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第24話『生姜焼きを作ろう!』

「あれ?」


「どうかした、麻子ちゃん」


 キッチンで麻子ちゃんは皿洗いをしてくれている。ええ子や。


「ごめんなさいししょー、この食器なんですけど、ヒビが……どこかにぶつけちゃったかもしれません」


「ああ、それ百均の奴だから。自然に壊れる事もあるだろうさ、気にしないで」


 何やら少し不吉……ま、多分気のせいだろ。

 三人で頑張っていく事に決めたオレ達は、お茶でも飲みながら今後の事を話そうとしていたのだ。


「ケイちゃん、何かアレルギーとかありますか? お菓子タイムです!!」


「……無い。何でもいい」


「そうですか、それはよかった」


 麻子ちゃんはケイちゃんに対して妹の様に接していた。距離感の詰め方が凄く早いというか。


「お茶菓子って言っても……ポテチはあるんだけど、甘いものは無いな、ごめんね」


 一人暮らしの独身男性の家に、チョコレートの類はほとんど無いと言っていいだろう。


「いえ! スナック大好きですー」


「何をほのぼのしてるのよ、アンタ達」


 ツンケンしてるケイちゃんの元に、お茶とお茶菓子が届けられる。


「……あ、そうだ。ケイちゃん。ご両親には連絡した?」


「……してない。別に、もうずっと連絡してないから」


「え」


「むむむ」


 麻子ちゃんは聞き捨てならない、とぐいっとケイちゃんに寄る。


「くわしく」


「……話す必要ある?」


「くわしく!!」


「近いなぁ……」


「観念して話したほうがいいよ、オレだって気になるし」


「別に、ただ単に家族と折り合いがつかなくて家出してるの……それだけ」


「……家族、仲悪いです?」


 そう言いながら麻子ちゃんはちゃぶ台の上のポテチをパーティ開けする。腰を据えて話をする気マックスである。


「直球ね……ええそうよ、ふん、家族が円満なのが普通だとは思わない事ね」


 家族の問題にはオレも流石に入っていけない。どこまでもいっても個人の家庭の話だしな。


「……そこらへんの事情はおいおい話してくれたらいいさ」


 オレはそれだけ伝えると、ケイちゃんはふいっとオレから視線を逸らす。


「で、どうしようかな。麻子ちゃんは今、オレの家にいる事になってるんだ。ケイちゃんもそうする?」


「は? えー……そっか、もう二人はそういう関係なんだ。最低ね、おじさん。相手は十五歳よ?」


「話が飛躍してんだよな……」


「そういうの流行ってるものね。男ってどうしてそう家出少女を保護したがるのかしらね」


「やめろよどうしてそういう事言うの!? 少なくともこの物騒な状況で麻子ちゃんを一人にするのはダメだろ。円卓騎士に対しては警察も軍隊も役に立たないんだから」


「はいはいそういう都合の良い設定があってよかったわね? それで毎晩毎晩そこのアホの巨乳とお楽しみな訳ね?」


「ケイちゃんのほうがおっぱい大きいです!」


「ツッコミの角度が違うわよ!? なにこいつ!」


 オレは思いきり反論したくなったが……気持ちを落ち着かせるために緑茶を啜った。


「ケイちゃん、あたしと一緒にいたほうがいいです。もしケイちゃんが家に帰って、残った敵の円卓騎士さんに襲われちゃったら、家族を傷つけちゃうかも」


「……適当にネカフェで寝るわよ」


「ケイちゃん。相手が手段を選ばなかったとしたら、たくさんの人を傷つける事になるよ。オレの家なら他の家までそこそこ離れてるし……被害は少ないはずなんだ」


 ……ぐ、とケイちゃんは自分の身体を抱きしめる。だからそれやめろ、おぱーいが強調されるのよそれ。


「……私は別に、泊めてもらったお礼とかするつもりは無いわよ」


「エロ漫画の読み過ぎだよね?」


「どうせアンタら毎晩毎晩……!」


「やめなさいよ! ちょっと想像しちゃうでしょ!!」


 バトル続きで意識してる暇もなかったけれど、麻子ちゃんは相当に可愛い女の子なのだ。ケイちゃんがイレギュラーサイズなだけで、麻子ちゃんだってかなり大きいのだ。何が大きいかの主語はあえて省略しておくけれど。

