卿、アーサー王、アーサー王伝説、円卓騎士、円卓心機、魔凛……


「ごめん、もうおっさんになってくるとさ、一度に出てくる固有名詞は三つぐらいにしてくれないとよくわかんないのよ……」


「な、なんかごめんなさい……ちなみにあたしの名前は麻子。麻子ブルストロードっていいます!!」


「これ以上情報を増やさないで!!」


 おっさんの悲しみのツッコミと共に、公園でのバトルは、とりあえず一段落となる。


 オレは混迷極まる状況から一息つく為に、斎藤さんのいるコンビニに寄って、アルコール九%のチューハイを購入する。


「あっ……」


 レジの斎藤さんはオレの姿を見て、かあっと頬を赤くする。その節は誠にごめんなさいでした。


「あ、あはは……チキンもください」


 オレはぎこちない笑みを浮かべてコンビニから出る。コンビニの外で、麻子ちゃんは待ってくれていた。

 麻子ちゃんは、今からオレを魔凛と呼ばれる、今回のバトルに関する一通りの説明をしてくれるチュートリアルお姉さんの所に案内してくれるようだった。

 正直たすかる。今の状況を飲み込むのに、相当な説明が必要そうだったから。


「さっ、いきましょ……えっと、なんとお呼びすればいいですか?」


「なんでもいいよ」


「じゃあ!! ししょーって呼んでいいですか?」


「え!? あ、まぁ、いいけれど……なんでまた」


「えへへ、あたしって、特に魔法使いの学校とか行ってなくてですね、ししょー的なポジションがいないのですよ」


「え? そもそもこの世界に魔法使いの学校とかってあるの?」


「あるみたいですよ? まぁその……ほら、なんかよく分らない九番線ぐらいから、魔法学校行の電車が出てるんですよ、きっと、多分……知らんけど」


「あるんだ……」


「多分、魔法機関みたいな組織があって、魔法がバレたら記憶とか消してるんじゃないでしょうか? 知らんけど」


「一つも確かなソースが無いふわっとした会話が繰り広げられている……」


「ともかく、ししょーって呼びますね! あんなに凄い魔法を使えるんですから……ししょーはきっとすごい魔法使いのはずです!」


「あはは……」


 オレはコンビニで買ってきた『ストレンジゼロ』という、やっすいお酒をカシュっと開け、とりあえず飲む。

 ごくごくごく……うん、アルコールがたくさんでおいしい。

 ちょっと気持ち良くなってきて、大らかになってきた。とにかくこの世界には魔法的なものが存在するのだ。そうなのだ。

 ああでも、よく考えたら……オレにチートが与えられた時の『カミサマ』が言う通り、この世界が誰かに作られた創作物であるのならば、荒唐無稽なものが存在する事に対して、いちいち突っ込むだけ無駄かもしれない。『そういう設定』と一言で片づけられてしまうのだから。

 この世界はカミサマの暇潰しで、オレ達は自動生成された『キャラクター』なのである。

 再度、オレはストゼロをゴクり、自分の中のツッコミ成分を殺していく。


「……ふぅ」


 オレは一息つく。


「あ、ごめん……ちょっと混乱してて。オレだけ飲み物を飲むとか」


「気にしないでください! 大丈夫です」


「…………チキン、食べる?」


 つまみ用に買っていたチキンだが、なんだか申し訳なくて、麻子ちゃんにあげてみる。


「食べます! ありがとうございます!」


 ぺかーっと子供っぽい笑顔を浮かべて、チキンを受け取ってくれる麻子ちゃん、ああ、いい子なんだな。

 駅前のビルの屋上に魔凛は住んでいるらしく、そこに向かって二人で歩く。徐々に周囲に人が増えてきている事に気付く。オレはよく見る日常の景色が戻ってきて、ホッとして胸をなでおろす。

 麻子ちゃんはにこにこしながら、雑居ビルのエレベータのボタンを押し、オレを屋上に導いていく。


「よし……どんな事があっても受け入れるぞ」


「ししょー……ファイトです!」


 屋上への扉が開かれる……いざ、説明フェイズである。


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