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第05話『急に始まる現代異能モノ』

 オレの家はギリギリ東京都に位置する一軒家。古ぼけた日本家屋。

 遠い親戚が所持する元旅館であり、管理ついでに格安でオレに貸してくれることになったのだ。

 オレ自身の仕事が場所を選ばない在宅でできる仕事なのもあり、オレはこの広い日本家屋を非常に気に入っている。東京へのアクセスの良さがそこまで重要ではないので、この家はオレにとっての楽園なのである。

 オレの職業はフリーランスエンジニア。詳細は省くが、色々な会社を渡り歩く……腕利きの傭兵のようなものだ。すみません、だいぶええように言いました。

 あんまり他人とのコミュニケーションが得意ではないので、長期間、同じ取引先と仕事を続けるのが苦手。なので、オレは自分自身を『金さえ払えば短期間でそこそこの結果を出してくれる、いつでも切っていい人材』としてプロデュースし、仕事が途切れない様にしていた。

 おかげで、安定しているとは言えないけれど、食っていくぶんには全く困らない生活を送れていた。

 次の取引先との仕事の開始にはまだ日数があり、オレはしばらく自由な時間を謳歌できそうである。


「……ま、やる事もないんだけど」


 わざとらしい独り言を言って、オレは畳の上に寝転んだ。ビバ、畳。


「………………」


 畳の目を数えてみる。


「………………」


 暇潰しに、ハエを絶頂させて墜落させる。

 はー、平和だな。


「………………あれ、オレ、異世界転生した方が良かった?」


 衝撃の事実。オレ、特に物語性が無い。

 いや、まぁ、独身の三〇歳に物語性を求められても困るんだけどさ。


「腹減ったな、買い物行くかぁ」


 時刻は午後一一時。フタサンマルマル。いつもの二四時間営業スーパーなら空いている。やぁね、一人暮らしだと時間と言う概念がどうでもよくなってしまうのよ。

 雑なサンダルを履き、スマホだけを持ってオレは家を出た。


 てくてくと歩いていると、少しの違和感を覚えた。夜遅い時間ではあるけど、妙に人が少ない……というか、いない。

 いつもこの時間だと、酔っ払ったおっさんとか、酔っ払ったヤンキーとか、酔っ払ったホームレスとかが騒いでいるものだけれど(治安よ)

 それが、ゼロなのである。そう、ゼロ。人っ子一人いない状態。少ないとかならまだ分かるけれども、全く人影が無いというのは、かなり珍しい。

 ……ま、かなり珍しいというのは頻度の問題だ。そういう日もあるんだろう。

 オレは夜の公園を横断して、目的のスーパーに向かって歩く。


「メシ、何にしようかな」


 いつものもやしと豚バラを炒めたやつにしようかな。キャベツも入れようかな。ああ、ビールはあっただろうか? ま、念のために買って帰ろう。

 そんな、なんでもない事を考えていると……


 刹那、上空から人間が目の前の地面に着弾した。


 着弾、という表現が本当に正しいのかは定かではない。けれど、それぐらいの衝撃で人間がひび割れた地面の上にうずくまっていた。正直、鳴り響いた轟音からすると、ミンチになっていそうなものだったけれど……


「あいたたた……」


「え、大丈夫っ!?」


 なんとも間の抜けた、可愛らしい女の子の声が聞こえた。


「はう……ひどいです、いきなり襲い掛かってくるなんて……」


 若々しい、十代ぐらいだろうか? 学生服を着たその子は、お尻を抑えながら立ち上がる。


「……地面、ひび割れてるけれど、平気そう?」


「は、はい……あぁ、ごめんなさい、巻き込んでしまったみたいですね」


「巻き込んでしまった?」


 オレが事態を把握できずに、情けない声を出していると――


「いつまで逃げ回るつもりかね、アーサー王。それが王たる者の振る舞いか?」


「……女の子を大の大人二人で追いかけまわすのもどうかと思うけどよ。ま、こっちも遊びじゃないんでね」


 音も無く、またよく分らん新キャラが現れる。一度に二人も。


「だ……誰だ!」


 怪しさ爆発のこの状況で、オレはとりあえず現れた男二人に問いかけた。


「貴様に名乗る名前などない、即刻ここを去れ」


 ぎょろっとした目をぱちぱちと瞬きさせ、中年男性はオレにそう乱雑に声をかけた。中年男性はまるで魔法使いのようなローブを着ていて、かなり不気味である。


「でも、アグラヴェインの旦那、いいんですかい? マッポが出てきたら面倒ですぜ」


「名前を呼ぶな、全く……まぁ、この戦いの雑事に関しては全て魔凛がどうとでもするだろう。それが彼女の役割なのだからな」


「それもそうか。じゃ、兄ちゃん。このまま回れ右をして家に帰るんだな」


「アグラヴェイン……?」


「お、兄ちゃん、旦那の事知ってるのか? アーサー王伝説の中でも旦那はマイナー円卓騎士だってのに」


「パーシヴァル卿、黙れ」


 パーシヴァル卿、そうやり返すように呼ばれた青年はローブの中年男性とは対照的に、動きやすそうな洋服を着ている。服の上からでも分かる鍛え上げられた肉体に、オレはちょっと怯んだ。


