第32話『快楽の海に沈め』
「んっ……♪ なっ……こんにゃああっ……!」
「くっ……やはり創造主……甘イキで限界かよ……!」
まさかオレも効くとは思ってなかった、いけた。やってみるもんだな。
「はぁああんっ……♪ リセット……リセットなのぉ……♪ ボク、リセットするのぉ……」
ボクっ娘が甘い声を出しながら悶えている。いいシチュである。
「はううううんっ……♪ ちょ、ちょっとまってぇ……♪ 今はちょっとぉ……♪」
「し、ししょー! なんかちょっとマリンさんお腹痛そうにしてるみたいな!」
「続けるんだ麻子ちゃん! 麻子ちゃんがそうしてると、気が散るみたいだから!」
「わかりました! やーーーーーーーーーっ!!」
がきがきがきがきぃいいん!! とエクスカリバーが乱打される。魔眼の力に対抗している時にそんな事をされて、マリンは大変そうにしている。
「いひっ♪ んぉっ♪ はぁああんっ♪」
エクスカリバーの一撃ごとに気が散って、魔眼の力が浸透し、マリンは快楽の声を漏らす。
「うわーーーー!! ししょーーーー!! なんかいけない事してるみたいですーー!!」
「構うなーーーー!! いけーーーー!! やったれーーー!!」
オレも全力全開、ただひたすらイけ! イけ! とマリンに念じ続ける。
イってしまえ! このままイってしまうのだ!!
「どうしてぇ……♪ あひっ♪ キミたちはただの……ゲームのキャラのはずなのにぃ……♪」
「あんまりオタクを舐めてんじゃねーぞ!! 例えばだけどな!! オレは自分自身の卒業式とか、友達いなかったから全く泣かなかったけど……!」
「そのはなしぃ♪ あひっ、ひやぁああああんっ! い、いまするぅ!? ふにゃあ!!」
オレと麻子ちゃんは、とにかく必死にマリンにありったけの力を込めて喰らいつく。
「アニメの推しキャラの卒業式回だったらなぁ……! 鼻水垂らして泣きまくったんだよ!」
魔眼が限界を超えたのか、オレの目から血が流れ始める。頭も痛くなってくる。
けど、ここで負けるわけにはいかない。
「――つまり、仮想は現実を超えるんだ!! だから……画面の中だって、創造物だって……現実に干渉する事は……多分できるはずだ!!」
「そんなことあるかぁああああああああああああああ!! あひいいいいいいいいいいいっ!!」
「てやーーーーーーーーーーーー!! エクスカリバーダッシュ切りーーーーーーーーーー!!」
「どひーーーーーーーーーーーーっ♪ 今はやめてぇえええええええ!!」
麻子ちゃんのナイスアシストで、マリンは思わず股間を抑える。
「この世界に精一杯生きた円卓騎士達の想いとか!! あれやらこれやら!! とにかく色々ぶち込んでやる!!」
「エクスカリバー……しゃがみ切りぃいいいいいい!!!」
「いやぁああああ!! 下段判定ぃいいいい!!」
新技も飛び出して、マリンの精神は明らかに疲弊して削れていく。
まだまだ、手を緩めないぞ……!
「今ここにある想いは、フィクションから生まれた……本物の想いだぁあああああ!!」
裂帛の気合を込めて、オレは限界を超えた魔眼の力を振り絞る。
――けれど。
「んぎ、んんんん……♪ 小癪な……♪ で、でも……これならぁ……♪」
がくん、と空間が揺れて、巨大な質量を持った大きな岩が自然落下しはじめる。
世界の終わりが、始まっていく。
「はぁ、はひぃいいんっ……♪ なんかぁ、リセット、とめられひゃってるけどぉ……♪ きょ、きょれならぁ、ぶつりてぃに、キミ達の事……おほぉおおおおおっ……♪」
「くっ……隕石も激イキさせられればいいのに……!!」
流石に石ころは絶頂させられない……!!
「んんっ……♪ リセット……♪ リセットするのぉ……♪」
このままでは、隕石に押しつぶされ、激イキ魔眼どころではない。ゆっくりと、轟音をあげながら、避けられない絶対の破壊が近づいてくる。
「ししょー……! 隕石は私が!」
「流石に無理じゃないかなぁ!?」
麻子ちゃんはマリンから少しだけ離れ、エクスカリバーに白き炎を纏わせる。
「円卓心機には、特定状況下に置いて性能が変化する場合がある……ケイちゃんがそう言ってました!」
「そ、そうか……!」
『精霊加護クラレント』は『不義敗刃クラレント』という円卓心機となる事もできる。いつかケイちゃんがそう言っていたな……!
