第21話『次々と出てくる後出しの新ルール』
「慣れ合いはこれで終わりよね? それで、私はずっとこのまま正座をしていればいいの?」
いちいち突っかかるような言動にイラっとする……なんか、闇が深そうな子だなぁ。
「えっと、良かったら、モードレッドさんの事とか、今までの事とかを話してくれたら……」
「オレからもお願い。正直、この双極円卓大魔法陣の状況が掴めてないんだ」
「……話せば、もうさっきのナゾの力を使わない? っていうか、何あれ……」
「しないよ。……まぁあれは必殺技……的な?」
オレを不審そうな目で見ながら、ケイちゃんは深くため息をつき……オレ達に今までの事を話し始める。
「……まず、私は魔法使いじゃない。魔凛に選ばれて双極円卓大魔法陣に巻き込まれた一般人よ」
「その割にはノリノリでは……?」
「う、うるさいわね。適応能力が高いだけよ……ふん。で、私の円卓因子――ケイは正直あんまり強い円卓因子じゃないらしいのよね」
「ししょー、アーサー王伝説のケイって知ってますか?」
「んー……名前だけって感じかな……ゲームによく出てくるのはアーサー、ランスロット、ガヴェインの三人だよね」
その三人はよくソシャゲーで出没するような有名な円卓騎士。日本でオタク的な事に興味がある人なら、まず間違いなく名前は聞いたことがあるはず。
……あと、全然関係無いけどオーディン、ヴァルキリー、ロキ、ゼウス、ポセイドン……フリー素材の如く神話から引用されるキャラクターは多い。それと並べてもよく聞く有名なのが、さっき言った三人の円卓騎士だ。
「話、続けていい? よく分んないけどハズレを掴まされた私は、その代わりと言っては何だけれど、魔凛から色々双極円卓大魔法陣の情報を貰う事ができたの」
「ずっる」
「何でも、アーサー王伝説のケイっていうのは、とにかく口が悪くて小言の多い奴だったらしいの。魔凛的には私に、ハリウッド映画のお喋り黒人枠になってほしかったんじゃない?」
「トリックスター的な、話を盛り上げる為の役回りかな」
「私が魔凛から与えられたのは、それぞれの円卓騎士の円卓心機の性能や能力……といっても、全員分完璧にって訳じゃないわ。魔凛的にテンションが上がるように、色々考えて私に情報を与えたんでしょうね」
……不公平な感じはすごくするが、大前提としてこの双極円卓大魔法陣は公平なルールがある訳ではない。オレは何も言わず黙っておく。
「例えば、アンタの円卓心機……必中必滅フェイルノート、よね? どんな撃ち方をしても、遮蔽物を避けて必ず相手に当たる必中の弓……正解でしょ」
「……多分?」
魔眼があるから一度も使ったことはないけれども、それでいいはずだ。
「何その返事……まぁいいわ。それで私はモードレッド卿の円卓心機の性能を見て、彼女をこっちの陣営に引き込むことに決めたのよ」
「どうして?」
「モードレッド卿の円卓心機は『精霊加護クラレント』。自身の精神力を犠牲にして、隣接する円卓騎士の傷を癒す……それが彼女の表向きの円卓心機の性能」
「それは大体知ってる、聞いた」
「で、ここからは新ルールなんだけど……円卓心機には特定状況下に置いて性能が変化する場合があるのよ」
「げ」
後出しの新ルールである、むむ、こういうのはよくないぞ。
「『精霊加護クラレント』は『不義敗刃クラレント』という円卓心機となる事もできるの。そしてその効果は……『アーサー王のみを一撃で仕留める事ができる』」
「えっ」
麻子ちゃんが驚く。今までは特定の円卓騎士に対しての属性とか特攻とか、そういう話は一切無かった……はず。
「あー、なるほど……アーサー王伝説っていうのは、確か、アーサー王がモードレッド卿の一撃を受け、その傷を癒すためにアヴァロンに旅立って終わる話だっけ」
アヴァロン。アーサー王伝説に出てくる伝説の島の事。アーサー王が眠る、物語の終末の地である。
