第25話『家出少女をダメ社会人が保護してメシを食わせる系(ハーレム編)』
色々、子供には事情があるんだ。家出中って事は、そこまで円満な家庭ではないのかもしれない……オレ、地雷を踏んだかな。
ここでオレがやるべきなのは『んまーっ! 最近の子ってご飯の炊き方も知らないの!? SNSで呟いてバズっちゃおうかしら!』とマウントをとることじゃない。
努めて普通に。相手の目線に立ってフラットに接するんだ。
「じゃあ、教えるよ。このカップで計って、この窯に入れてほしい。多いかもしれないけど食べ盛りだから一人一合だとして、そうだな、三杯すくってくれる?」
「わかった」
オレの一言にケイちゃんは素直に従う。この場で何もしない方が居心地が悪いのもあるのだろうな。
「んで、洗うんだ」
ん、とケイちゃんは窯を持ち、おもむろに食器用洗剤に手を伸ばす。
「…………っ! あ、えーっと、最近のお米は最初から綺麗だから、ちゃちゃっと水ですすぐだけでいい」
目ん玉が飛び出そうになったけれど、オレはそれを抑えてきちんと指示を出す。知らない事は恥ずかしい事じゃない。やった事も無い事は、知らなくて当然なんだ。
だばしゃあああああ!!! とえげつない勢いで窯に水を入れるケイちゃん。米粒が飛び散るが、微々たるものだ。オレは何も言わず見守る。
「手で適当にくしゅくしゅすればいいよ。別に米を磨くように……とかオレもやった事ないから」
「ん……こう?」
くしゅくしゅくしゅ……とおっかなびっくりといった調子で米が洗われていく。うん、今はそれで充分かな。
「んで、手でガードしながら水を交換して……」
真剣な様子で、ケイちゃんは米に向かい合う。
「そうそう、米粒を零さないようにして……」
何も言わず、真剣に手を動かしていた。
「水の量を調節して……炊飯器に入れて、早炊きスイッチオン」
オレはあえて何も手を出さず、言葉だけで指示。作業は全てケイちゃんがやってくれた。
「……楽勝じゃない!」
決して楽勝では無かったように思うけれど、ケイちゃんはそう言う。
「助かったよ、ありがとう」
シンプルにそう言うと、ケイちゃんははにかみ、上機嫌そうにドヤ顔を浮かべる。
どこにでもいる普通の女の子だなぁ、とオレは思った。初めてお米を炊いて、それを褒められて喜んで……十四歳だもんな。
きっとこの子は何もかも知らないだけで……家族の事も、きちんと話し合えば何とかなるんじゃないかと勝手に思う。どうしようもなく捻くれて、相手からの言葉を全てネガティブにとらえるような奴だっているけれど。
ケイちゃんに関しては、根元の所が良い子っぽい。愛されて育ったんだろうな、とオレはぼんやりとそう思っていた。
「ししょー、おみそ汁の具は大根でいいですか?」
「うん、いいよ……っていうか麻子ちゃんってアメリカンみ全然無いね?」
「生まれた国がそうなだけです! 和食も洋食も全部美味しくいただきますです!」
「へえ、納豆も食べれるんだ?」
「ししょー、あれは食べ物じゃないですから、あはは」
「えっ」
急に向けられた純真無垢な敵意に、オレの鼓動が早くなる。びっくりした、超こええ。
とんとんとん……と包丁を操り、麻子ちゃんは料理を進めていく。その麻子ちゃんの様子を、ケイちゃんはじっと見つめていた。
「……すごい」
「ああ、すごいね。麻子ちゃんは上手だ」
「ああいうの、苦手」
ケイちゃんは皮肉っぽく言う訳ではなく、麻子ちゃんに対して羨ましそうにそう言う。
「そう身構える必要なんてないよ、オレだって、生姜焼きとか偉そうに言っておいて、生姜焼きの元をお肉と一緒に焼くだけだし」
「あ、そういうのがあるんだ。オオサジコサジとか、色々あるのかなって……」
「そういうのはめんどいからやんないよ。オレのおかんだって中華の元で済ませてた。おふくろの味って、その正体は大企業の大量生産品の味なのだよ」
ただ、野菜を切って、肉を切って、味付けをして……きれいに洗った食器に盛り付ける。そんな一連の事がおふくろの味なのだと、今は思う。こんなにめんどくさい事をおかんはよくやってくれたものだ。
「……なんか、私、料理ってすごい大変なものだと……」
「簡単だよ。でも毎日だ」
「めんどくさ」
「めんどくさいよね」
そうオウム返しをして、二人で笑い合うのであった。
そんなこんなで料理が出来上がる。オレが適当に焼いた豚肉の生姜焼き。ケイちゃんが炊いたご飯。麻子ちゃんが作った大根のみそ汁。ケイちゃんががしがしとスライサーで頑張ったキャベツの千切り。
ちゃぶ台に丁寧に並べ、円卓騎士三名が食卓を囲む。
「はーらへったぁ……いただきます」
「いただきますー!」
オレと麻子ちゃんがそう言って手を合わせるのを見た後に……
「……いただきます」
それを見て、ケイちゃんはおずおずとそう言った。
「まよまよ……」
「し、ししょー……マヨが多くないですか……?」
「マヨがメインで、生姜焼きがサブだ」
「ししょー! 終活習慣病になります! 流石に!」
「言い間違いのようでいて適切な表現だな! だ、大丈夫だよ! 騙されてみなって、マヨかけてみなって」
「ししょーがそういうなら……」
ぶちゅぶちゅ、と麻子ちゃんはお皿にマヨを投入する。たっぷりとアツアツの生姜焼きに絡ませて、ご飯にワンバウンド、そしてかわいらしいお口へ。
「うめーですー!!」
「がははは!」
「……あの……」
「ん? どした?」
「…………わ、私にも、マヨ……」
「マヨはいりまーす!」
「う、うるさいわねっ!」
オレと麻子ちゃんは目と目を合わせ、微笑むのであった。
三合炊いたご飯は無くなっていた。女の子って意外と食うのね。良い事だ。オレも釣られていっぱい食べてしまった。
「くっ……太る……白いご飯美味し過ぎ……」
「コメはいいですねぇ……」
「うーん何か、甘いものでも食べる?」
たべるー! と若い子二人はそう言ってくれる。うれしい。オレは冷凍庫に向かうが……
「……すまん、一つしかない。コンビニ行って買ってきてくれ」
オレは財布から千円札を取り出し、一枚ずつ渡す。
「何か必要なものがあったら好きに買ってくれていいから、あ、もっといる?」
「わーい! ありがとうございます! 大丈夫です!」
麻子ちゃんはこういう時に一切の遠慮をしない。生粋の日本人であるオレはそれをとても羨ましく思うのだ。
ケイちゃんは千円札を見つめ、不思議そうにした。
「……あんた、ついさっきまで敵だった奴に、よく現金を渡せるわね……」
「仮にこれを持ち逃げされても、どうってことないよ」
社会人の千円札は、小中学生にとっての百円に相当する……大げさだけど、オレは大体合ってるとは思う。
「……ありがと」
「素直だ」
「現金を渡されて礼を言わないのは、流石にクズすぎでしょ」
「それはそうか、ま、気にしないで」
そういうオレに、ケイちゃんは何も言わず頭を下げるのであった。
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