「旦那だって名前呼んでるじゃねぇか! かかっ」


 アグラヴェイン卿、パーシヴァル卿。

 ひょっとして、アーサー王伝説……? 原典は読んだことは無いが、なんていうか、ソシャゲとかで聞いたことのある名前だった。

 えっと、この人達……コスプレ撮影中の団体さん?


「ともかく、貴様に用は無い。我をあまり煩わせるな、実力行使に出る前に今すぐそこを退け」


「……いや、ダメでしょ。オレがいなくなったら、この子に何をするつもりなんだ?」


「兄ちゃん、別にその……乱暴するってわけじゃねぇのよ。ただ単に、俺達はその子の事を無力化する必要があるんだ」


「ちゃんと一から説明してくれ」


 どう考えても怪しい二人の男に対して、オレは真正面から立ち向かう。勿論、いざとなった時の最強の手札があるから、これだけ強気に出られるのだが。

 流石に今の状況で『はいそうですか』なんて言って若い女の子を見捨てる事なんて、できそうにない。


「あ、の……あたしは大丈夫ですから、逃げてください」


 女の子はひび割れた地面から、ゆっくりと立ち上がる。ぽうっと暖かな光が彼女を包み、彼女の身体を照らす。


「この人達を、あたしはちゃんと倒さなきゃいけないんです」


 立ち上がり、女の子は深呼吸。

 次の瞬間、両手を前に出し、構え、咆哮する。


「――創成!!」


 優しき光が夜に咲き、彼女の手から棒状の白き炎が噴出する。

 白き炎は猛り狂うように周囲の空間に光を放つ。そして瞬きのうちに両手剣の形状に光が集積し……特大の両手剣が、女の子の手に握られていた。


「正義焼尽、エクスカリバー!!」


 その名を叫んだ瞬間、目に見えない……圧倒的な覇気が彼女から発せられる。両手剣が現れた瞬間、一気に彼女の存在感が膨れ上がる。存在の強度が、例えようの無い絶対的な圧力が、その場にいた大の男三人を圧倒した。


「ちっ、いきなりここで始めるかーー創成!!」


 それに対応して、男二人も口々に謎の単語を放ち、それぞれの武装を召喚する。アグラヴェイン卿の周囲の地面は何故か黒き沼へと変貌し、それから発せられた沼は、泡立ちながらアグラヴェイン卿の手に纏わりつく。


「ここで消えてもらう。卑怯とは言うまいな? 円卓最強の騎士王、アーサー王よ」


 その泥から、悲鳴のような高い音が鳴ったかと思うと、泥が落ち、禍々しい装飾がされた古めかしい本が現れた。


「引き金引いちまったなぁ!! ――創成!!」


 その横で、パーシヴァル卿は両手の指を影絵を創るかのように高速で交差させた後、地面に思い切り片手を叩きつける。


「さァ、戦争を始めようか」


 轟音と共に地面が抉れ、槍が土塊の中から現れると、パーシヴァル卿はそれを握る。軽々とそれを振り回した後、腰を落とし、槍の先端を女の子に向けた。


「(なにそれーーーーーーーーーーーーーー!!)」


 心の中で絶叫するオレ。なんかよくみる感じで!! なんかよくある感じで!! それぞれがそれぞれの必殺武器を!! バンク的な演出で出した!!


「すぐに終わらせてやろうーー魔窟錬成……グラズノアイジン!!」


「瞬きすんじゃねーぞ、あっという間に終わるからよ……音速神輝!! ロンドミニアド!」


 周囲の空気が軋むような、圧倒的な『何か』が集積する。ぎしぎしと光が歪み、ひび割れ、数多の存在が明滅し……絶大な力が顕現……しそう!!


「あ、ちょっと待って! まだ心の準備が」


「いきますです!!」


「ちょっと待……待って、待ってってば!! 待たんかい!!」


 何やら、物騒で危ない事になりそうなのは確定……という事で。


「い、イケーっ」


 オレは何やら危ない光を放つおじさんとお兄さんに絶頂を念じた。


「んほぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」


「新感覚ぅううううううううううううううううううううううううううううううううううう!?」


 ぱきーん、とその場の緊張感とかよく分らない歪な気配が全て消えた。


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