「じゃあ、エクスカリバーも……!?」
やべぇ! ここにきて伏線回収じゃん!
「ふほぉおおおっ……♪ ばぁか♪ ばぁか♪ エクスカリバーにそんな設定無いいぃ……!」
「無いのかよ!!」
作者に言われちゃったら、そりゃ無いよ!! 終わりだよ!!
「あります!! あたしがあるって言ったら、あるんです!!」
エクスカリバーに纏っていた白き炎が……麻子ちゃんの瞳の色と同じ蒼いものに変わっていく。
「いっつもいっつも、魔凛さんったら後出しの新ルールばっかり……! 紋章の事だって、クラレントの事だって、ガラディーンの事、モードレッドさんの事だって……! そんなの全部知らないもん!! いっつもいっつも理不尽なんです!!」
極大の剣気により麻子ちゃんの足から放射状に亀裂が入り、蒼き炎によって昼間のように周囲が照らされていく。
「そういう不幸なご都合主義があるのなら!! 不幸な理不尽があるのなら! 幸せなご都合主義だってあるはずだもん!! リアリティなんて……知らんがな!!」
麻子ちゃんの叫びが蒼き炎となり創造主を追い詰めていく。
条理を情理で上書きし、 無理を貫き道理を叩き潰す。
「それに……双極円卓大魔法陣で勝ったら……何でも願いは叶えてくれるんですよね!?」
「はひぃ!? しょ しょんな! いましゃらそんなことどうでもよくない!?」
剣閃は加速し、エクスカリバーは何度も何度もマリンを切り潰す。
「うるさいです! 叶えてくれるんですよね!? そう聞きました! そう信じて今までやってきました! 叶えてくれるんですよね!?」
「うっ……ひぃいいいいんっ!? やめっ ひぎっ! やめてやめて乱打しないで! んひぃいいっ!」
嘆き、叫び、抗う。
演じるだけの役者でいたくないと、創造主に歯向かうのだ。
「……叶うはずです! 嘘じゃないもん! みんなで戦ったもん! 理不尽なルール変更ばっかりで 嫌な事ばっかりだったけど! でも! 双極円卓大魔法陣は……あたしの願いを叶えるお話は 嘘じゃないもん!」
「麻子ちゃん……!」
ちゃぶ台返しも程々にしろ。願いを叶える龍玉を懐に隠して……勝手に台無しにするんじゃない。
「双極円卓大魔法陣は――あたしが完成させます!」
オレの愛弟子は、気高く叫ぶ。
「そうか……例え脚本家が逃げたとしても……この戦いが神様に捧げる悲劇として ずっとやってこれたって事は……!
世界中の魔法使いが 今日までずっと戦って来たって事は――!
「願いの恩恵は――嘘じゃない!」
もし脚本家がいなくても最後の最後まで……演者が舞台の上に立っていられるのなら、願いは叶う。
散っていった円卓騎士の意志と――
最後まで足掻こうとするアーサー王の意地が――
――双極円卓大魔法陣勝利者への、願いを叶える恩恵を引きずり出す!
「あたしの――あたしの願いは――!」
エクスカリバーにヒビがはいり、麻子ちゃんの極大の想いにより、刀身が砕かれ、真の姿が顕現する。
「ひぃいいいいいい! ボクそんなの、知らにゃいい♪ ひぎぃいいいいいいんんっ!!」
限界を超え、オレは血の涙を流しながら、マリンを抑え込む。
決して、オレの弟子の晴れ舞台を邪魔なんてさせてやらない。
――そうだな。オレ達は最後の最後まで振り回されてきたんだ、なら、今度は作者を振り回したっていいはずだ。
「愛した人に、信頼する友達に……裏切られ続けたアーサー王伝説なんかじゃなくて……」
蒼く美しい刀身が、力強く顕現する。
「最後の最後、黒幕をアーサー王がぶちのめす! あたしはそんな物語の主人公になりたい!」
世界を終わらせる隕石に、麻子ちゃんは新生したエクスカリバーを……予告ホームランの如く、ぐっと構えた。
「創成――運命切断エクスカリバー!! 理不尽を切り崩す、あたしの聖剣!」
意志の力だけで、理不尽に対して理不尽でカウンターする、麻子・ブルストロード。
でも、物語の主人公に求められるのはそういう希望であるべきだ。
「……かましたれ……! 弟子よ……!」
ギリギリと、頭の中を針で引っ掻き回すような頭痛に耐えながら、オレはニヒルに笑う。
「しゃ、しゃせにゃいいいいいっ……!! はふぅうううんっ♪」
マリンは絶頂に耐えながらも、限界を超え、隕石と麻子ちゃんの間の中空に移動。
「こ、の、野郎……動いてんじゃねぇ……!!」
「ひっ、ひっ、ひぃいいんっ……♪ ちょ、ちょっとずつぅ……にゃれてきたぁ……♪ きひひひひっ……♪」
「くっ……! 女の子には賢者タイムが無いというが……! なるほどな……!!」
自分でも何を言っているのか分からないが、とにかくマリンは戦闘不能にならず、まだ行動できるようだ。
くっ……このままでは!