「私も興味無いから知らないけど……ま、だから魔凛は原作からアイディアを得て、モードレッド卿にそういう意地悪な円卓心機を与えたんじゃないかしら」
そうケイ卿はくだらなさそうに言って、話を続ける。
「『不義敗刃クラレント』には問題があるの。アーサー王に対する反則じみた特攻の代償っていうか……まぁ、発動から一時間後に円卓心機は消滅しちゃうみたいね」
「使い勝手悪すぎるな」
「で、私はモードレッド卿に魔凛を通じて全てを話した。『貴方が裏切り、貴方が最後の局面でアーサー王を討ち取れば、この双極円卓大魔法陣は簡単に終わる事が出来る』って」
「えー……そう上手くいくかな……」
「どっちが楽で確実かって話よ。どうなるか分からないゲームの中で、条件さえ揃えば簡単に絶対に勝てる武器が自分にあるのなら、それを使ってみたいと思うでしょ」
暁陣営から宵闇陣営にモードレッド卿が寝返れば、五対七。それにアーサー王を最終盤で確殺すれば、四対七。
自分にどうしても叶えたい願いがあるのであれば、なるほど確かにモードレッド卿がケイ卿の話に乗るのも頷ける話だ。
正々堂々。やあやあ我こそは。なんて言って負けてしまったらそこで終わりなんだ。誉れでメシは食えないのだ。
「それで、あの港での夜までの流れは説明するまでもないわよね? 私とモードレッド卿は連絡を取り合った状態で、ガヴェインが全力でガラディーンを振るえる状況と時間を揃えた……そんな感じよ」
「……モードレッドさん……」
麻子ちゃんはモードレッドの名を呼ぶ……そりゃ、ムカつくよな。最初からオレ達を騙す為に合流させたって事なんだから。
モードレッド卿が比較的軽傷で済んだのも、あらかじめガラディーンが発動する事が分かっていて、ガヴェインもある程度手心を加えたのだろう。
史実や神話をディスるつもりはないけれど……大体モードレッドとかロキがやらかすんだよな! あいつら本当になんなの! ユダポジの奴!
「モードレッド卿……ゆるすまじ……」
「ししょー、可哀想です。誰でもそんな変な武器を持ってたら……そうするしかないですよね……」
「え、麻子ちゃん?」
「あたしがモードレッドさんのクラレントを持っていたら、きっと同じ事をしていたと思います。悲しいですけど……」
麻子ちゃんは真っ直ぐな瞳で俺を見た。
「だから、ししょーも、モードレッドさんの事、悪く思わないであげてください。悪い人なんて誰もいない、そう信じたいです」
「……理屈は通ってるかもしれないけど、感情的に納得できないよ」
「悪いのはクラレントです。ね、ししょー?」
圧。麻子ちゃんはにっこりと、有無を言わさないかのようにオレをじっと見つめた。
なんていうか、麻子ちゃんらしかった。でも、オレの心も少しだけ楽になった。確かに面と向かって誰かを憎んでしまうより、そうさせてしまったルールや法則の問題点を見つめた方がいいかもしれない。
……仕事だってそうだな。『あいつのせいで』とか『あいつのチェックミス』で、なんて犯人捜しより、システムやルールの見直しをしたほうが遥かに健全だ。
『あいつのせいで』なんて考えるのは非常に不健康だ。
「偉いなぁ、麻子ちゃんは」
そういう考えに至っているのかどうかは知らないけれど、麻子ちゃんの信じる心はとても尊い事のように思えた。
「あ、あたしは、その……そう考える方が、楽だから……」
「ううん、麻子ちゃんらしくていいと思う」
「……なにこの空気」
師匠と弟子でいい雰囲気になっていると、不機嫌そうにケイちゃんがそう呟いた。
「大体、答え合わせはこんな感じなんだけれど……それで、この後はどうするの?」
「残りの円卓騎士はガヴェイン卿とベイリン卿の二人だよな」
「正直、訳も分からずやられちゃった私からすると、あとはもう消化試合なんじゃないの? アンタのチート使って無双して、残る二人もアヘアヘさせたら終わりじゃない」
「そ、そんな簡単に……!」
……いきそうでは、あるけど! 実際さっきもできたし!
