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第04話『こんなチートがあってもなぁ』

「おじいさん、今日はいい天気ですねぇ」


「そうだなぁ、散歩日和だなぁ……」


「早起きした甲斐がありましたねぇ」


「そうだなぁ、三時に起きた甲斐があったなぁ……」


 仲睦まじい老夫婦が、散歩だろうか、展望台にやってきたのである。

 ……そういえば、効果対象に性別はあるのだろうか? 今までイカせた対象は、全て雌だった可能性はある。遠くのキャッチと蝶の性別なぞ、オレは分からないし。


「お腹が減りましたねぇ」


「昼は蕎麦がいいなぁ」


「……おじいさん、ごめん! 好奇心に勝てない!! イけ!!」


 オレは二ミリぐらい悩んで、おじいさんにチートを使う。


「春ぅううううううううううううううううううううううううううううううううううううう!!」


「おじいさん!」


 おじいさん、激イキ。その場でへたりこみ、股間をもじもじさせる。


「ほ、ほぁああ……ひさしい……ひさしい……!!」


「お、おじいさん!? ひさしい……!?」


「みさこ……みさこぉ……♪」


「ど、どうしたんですか……おじいさん……」


 ちょっとだけ罪悪感を覚えながらも、オレは実験データを得る事が出来た。多分、この能力は性別を問わないみたいである。

 他にも、気になった事は何でも試してみた。

 展望台に設置してある望遠鏡で遠方を見て、コンビニの前でタバコを吸っていたヤンキーに対してもチートを発動してみる。


「ヤンヤァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!」


 発動確認。ヤンキーは激イキした(声はオレの妄想です)。視界を望遠鏡で拡張しても発動可能のようだ。

ついでに、駅前で風船を配っていた着ぐるみのマスコットに向け、試しにチートを発動。


「うっしぃいいいいい!! ぶしゃああああああああああああああああああああああああ!!」


 ……ごめんなさい。流石に発動するとは思ってなかった。生物と認識できるのであれば、着ぐるみも貫通するようだ。

 ポイントとしては、『オレが認識、および視認しているかどうか』というのが発動条件に関わってくるのだろう。

 おそらくたくさんの人が中にいるであろう『駅前のビル』を見たところで、どうやって発動していいか分からない。つまり、影も形も見えない場合は射程外という事……か。

 カミサマがいないので答え合わせはできないが、大体分かってきた。

 後は気になっていた事を確認していく。

 スマホを起動し、ライブ配信をしている人の顔を見ながら念じてみたが、特に絶頂はしなかった。流石に画面越しは射程外。望遠鏡は問題無いが、画面越しは無理……と。

 あと、足元にアリの行列があったので、一度に発動できる効果範囲を検証してみる。

 ……ただ、なんというか、感覚なので説明はしにくいが……範囲指定はできないっぽい。あくまで一度に絶頂出来るのは一匹。ただ、チート発動からのクールタイム(次の発動までの時間)は無さそうだ。

 とりあえずどれぐらいの連射性能なのか、実験開始。


「アントォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ♪」


「ありぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい♪」


「むしぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい♪」


 三匹の蟻がひっくり返って痙攣する(実際は無音)。それぞれの絶頂感覚は一~二秒であり、同時とはいかないが、一息で絶頂は出来そうな感じがした。

 こいつ絶頂、こいつ絶頂、こいつ絶頂……と、念じれば発動。うーん、もし大軍で攻められたら、ちと厳しいかもしれない。大軍には注意しよう(?)

 ……さて、こんなものかな。今後も思いついたタイミングで実験していこう。

 ……さて。

 ……さて、と言われましても。この後どうすればいいだろう。目的は何なんだろう。異世界転生モノだと、『まずは人間に戻る』とか『生活を安定させる』とか『冒険者ギルドに登録する』とか『奴隷を買う』とか、色々クエストがあるものだけれど……特に無い。

 この能力を使えば、オレの人生は果たして楽しくなるのだろうか、考えてみよう。

 まずは、お金稼ぎ。

 競馬は多分、チートを使えばレース結果を自由に操る事ができるだろう……けれど、騎手や馬の安全面を考えると嫌な感じがするし、、明らかに異常なタイミングでの絶頂が発生してしまうと、レースそのものが無くなるような気がした。

 やりようはいくらでもあるような気がしたけれど、真剣に練習して毎日を過ごす騎手や競走馬の事を考えると、なんだか気が進まない。

 ボクシングの大会に出るのはどうだろうか? ゴングの瞬間に発動すれば、相手が誰であろうと試合に勝つことができるだろう。

 ……ただ、間違いなく相手選手から何かしらの疑惑を持たれるだろうし、試合内容が杜撰過ぎて、いずれ必ず綻びが出そうだった。

 リスクが大きすぎるし、このチートのステルス性が活かされない。あまり良い手ではないだろうな。

 それじゃ、AV男優はどうだろうか?

 男女問わず、生命体であれば全て絶頂を叩き込める。それを活かして、最強のAV男優になる事はできそうだ。

 ……だが『そんなAV見たいか?』と言われればNOだ。あらゆる過程をすっ飛ばして、ただただ絶頂だけを与えるこのチートがもたらすエロなんて……相当の特殊性癖エロと言っていいだろう。

 どうせ異常現象をAV女優の皆様に共有され『あいつ、気持ちいいけどなんかヤバい』と言われるオチが見える。

 ともかく、AV男優だろうが、ボクサーだろうが、オレ自身の露出が増えるのはまずい。このチートの最大のメリットは発動に関連する秘匿性の高さなのだから。

 もし『名前を書くだけで人を殺すことが出来るノート』があったとしたら……それを最大限運用する為に一番必要なのは、それを悟らせない事だ。ノートの持ち主はその事に心血を注ぐべきだったのだ。

 さて、色々考えてはみたものの。このチートを利用してお金稼ぎをするのはかなり難しそうだ。勿論、モラルを無視したり、人の迷惑を考えなければ、何かしらの利用はできそうではあるが……

 競馬に真剣に取り組む騎手、ボクシングに真剣に取り組むボクサー、作品を創ろうとするAV男優、それらの人々を嘲笑うようなことはしたくない。

 そう考えると、このチートがあった所で、オレは何か得になるような事は無さそうだ。まぁ、野良犬とかチンピラとか、クマとかに襲われた時には便利かもしれないけれど。

 ……視界内にいる生命を自由に激イキさせられたところで、オレの人生に特に影響は無さそうだな、という事に気付いてしまった。


「みさこ……みさこぉ……♪」


「お、おじいさん……」


「ちょう……ちょう……♪」


「ありぃ……ありぃ……♪」


「…………帰ろうか」


 激イキしたおじいさんに関しては本当に申し訳ないと思っている。ただオレにはどうする事もできないので、オレはおうちに帰る事にするのであった。


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