「麻子ちゃん!! 頼む!!」
後は……元、トリスタン卿として、オレは麻子ちゃんに叫ぶ。
最後に決めるのは……アーサー王じゃないとな。
麻子ちゃんは闇夜に咆哮し、空間を軋ませ、ありったけの力を運命切断エクスカリバーに込める。
最終局面。こんなバカげた話じゃ、伝説になんかなりゃしない……でも。
「麻子ちゃん……!!」
「今度のアーサー王……麻子は……!!」
身内でディスりあって内戦ばっかのアーサー王伝説よりも、オレはこういうバカな伝説のほうが好きなんだ、心からそう思う。
「麻子は……!! ひとりぼっちのアヴァロンなんかに行きません!!」
「弟子よ……かませぇええええええええええええええええええええええええええええええ!!」
万感の想いを込め、優しい女の子は、自分の物語を振り抜く。
「前を向いて、ハッピーエンドに雪崩れ込むんです! 運命切断カリバーン……ぬぅおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
獣じみた咆哮と共に、蒼き閃光が全てを塗り潰す。
放たれた剣閃に対し、マリンは盾のような見えない壁を形成したが――
「んほぉおおおおおおおおおおお!! ほにぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」
ばきいいいいいいいいんっ!! と、麻子ちゃんの理不尽な一撃によって砕かれた。
マリンを貫通した蒼き閃光は隕石に着弾し、跡形も残さず、隕石を蒼き炎に強制的に変換した。まさに物語を終わらせる為の理不尽な力が……何もかもを丸ごとハッピーエンドに叩き込む。
「ひぃ、ひぃっ……♪ もう、もうっ……もう、らめっ……はひぃいっ……♪」
世界は蒼き炎によって、キラキラと光り続ける。欠片も破片も全て蒼炎に燃やし尽くし、世界に向けられた全ての被害を防いでいた。
ただ、その理不尽な一撃にも、マリンという存在はまだ生き残っている。
「……はぁ、はぁ……ししょー! 頼みます!」
麻子ちゃんは燃え尽きて、膝から崩れ落ちる。
「……ああ!」
それなら、オレもありったけだ。
麻子ちゃんができるのなら、オレにだってできるはずだ。
「視界内の対象を時間停止貫通かつ能力無効化貫通で激イキさせる能力なんて貰っても困る……そう、思ってた!!」
「な、何の話よ……!! ひぃ、ひぃいんっ! はひぃいいっ!」
眼が燃えて、頭は今すぐ切り捨てたいぐらいに痛い。
「けれど、今なら……この魔眼に、全てを託せる……!! どんなふざけた力でも、それはたった一つの、オレの武器だ……!!」
これまでの全てを思い返し、オレは麻子ちゃんに続く。
ありとあらゆる理不尽を、オレはこの魔眼で覆していくんだ。
「これが全ての……ありったけだ……激……イけぇええええええええええええええ!!!!!!」
魔眼の能力が暴走する。
視界内の射程が無限に拡散し、世界に拡がっていく。
絶頂と共に快楽を与えられた全ての存在は、新たな意味を持ち――世界が創造されていく。
「はぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「にゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
「んきゅうううううううううううううううううううううううううううううううううううん!?」
「んほぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
「ほぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?」
「ひゃううううううううううううううううううううううううううううううううううううう!?」
全 世 界 同 時 絶 頂 。
無料対数にも匹敵する感情の情報負荷が世界にかかった。
世界が処理落ちし、マリンの存在が薄くなり、明滅し……消えていく。
「……あひっ……♪ んほぉっ……♪ 快楽の海に……みんな、沈んだか……♪」
オレ自身も絶頂してしまい、あまりの疲労と頭痛と快楽に、強制的に意識がシャットダウンするのであった。
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