 ベージュのくるくるした可愛らしい髪に、喜怒哀楽が可愛らしくよく分かる大きな蒼い瞳。『ししょー』とオレを慕う甘く高い声。

 ……麻子ちゃん、めっちゃ可愛いのだ。正直ドキドキする。三〇歳が、十五歳に。


「はいはい……ま、私も助かるっちゃ助かるのよね。今まではガヴェイン卿……聖義さんが色々用意してくれてたから私もなんとかなってたんだけれど、それももう無いし」


「ガヴェイン卿が助けてくれたんだ」


「聖義さん、かなり有名な魔法使いなんだって。色々バックアップしてくれる人達が多くいるみたいだった」


「なるほどな」


 なんせ勝利すれば何でも願いを一つ叶えてくれるのだ。組織としてガヴェイン卿をバックアップしたとして、なんらおかしくはない。

 この戦いの終わりに願いを叶える……という事に関しては、オレはもう今は正直信じていない。魔凛の事だから『そんな事言ったっけ? ごめんね♪』と言われそうだから。


「……グダグダ言っても、今、私はお金無いのよね」


「お、おお……そうなんだ……お小遣いあげようか……?」


「おいおっさん。そういうとこやぞ」


「……はっ! そうか、そういう事か! いやごめんね! 下心っていうか……若いもんがひもじい思いするの、すげー嫌な気分になるんだよ、おっさんになると!」


「なにそれ」


 ……自分でも分からないけれど、そういうものなのだ。おっさんというのは。おっさんという単語を否定したいが、今この状況ではオレは自身のおっさんっぷりを認めざる終えない。


「お金はいらない。お金を貰ったら、絶対エッチな事されるから」


「そ、そんな事……」


 しないかもしれないし、するかもしれない。オレはオレの理性をそこまで信頼はしていないし。

 うーん、だって……褐色ロリ爆乳ツインテメスガキだよ……? いやそんな、エロ漫画みたいな属性で女の子を語るのは人として最低な事だと思っているけれど、でもオレはオレの事最低人間だって自覚はある訳ですし……

 何らかの弾みでそういう事になる可能性だって、否定はできないじゃん? だったらその、オレはその可能性を大事にしてあげたい。


「大丈夫です! ししょーはエッチな事しませんから! あたしにも全然しませんでした!」


 ぺかー、と平和な笑顔で麻子ちゃんはオレの煩悩懊悩を引き千切る。何か本当にごめんね。


「ああそう……その様子だと嘘は無いようね、分かった、分かったわよ。しばらくここにいればいいんでしょ」


「ああ、その方がいいと思う。その、周囲を巻き込んで後味の悪い事にはなりたくないし」


 オレがちょっと真面目にそう言うと、ケイちゃんは黙って頷いてくれたのであった。


「……さて、ししょー! お昼ご飯食べませんか!」


 ポテチをむしゃむしゃしながら麻子ちゃんは言う。よく食べる事は良い事だ。


「そうだね、お腹減ったな……」


 メスガキをわからせていたら朝ご飯を食べ損ねていたみたいだった。


「何か食べる? 食材あったかな……」


「カップ麺とかないの? お金出すから、それ食べさせて」


「ケイちゃん……」


 現代っ子だな。


「ご飯はパワーの元です! 適当ご飯だと適当パワーになります!」


「なによそれ、意味わかんない」


 反抗期真っ盛りのケイちゃん。でも、おじさんとしてもあんまり若い衆に適当なものでお腹いっぱいにしてほしく無い訳で。


「ちゃんとご飯作ろうか。えーっと、冷蔵庫に何か……」


 ……と言っても、最近はバトル続きで買い物に行く暇が無かったのだ。冷蔵庫を開けても、ほぼほぼ酒しか入っていない。


「何が出るかな、何が出るかな……」


 冷凍庫を漁る。がさごそ……奥の方までひっくり返すと、豚肉の特大パックがゴロっと出てきた。おそらく晩酌の後、酔っ払ったままスーパーに行って買って来たのだろう。こういう事がよくあるのだ。


「生姜焼きでも作るかー」


「生姜焼き! ししょー! いいですね!」


 見えないけれど、多分尻尾をぶんぶん振りながら麻子ちゃんがオレの回りを回る。


「……ふむ」


 ……オレなりに、ケイちゃんとコミュニケーションをとってみようかな。


「ケイちゃん、ご飯炊いてくれる?」


「え」


「ご飯、みんなで食べるから三合ぐらい炊いてほしいな」


 オレがそう言うと、珍しくケイちゃんは恥ずかしそうな顔をする。


「………………炊き方、わかんない」


 マジか、と言おうとして、オレは言葉を飲み込んだ。

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