「…………まぁ、残りの戦いに関しては消化試合かもしれないけどさ? 魔凛が双極円卓大魔法陣をこのまますんなり終わらせてくれるって思う?」
「……それは、そうね。正直今の所、神様が楽しんでくれそうな派手なバトルシーンって一回も無かったような」
ベイリン卿、モードレッド卿、ケイちゃんの三人から麻子ちゃんを助けた時も、バトルというか一方的に魔眼使っただけだし。
「あの魔凛が満足できるか……それはもう分かんないわ。で、私の事はどうするつもり?」
生意気に不機嫌そうな顔で、ケイ卿は俺を睨みつける。
「あんたにとってあたしみたいなクソ雑魚円卓騎士なんて役に立たないわよね? どうする? 縛り付けて牢屋にでも入れておく?」
ヤケクソ気味にケイちゃんがそう言う。
「縛っても、押し入れに閉じ込めても、円卓騎士の力で逃げる事ぐらいはできるだろ」
それに残念ながらオレはフリーに使える牢屋をお持ちでない。月額何円か払えば何処かに借りられたりするんだろうか? サブスク牢屋。
「それに、オレも麻子ちゃんも普通の人なんだから、人を捕まえて閉じ込めておくなんて罪悪感があるからやりたくない」
「じゃ、どうするのよ」
ケイちゃんが自身の腕を抱く。麻子ちゃんよりも大きい胸が腕に食い込み、なんとも言えないエッチさを醸し出す。
「ご、ごほん……オレの目のつくところにいてくれれば」
「…………監禁する気?」
「もっと緩い感じの監禁といいますか……軟禁……?」
……監禁と軟禁の意味の違いは、正確には分からんが。
「あたしはケイちゃんが一緒に戦ってくれれば嬉しいです!」
「……さっきまで逃げようとしてた奴の事、信頼するの?」
それに関しては、オレもケイちゃんと同意見だ。ケイちゃんが裏切らない理由が無い。
でも、それじゃ話が前に進まないな。
「深くは聞かないけれど、ケイちゃんだって叶えたい何かがあるんだろ。双極円卓大魔法陣に勝ちたい……それは間違い無いよな」
「……まぁ」
「それなら、オレ達と一緒に居た方がいいって言うのは分るよな? オレは例え百人の円卓騎士が相手でも勝てるぐらいのチートがあるんだ」
……ちょっと盛った。同時に来られたら危ないかも。
「オレ達の利害は一致してると思う。モードレッド卿の件に関しては、モードレッド卿を裏切らせて、そう立ち回るのが一番安定して勝てるだろうって判断しての事……だろ」
だったら、とオレはケイちゃんに手を伸ばす。
「オレは強い。だからオレと同じ陣営にいるのが一番だ……オレの事、敵にしたくないだろ?」
滅茶苦茶に格好つけて、オレはケイちゃんに笑いかける。これぐらいのハッタリをぶつけないと、ケイちゃんだって覚悟が決まらないだろう。
オレがケイちゃんなら、訳も分からない、前触れも無く自分を絶頂させてくるチートを使うような奴を敵に回す事はしないだろう。
本当なら仲間の絆を深めて仲間になってほしかった、キズナエピソード的な個別エピソードがあればよかったんだろうけど(読破報酬で石を貰えるタイプの)現実にそんなの無い訳で。
「…………はぁ、アンタの事だけは絶対敵に回したくないのよね……くぅ……」
ケイちゃんは正座を解き、片膝をついて……オレの手を握った。今の落としどころとしてはこんな感じだろう。
すっ……とその上から麻子ちゃんの手が乗せられる。
「えへへ、じゃあこの三人で……最後まで戦い抜きましょうね!」
「おう、こんなバカげた戦い、さっさと終わらせて日常に戻ろう」
「……こういうの、苦手なんだけど」
じとっとした目を浮かべてケイちゃんはオレ達二人を見る。
「円卓騎士~~~~~ふぁい、おーーーーっ!!」
「お、おーーーーーーっ!!」
「何よそれ……ぷっ」
突然の掛け声に、ケイちゃんとオレは思わず苦笑するのであった。
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